孫泰蔵氏らが自治体を変えるXinobiAI設立 AIエージェントを最速で実現

0

2024年12月15日 17:41  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

XinobiAIの孫泰蔵氏(左)と馬渕邦美氏

 生成AIの進化が目覚ましく、人間が命令したことは何でもやってくれる「AIエージェント」が2025年には登場してきそうだ。これまでの生成AIは「何かについて教えてください」と検索や質問をすると、即座に返事が返ってきていたものの、答えの実行まではしてくれなかった。一方AIエージェントは検索、質問の返事をするだけでなく、手続きの申請や問題の解決までやってくれる。


【その他の画像】


 こうしたプロダクトを世界最速で実現しようと、孫泰蔵氏、馬渕邦美氏は共同代表CEOとしてAIスタートアップ「XinobiAI」(シノビエーアイ)を12月5日に創立。東京都内で記者会見をした。孫共同代表は「まだ世界でどの企業もできていないAIエージェントを、来年中には実装させたい。これが達成できれば、行政を含めて人手不足の解消に大きく貢献し、社会を根本から変えることができます」(孫共同代表)と話し、実現に強い意欲をみせた。孫・馬渕共同代表に今後の展望をインタビューした。


●孫泰蔵氏「行政手続きをなくしたい」 真意は?


 孫共同代表は「行政手続きをなくしたい」と意気込む。


 例えば引っ越しをしたときに、住民票や健康保険証などは異動届けを出して住所を変更しなければならない。これまでの生成AIならば「引っ越しの際に、どういう手続きが必要か」と質問すると「住民票の異動届などは、市役所の何番窓口に行って手続きをしてください」とは答えてくれるものの、異動届までは出してくれなかった。しかし、AIエージェントが実装されていれば、これが画期的に変わる。


 孫共同代表は「『手続きもよろしく』と言っておくと、全てAIが自発的に異動届まで出しておいてくれるので、文字通り『エージェント』になるわけです」と説明した。ただし、その自治体のデジタルシステム対応ができていることが前提になる。


 新幹線の切符の予約などは、自分が乗りたい時間帯の切符が取れるかどうかを検索したら、切符の購入までしてくれる。まさに優秀な秘書がいるのと同じになるのだ。こうしたことが全て音声対応でできるので、いちいちキーボードを打つ必要がなくなる。


 孫共同代表は「行政は手続きの集合体です。自治体にAIエージェントが導入されれば、公務員の働き方は大きく変わり、面倒な手続き業務から開放されて、住民に寄り添う本来の仕事ができます。学校の教員も雑務をしなくてよくなります」と話す。行政自治体への実装に期待を寄せている。


 馬渕共同代表は昔と現在のAIの違いについて「これまでのAIは道筋を立ててやらなければ動きませんでした。今度のAIは一度音声で指示したら、後は自分で考えて自動的に進んでいくので、圧倒的に使い勝手が良くなっています。自然言語で普通に話しかけるだけで動かせるので、専門家でなくても簡単に操作できます」と指摘する。


●新潟県三条市が導入へ


 自治体にフォーカスした理由について馬渕共同代表は以下のように強調する。


 「人手と資金不足によって、新しいサービスは何もできないと言っている自治体の人たちに、このAIエージェントの便利さを実感してもらうのが一番良いと思っています。最初に地方の自治体に使ってもらいたいと考えています。人手不足は自治体にとって切実な課題なので、導入のチャンスです」


 こうした動きの中で、新潟県三条市(人口9万1000人)が2025年にはAIエージェントを導入しようと、既にXinobiAIの担当者と話し合いを始めているという。


 導入に向けて中心的役割を担っているのが2023年4月に経済産業省のキャリア職から三条市の副市長に就任した上田泰成氏(32歳)だ。この日の会見にオンラインで参加し「職員の数が減る中で、業務は複雑化、多様化してきています。XinobiAIとは、どうしたら職員の業務軽減になるかを検討していきたいです。例えば市民からの電話対応などは、ほとんどはWebサイトを検索すれば分かることですが、全てに答えていると本来の業務ができなくなります。このためWebサイトにAIエージェントの表示があり、それをクリックすれば自動的に答えてくれるようになれば、電話対応の負担が減る」と話した。


