【ビーチバレー】月経、栄養へのアプローチ…元日本代表・草野歩さんの挑戦/インタビュー後編

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2024年12月17日 06:01  日刊スポーツ

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日刊スポーツ

渡米前、笑顔を見せる草野歩さん(パソナグループ提供)

ビーチバレーボール女子元日本代表の草野歩さん(39)が11月、競技の本場として知られる米ロサンゼルスへ旅立った。


夫、4月に出産した第1子の長女との時間を過ごしながら、現地で2年間にわたってコーチングスキルアップを目指す。


現役時代は五輪出場を目指し、引退後はパソナグループのアスリートコーチ社員として活動。日本オリンピック委員会(JOC)のナショナルコーチとして、アンダー世代のヘッドコーチを歴任してきた。


このほど出発前に応じた単独インタビューの後編は、ビーチバレーボール界の現状と伸びしろ、未来を考える。【取材・構成=松本航、勝部晃多】


◇   ◇   ◇  


−男性コーチが大多数の状況にも「違和感がなかった」中で、今は考えが変わってきたのでしょうか


現役時代は男性指導者ばかりというのが、当たり前で、だから気づくこともなかったです。大学院に行って勉強をして、実際にコーチングを始めてから、課題が多くあることに気が付きました。女性であれば、女子のプライベートの部分の相談に踏み込める。例えば月経や、栄養面です。「もっと食べた方がいいよ」というのも、男性は言いにくいと思います。ただ、栄養不足が骨粗しょう症につながっていて、パフォーマンスも落ちる。そういうことを知識としてもっておくと、一緒にごはん食べる時に、さりげなく「今、もし月経だったら鉄分とったら?」などと、伝えることができます。インドアの子が初めてビーチに来た時に、水着の着方が分からないということも驚きました。インナーを履いたりと、いろいろな方法がありますが、そういうところから教えてあげられる。コーチを始めてから、実際にそういった悩みを結構聞くので「必要だな」と思うようになりました。


−ビーチバレーボールを始めるハードルを下げることにも、つながるという実感がありますか


そうですね。日焼けに対する悩みを持つ子も多いです。日焼け止めの種類だったり、そういった初歩的なところから競技を始めるハードルになっています。そんな時に「水着は…」「日焼け止めは…」と気軽に連絡が取りやすいと思います。


−インドアから転向する選手が多い現状は、どのように考えますか


結果だけを見ると、インドアのバレーボールで全国大会を経験していたり、企業、大学の1部リーグで活躍する選手が、ビーチバレーボールで多くオリンピックに出ています。小学校、中学校、高校とインドアの指導者の方が素晴らしく、レベルが高い。インドアからのトランジションがうまくできる環境があれば、さらに強くなるはずです。その点と女性指導者の活躍が関わっているかというと、それだけではないはずですが、一因にはなると思います。


−ビーチバレーボールで強くなる資質を教えてください


セルフマネジメントが大切だと思います。競技特性もありますが、多くのチームは選手が2人、コーチ1人といった少人数です。少人数には自由があります。インドアはコートに立つ6人だけでなく、控えがいて、全体で見ると選手20〜30人にスタッフもそれなりにいる規模感です。チーム全員で決めた目標に向かってやる。練習時間を決めるのも監督や上級生、主将であることが多いです。一方、ビーチバレーボールは2人しか選手がいないので「体調どう?」「練習どうする?」と選手が主でコントロールをします。きちんと自分がどういう練習をするべきか、どのぐらいやるのか、そういった管理をした上で行動しないといけない。そこがインドアよりも求められます。


−コーチに求められる役割は、どのように考えていますか


選手は基本、自律している状態が望ましいです。コーチは何かあった時には引っ張り上げたり、落ちないように支えていきます。基本的には選手が前に出て、コーチが背中を押すイメージです。選手が自分自身に向き合えるようなコーチングをしていきたいと思います。


−現時点で、理想に対しての到達度はいかがですか


まだ分からない状態です。実際に日本代表のアンダーカテゴリーのコーチをやらせてもらいましたが、結果はそこそこでした。すごく良くもないし、悪くもない。そこで「もっと違うことができるのかな」と考えました。世界のコーチ陣が、どのようなことをやっているのか、興味がわいてきました。


−現役時代に米国の選手を見て、どう思っていましたか


アメリカの選手たちは、すごく効率的に見えていました。練習時間がコンパクト。2時間だけやって、他のトレーニングもしていると思いますが、基本的にはそれ以外を自分の時間に使っている。2時間で結果を出すのに、普段から何を積み重ねているのかが気になります。対照的に私たちは2時間の練習を2セットやったりしていました。アメリカがどうやってこんなに強くなっているのかが、知りたかったです。


−現役時代に量を確保していたのは、どういった考えがありましたか


コーチから指示されるパターンもありますし、逆にコーチから「そんなにやらなくてもいいよ」と言われたこともありました。そうなると「足りないな」となって、練習をしてしまっていました(笑い)。


−日本の良さはありますか


コツコツ積み重ねる部分。そうしてぶれないものを獲得する。


−日本人のスキルの丁寧さにもつながりますか


そう思っていたのですが、外国人の方も丁寧だったりもします。食事や行動を全て管理していたり…。今の時代、日本人“だけ”の良さが、分かりにくくなってしまっています。だからこそ、向こうに行ってみて、気づくことがあるのだと思います。


−米国から帰国後に、考えが変わっている可能性もありますか


全然違うかもしれないです。


−あらためてビーチバレーボールの良さを教えてください


いろいろな国の文化に触れながら試合ができます。ビーチの選手は民泊もします。世界を巡りながら、2人だからこそできるんです。その国の文化に触れられるし、会場も砂が違えば、風も違う。その土地を感じられます。「うわっ、今日暑い〜!」って楽しくなってきたり…。世界各国を巡ってビーチバレーボールをやってきた選手たちが、長い目で見た時に、世界で必要とされるようになったらいいなと思います。


−夢を教えてください


オリンピックに行くような選手を育成していくことが、一番の目標です。現場でのコーチングは絶対に大事ですが、それ以外にもスタッフのマネジメント、他の環境も整備しないといけないと思います。JOCのアスナビ(就職支援)なども整ってきて、昔に比べて所属がつく選手が多くなってきました。今後、協会のあるべき姿も昔のように代表に集めた方がいいのか、それぞれで強化した方がいいのか…。転換期であると思います。そこは「アメリカのナショナルチームはどうやっているのかな?」という疑問にも行き着きます。気になることだらけなので「アメリカ、強いよね」と言っているだけではなくて、実際に強さの秘密を見てきたいと思います。


◆草野歩(くさの・あゆみ)1985年(昭60)6月22日、東京都生まれ。東京・共栄学園高で春高バレーへ出場。3年時に初めてビーチバレーボールを経験し、日体大進学後はインドアと両立。卒業後は尾崎睦とのペアで08年ユニバーシアード5位、09年ジャパンツアー東京大会で史上最年少ペア優勝。12年ロンドン五輪を目指して浅尾美和と組み「浅草ペア」として親しまれる。13年から尾崎とペア再結成。14年アジア大会出場。16年リオデジャネイロ五輪での初出場を目指すがかなわず、同年に日体大大学院へ進学。17年にパソナグループ入社。21年の現役引退後は同社のアスリートコーチ社員として活動しながら、JOCナショナルコーチとしてアンダー世代のヘッドコーチを担う。24年4月に長女を出産。

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