忘年会シーズンに突入した外食業界。冬と言えば鍋というイメージがあるなか、約30年前から定番化した「しゃぶしゃぶ食べ放題」。焼肉・しゃぶしゃぶの両方を提供する焼肉店も多いが、焼肉と違い、脂を洗い落とすしゃぶしゃぶは肉の追加量が格段に多い。
だから、店側も原価の高い肉の追加量の抑制に工夫が必要だ。しかし、原価対策も過剰になると顧客満足度が低下するものだ。そういったトレードオフという両立できない関係がある以上、そのサジ加減が難しいのが食べ放題の特性だ。そんななかで人気を集める、すかいらーく傘下の「しゃぶ葉」について分析したい。
◆顧客提供価値が高いしゃぶ葉
最近は輸入牛の価格高騰から、肉以外のメニュー(前菜・刺身・揚げ物・焼き物・煮物・サラダ・麺飯類など)も食べ放題にし、価格も高めにした店が主流だ。
商品戦略では、肉以外のメニューも食べ放題にして色々食べられるようにして原価率の高い肉の追加注文を抑え、原価を圧迫させずお腹を満たしてもらうところも多い。低原価商品に追加注文が分散すれば、お客さんの満腹感と満足感を充足し、店側も原価低減に繋がる。
そういった市場環境の中で、若者世代をターゲットに選定し、提供価値をシンプルにした分、来店しやすいように低価格にして人気を集めるのがしゃぶ葉である。
外食売上3位のすかいらーくグループは現在28ブランド3049店舗(2024年10月末日)を有し、ガスト、バーミヤン、しゃぶ葉、ジョナサン、夢庵の上位5ブランドで総店舗数の73%を占める。全店舗が直営のファミレスチェーンだ。
◆絶好調のしゃぶ葉!冬場に向けて注目か
しゃぶ葉の強みは何といっても価格の安さと、その割に内容が充実しているところである。物価高で節約志向が高まるなか、外食になかなか行けないのが実情だが、しゃぶ葉ではゆったりと落ち着いた空間で、コスパ最強のしゃぶしゃぶが堪能できる。
現に、しゃぶ葉は「低価格の割に中身が充実している」とヤングファミリーや若者を中心に人気を集めている。今年1月には279店舗だったのは、10月には16店舗も新規に出店して現在(2024年10月時点)は295店と、グループ内でも著しく店舗数を増やしている。
あれだけ安く肉も野菜も食べ放題にできるのは、やはりすかいらーく約3100店のスケールメリットとグローバルネットワークを活かした調達を実現できているからだ。グループ内の店舗数の増減を見ても、成長業態だけに経営資源の配分度合いも高い。
すかいらーくではグループ内のカニバリゼーションを解消し、衰退業態を成長業態に転換し、業態の再配置でグループ全体の最適化を目指している。もちろん、ブランドポートフォリオも成長性や収益性から適切に管理しているようだ。
◆店としてリスクがあるのではと心配
安価な食べ放題として業界内でも存在感を増しているしゃぶ葉。豚バラしゃぶ(1979円、価格は平日ディナー)、豚しゃぶ(2309円)、牛&豚しゃぶ(2749円)、国産牛しゃぶ(3849円)などのコースがある。ちなみに現在、平日ディナー限定で、豚しゃぶ+寿司の食べ放題+飲み放題の「宴会コース」が1人3000円で、しかも、3時間と食事時間も長い。
若い男女のグループ客に人気で、店は賑やかだ。このプランは家族客にも最適で、就学前のお子さんは無料となっており、小さなお子様連れのご家族には最高だと思う。野菜バーを見るとレタスやポテトサラダなどもあり、サラダとしても食べられる。しゃぶしゃぶの薬味やタレ関係もバリエーション豊かに揃えてある。
フードバー、デザートバー、ドリンクバーのコーナーは混雑し、子供たちが賑やかで落ち着かない面もあるが、これだけ安く食べられる分、仕方ないか。
学生食べ放題も販売しており、中学生から大学生(専門学校生含む)を対象に豚コースを2000円、牛コースを2500円で販売している(一部店舗除く)。食べ盛りの若者にこの低価格の食べ放題を提供するのは、店としてリスクがあるのではと心配するくらいだ。ラムしゃぶフェア、アヒージョだし、黒豚しゃぶなど多彩なメニューがある。
◆どこまで店が損するかの大判振る舞い
ランチタイムも人気だ。平日の食べ放題には牛&豚しゃぶコース(2089円)、豚バラコース(1539円)もあり、ゆったりとした席で食べまくる人たちには最適なコースだ。昼間は夜と違いお酒を飲まないから、しっかりお肉を食べて満足して帰る人が多い。
食べ放題ではなく、豚肉皿3枚付きのセットは1319円で野菜バーやカレー、うどん、デザートも食べ放題だ。1人でも気兼ねなしに食べられるのも魅力のひとつで、孤食が増える中では最適な選択肢だろう。
