【ビーチバレー】なぜ、出産半年後に渡米?元日本代表・草野歩さんの挑戦/インタビュー前編

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2024年12月16日 06:01  日刊スポーツ

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渡米前、笑顔を見せる草野歩さん(パソナグループ提供)

なぜ、出産から約半年後に海を渡るのか−。


ビーチバレーボール女子元日本代表の草野歩さん(39)が11月、競技の本場として知られる米ロサンゼルスへ旅立った。夫、4月に出産した第1子の長女と家族の時間を過ごしながら、現地で2年間にわたってコーチングのスキルアップを目指す。


現役時代は五輪出場を目指し、引退後はパソナグループのアスリートコーチ社員として活動。日本オリンピック委員会(JOC)のナショナルコーチとして、アンダー世代のヘッドコーチを歴任してきた。


このほど出発前にインタビューに応じ、周囲も驚く渡米に至った経緯を明かした。【取材・構成=松本航、勝部晃多】


◇   ◇   ◇  


−今回、米国を学びの場とした理由を教えてください


そもそもアメリカは世界でもトップレベルの選手が多くいて、ビーチバレーボールでのメダルの数も女子で一番多い国です。オフシーズン、トップ選手はみんなロスで合宿をします。アメリカのプロツアー「AVP」に各国のトップ選手も参加して、ビーチバレーボールといえば、ブラジルのリオデジャネイロかロスか、という場所です。ロスにした理由はジュニアからシニアへのパスウェイが、よりしっかりしているように見えるからです。本当にしっかりしているのかは、まだ分からないですが、クラブチームから大学、プロ。そしてメダリストへとなっていく。アメリカというものを私が肌で感じて、日本でもうまく活用できればいいな…と思ったのが、きっかけでした。


−米国行きが実現した経緯を教えてください


今回は日本オリンピック委員会(JOC)の研修制度で行かせていただきます。きっかけは日本の強化に2年間携わって「もっとできることがあるんじゃないか」と思ったことです。去年(2023年)の夏ごろに「何かできないかな」と思い、日本バレーボール協会に「海外研修で学びたい」と志願しました。バレーボールからはインドアも含めて1人だったのですが、幸いにも立候補ができました。日本バレーボール協会の方にも協力してもらいながら、米国にコンタクトを取って、私も知り合いをつたって連絡を取りました。そうしてクラブチームの「マンハッタンビーチサンド」に行くことが決まりました。


−どのようなチームですか


10歳から17歳の選手を男女で受け入れていて、このチームにはインドアもあります。一番いいのは2人のコーチがナショナルチームの指導もしていて、その点も魅力的でした。


−どのような日々にしたいですか


クラブチームで現場のコーチングを勉強させてもらいながら、合間にナショナルチームの練習に行かせてもらったり、さまざまな現場で意見を聞かせてもらいたいと考えています。


−昨夏から渡米の準備をスタートさせて、この春に出産。実際に渡米するにあたり、ハードルにはなりませんでしたか


妊娠は研修に向けた準備を進めている時に分かりました。子どもが生まれても、迷いはなかったです。夫もビーチバレーボール関係者なので、ロスがすごくいい場所ということも知っていましたし、反対はありませんでした。去年までは日本体育大学において、スポーツ庁委託事業女性エリートコーチ育成プログラムで、女性コーチ育成の勉強をさせてもらっていました。その中で子どもがいながらコーチングをしていく難しさがある一方で、実際にやっている方がいることも知りました。そのような方々と話をする機会も多かったので「自分も挑戦してみたい」と思っていたのと「自分自身がモデルケースになれるチャンスだ! ラッキー」と考えることができました。


−このタイミングで米国に行く、家族としての楽しみもありますか


子どもに関しては異文化に小さい時からふれられることで、外国の方へのハードルが自然となくなってくれるといいと思います。今後、仕事においても、スポーツにおいても、世界で活躍していくのは必要だと思うので、いいきっかけになればと思います。夫もこういうタイミングでないと、子どもとずっと一緒にいる時間も取れないと思うので、いい機会になるかもしれません。


−米国でビーチバレーボール以外に、取り組みたいことはありますか


語学学校に行きます。競技の中での英語は分かりますが、日常生活のコミュニケーションを取るのは難しいので、英語はきちんと習得して帰ってきたいと思います。学生ビザで行くので、語学の勉強も大きな目的です。


−パソナグループでの仕事も続くのですか


今、行っている社員向けのコーチングセミナーを継続することになり、リモートワークで働きます。スポーツ界にいると、妊娠、出産後も変わらずに、仕事を続けさせてもらえることが、ありがたく感じます。その中で企業から「続けてセミナーを…」と言われることは、うれしかったです。


−第一線で競技に打ち込みつつ、他分野への興味は、どこから出てきていますか


セカンドキャリアについて考えたのは、2016年に日本体育大学の大学院に入学してからです。初めて「こういう世界があるんだ」「いろいろな選択肢があるんだ」と知り、そこでコーチング学と出合いました。中に入ってみて「女性が珍しい」というのも、初めて知りました。私が「女性コーチをやりたい!」というよりは、周りに「女性コーチが必要だよ」という考えの方が多く、サポートしてくれたのが大きかったです。これについては、現役時代には気づいていませんでした。コーチは男性であることが当たり前だったので、気がつきませんでした。私自身も小学生の時は女性の監督でしたが、実際には男性のコーチにほとんど教わっていました。思い返すと中学、高校、大学、ビーチバレーボールも全て男性でした。周りに女性コーチもほぼ見なかったので、合宿でも男性監督ばかり。でも、それが普通なので、特に違和感もないし、嫌な思いをしたこともありませんでした。(つづく)


◆草野歩(くさの・あゆみ)1985年(昭60)6月22日、東京都生まれ。東京・共栄学園高で春高バレーへ出場。3年時に初めてビーチバレーボールを経験し、日体大進学後はインドアと両立。卒業後は尾崎睦とのペアで08年ユニバーシアード5位、09年ジャパンツアー東京大会で史上最年少ペア優勝。12年ロンドン五輪を目指して浅尾美和と組み「浅草ペア」として親しまれる。13年から尾崎とペア再結成。14年アジア大会出場。16年リオデジャネイロ五輪での初出場を目指すがかなわず、同年に日体大大学院へ進学。17年にパソナグループ入社。21年の現役引退後は同社のアスリートコーチ社員として活動しながら、JOCナショナルコーチとしてアンダー世代のヘッドコーチを担う。24年4月に長女を出産。

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