 馬渕共同代表は「自治体で1カ所でも成功事例が生まれれば、いろいろな自治体が組み合わせて使える。AIエージェントを組み合わせればオーケストラのようになり、より高性能のシステムを創れます」と話す。自分の自治体ではできなくても、隣の自治体でそのサービスができないかどうかもAIが調べ、可能なら隣の自治体のAIエージェントにやってもらうような広域自治体による連携サービスも可能になってくる。


●「たらい回しがなくなる」


 これまではお困りごとの相談などで「うち(の自治体)ではできないので、他を当たってください」と自治体の担当者から言われ、たらい回しされることが多かった。AIエージェントが広がってくれば、孫共同代表は「最初から最適な所を紹介して手続きもしてくれるので、たらい回しされることもなくなります」と話す。


 病院に行く場合も、最適な病院が見つからずにたらい回しされることがあった。馬渕共同代表は「AIエージェントがあれば、かかっていたいくつかの病院のカルテも統合してくれて、今の病状から考えられる最適な病院を見つけて紹介してくれる。その病院までのタクシーの送り迎えの手配までしてくれる」と語る。AIの進化により、至れり尽くせりになる時代が来るのだ。


●採用による人材獲得は難しい


 AIエージェントを巡っていま、世界中の企業が技術的な競争を展開している。これに勝ち抜くために必要なのは、優秀な人材を集めるしかない。人材獲得について孫共同代表は以下のように指摘した。


 「彼ら(優秀な人材)はなかなか(従来のような)採用はされないです。その会社が何を目指そうとして、どのようなビジョンを持っているかを重視していて、人との縁がポイントになります。来てほしい会社がユニークさと現実的な対応の両方を備えていないと、なかなか来てくれません。トップエンジニアを雇うのは難しく、プロジェクトごとに参加してもらう形が多くなっています。このため、これからは従業員数の多さを誇るのではなく、従業員数の少なさを自慢するようになるのではないでしょうか」


 プロジェクトごとに優秀なエンジニアの知恵を借りて、必要とするプロダクトができたら、その対価を支払う。こうした一定の期間限定でトップエンジニアに協力してもらう方が、会社にとっても雇用契約を結ぶよりシンプルな関係のため好都合になってきている。エンジニアにとっても、雇用関係を締結して一社だけの開発に関わるよりも、多方面の複数の開発に関与した方が、自分のスキルアップにつながるとみているという。


 最新のAI技術を発信しているシリコンバレーでは、こうした関与の仕方が一般的になってきているようで、日本でも広がってきそうだ。


●子どもの将来に期待


 孫共同代表は、デジタル技術を当たり前のように身に着けた将来の子どもの成長に大いに期待している。


 「これからは先入観のない子どもたちは、AIをあっという間の使いこなすようになると思います。こうした子どもたちが成長して、社会のある一定量になると、社会は本当に根本から変わると思います」


 XinobiAIの話を聞いていると、日本の直面している最大の課題である人手不足解消にAIが役立つ時代が来そうな予感がした。これまでAIの活用については、便利さは分かっていても、どのように使えばよいか理解するのが難しかった。そのため導入が遅れ気味で、生成AIの普及が足踏みしていた。


 この難題を打開して、普及を加速してくれそうなのが、文字通り秘書の役割をしてくれるAIエージェントだ。これが実装されれば、AIやデジタルに詳しくなくても、普通に音声で要求すれば、すぐに答えを実行してくれる超便利な世の中になる。世界でも有数のAIエンジニアを集めたXinobiAIが、2025年中にどこまでAIエージェントを創造できるか、注目したい。


(中西享、アイティメディア今野大一)



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定