アルコール飲み放題も自動生ビールサーバーや各種サーバが多数用意され、酒飲みのお父さん連中は大喜びだ。この物価高のなか、これだけ安く食べて飲めるのはありがたい店である。
お肉は店に気を使わずに好きなだけタッチパネルで注文し、その他の野菜関係やうどん・カレー・デザートなどは料理卓に各自が取りに行くようになっている。店側は、安く提供するためにお肉やお寿司の提供は配膳ロボットをフル稼働だ。厨房も含めて少人数の店員で対応しているとはいえ、利益を出すのは大変とは思う。
◆ワンランク上のしゃぶしゃぶ温野菜
コロワイド傘下のレインズが展開する温野菜も客層が異なるが人気のしゃぶしゃぶ食べ放題店だ。焼肉食べ放題「牛角」としゃぶしゃぶ食べ放題「温野菜」を展開するレインズ・インターナショナル。親会社のコロワイドは、多業態戦略をM&Aを通じて積極的に展開する外食大手である。
牛角は、825店舗を展開する世界最大の焼肉チェーン店だ。その営業基盤と食肉関係の調達力など豊富な経営資源を活用できるから、しゃぶしゃぶ食べ放題店を多店舗展開できるのであり、ここがレインズの強みである。温野菜は現在217店舗(2024年9月時点)で店舗数は業界2位である。
焼肉食べ放題は1位、しゃぶしゃぶ食べ放題は2位と、共に業界の中心となるチェーン店であり、ブランド力の高さは相当である。
◆しゃぶ葉とは違いがはっきりと
落ち着いた雰囲気でほぼフルサービスでの提供を受けながら、質的・量的満足を求めたいなら、ワンランク上のしゃぶしゃぶ温野菜の食べ放題プランもいいだろう。サービス機能を絞り、セルフサービスのウェートを高めながら、その分を安価な価格にしているしゃぶ葉とは違いがはっきりしている。
価格で選ぶなら、コスパ最強と評されるしゃぶ葉で大満足だが、通常の接待やグループ会食では温野菜を選定される人は多いだろう。
通常提供されている各プランの上下価格帯をしゃぶ葉と温野菜を比較すると、温野菜のほうが単価が1500〜2500円高い。年齢層も高くなっており、忘年会など宴会の客層も落ち着いた年齢の人が多い。通常の基本メニューはしゃぶ葉が1979〜4069円で、温野菜が3498円〜6578円だ。温野菜は逸品料理も60品目が食べ放題になっているから中身が充実した分、価格差があるのは仕方ないか。
食べ放題店は単に肉の品質や鮮度だけでなく、食べ放題プランにあるメインのお肉以外の逸品料理、サラダ、麺飯類などの優劣で店のレベルが分かる。温野菜は60品目の逸品料理の食べ放題にも自信を持っている。それもそのはず、コロワイドの祖業は居酒屋で、グループ内に居酒屋業態を複数有し、ノウハウが十分にあるのから強いはずだ。
◆中間価格帯から高価格帯の品揃えが充実
温野菜のメニューは、お肉に強みがあるだけでなく、前述したように、逸品メニューの質の高さにも定評があり、しかも食べ放題というのが魅力的である。
選べるだしは7種類。コースの種類と価格は、温野菜コース(3828円)がメインで、三元豚コース(3498円)、たんしゃぶ(4158円)、黒毛和牛(5478円)、霜降り黒毛和牛コース(6578円)と中間価格帯から高価格帯の品揃えが充実しており、カニしゃぶ(ずわい蟹2本)付きの黒毛和牛食べ放題コースも7458円の、6358円の2種類が用意されている。
量は食べれないが質の高いしゃぶしゃぶを求めるご年配のお客様には、カニしゃぶ付き黒毛和牛御膳を「霜降り黒毛和牛」(4158円)と「黒毛和牛」(3608円)が用意されており選択肢も多い。全コース共通の食べ放題コースとして前菜(7種類)、逸品料理(6種類)、サラダ(3種類)、麺飯類(8種類)、国産野菜(16種類)、鍋肴(8種類)、デザートは9種類の中から1つ選ぶことになっている。
アルコール飲み放題プランも1628円とリーズナブルだ。期間限定だが、鴨しゃぶ(4378円)も開催中で、ランチメニューも食べ放題や御膳が用意されている。
◆しゃぶしゃぶ食べ放題の差別化戦略
しゃぶしゃぶ温野菜(レインズインターナショナル)など、ワンランク上の食べ放題店とは一線を画し、若者世代をターゲットに、低価格のしゃぶしゃぶ食べ放題を提供するしゃぶ葉。
価格帯・客層・品質から自店の市場に於けるポジショニング分析を見ると分かりやすく、他店とは明確な差別化を図り、立ち位置が異なっているのが明白だ。
外食市場が縮小傾向にある現在、市場シェアを高めるための競争がより激化していくことが推察される。今後はより一層工夫して、顧客ニーズに合致した業態を創造していく知恵が求められる。顧客価値の創造に向け各社の戦略を見ていきたい。
<TEXT/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan