新日本プロレス、次世代のスターは誰になる? プロレス大賞MVPザック・セイバーJr.がファンを魅了する理由

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2024年12月17日 08:10  リアルサウンド

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『週刊プロレス 2024年 11/20 号 』(ベースボールマガジン社)
■2024プロレス大賞MVPはザック・セイバーJr.

 「2024プロレス大賞」(東京スポーツ新聞社制定)の選考会が12月10日に開かれ、新日本プロレス所属のザック・セイバーJr.選手がMVPに決定した。他に推したい選手は各自いるにせよ、ここ数年のプロレスを見ていたファンの中で、この結果に強い異議のある人は少ないのではないだろうか。


  ザック・セイバーJr.選手は1987年生まれ、イングランド出身のプロレスラーである。14歳からプロレスの訓練を受け、2004年にイギリス国内でデビューしたという、この道20年のベテランだ。2008年にはプロレスリング・ノアのイギリス大会に参戦。その後ノアには2015年ごろまで「常連外国人」的なポジションで参戦を続け、GHCジュニアヘビー級タッグ王座も獲得している。


  新日本プロレスには2017年から参戦。ノア時代には激闘を繰り広げていた鈴木みのる率いる鈴木軍に加わり、同じ鈴木軍所属のタイチ選手とタッグを組んで活躍。2022年12月の鈴木軍解散を受け、翌年の1.4東京ドーム大会ではNJPW WORLD認定TV王座の初代王者となると同時にTMDKへの加入を発表。現在もTMDKのメンバーとして活動している。


  そんなザック選手の2024年の実績は、文句なしの充実ぶりだ。2023年を通して保持していたTV王座のベルトは1.4の東京ドーム大会で手放したものの、新日本プロレスの夏を象徴する大型タイトル「G1 CLIMAX 34」では外国人選手として史上2人目となる優勝を達成。さらに10.14両国国技館大会では内藤哲也を下し、新日本プロレス最高のベルトであるIWGP世界ヘビー級王座を初戴冠。G1とIWGPを同じ年に制覇するという偉業を成し遂げた。


■通好みなザックのファイトスタイル

  そんなザック選手のファイトスタイルは、緻密なサブミッションを持ち味とする技巧的なもの。相手との距離を詰め、ありとあらゆる場所・角度から自在に関節を極めるテクニックを持ち、まるで軟体動物のような動きで相手レスラーを仕留める。試合の最中、極める関節を臨機応変に変更し、流れるように関節技を繰り出すテクニカルなレスラーだ。ド派手なフィニッシュホールドを連発するパワーファイターではなく、技巧によって確実に相手を締め上げる印象が強い、どちらかといえば通好みの戦い方をする選手である。


  ともすればマニアックにも見える戦い方のザック選手が大活躍している現在の新日マットは、まさに変革期といえる。すでにオカダ・カズチカ選手は渡米しており、さらに2026年の1.4ドーム大会ではあの棚橋弘至選手の引退がすでに予告されている。2010〜2020年代に新日の躍進を支えた選手たちが壮年期を迎えており、一方で辻陽太選手、上村優也選手、海野翔太選手、藤田晃生選手、大岩陵平選手といった若手の台頭が続く。いやが上にも「ひとつの時代の終わり」「次世代への移り変わり」を意識する時期に、新日本プロレスは差し掛かっている。


 プロレスにおいて、世代が移り変わるタイミングはファンの気持ちも割れがちである。かつて親しんでいた選手たちが第一線を退き、実力的には未知数な部分もある若手が台頭してくる状況は、どうしても不安定なものになる。どのレスラーをどう評価するか、ファンの思いは千千に乱れ、近年はSNSの影響もあって様々に意見が割れる。プロレスという産業自体を再度軌道に乗せた男である棚橋のような巨星が引退するのならば、なおさらである。


■ひたむきに日本のマットに立ち続けた

  そんな不安定な時期にザック選手がIWGPチャンピオンという位置にいることは、新日本プロレスにとって幸運なことのように思う。なぜなら、ザックという選手はあのコロナ禍で先行きが全くわからなかった時期に、外国人選手にも関わらずひたむきにマットへ上がり続けたレスラーだからだ。観客を会場に入れられず、海外から選手を呼ぶこともままならず、母国へと帰ってしまう選手も続出したあの時期、ザック選手は日本に残り続け、鈴木軍のエースとして戦い続けてくれたのだ。世界が不安に包まれている中、「自分が戦場と定めた日本のマットに残り続け、いつものように戦う外国人選手」の姿に、自分は少なからず勇気づけられた。


  少しづつ観客が戻り、歓声を上げてプロレスを観戦することができるようになった2024年。その中でチャンピオンとなり、観客席のファンたちと感情を爆発させるザック選手の姿を見て感じたのは、「本当によかったねえ……」という気持ちだった。おそらく、ここ数年の新日本プロレスを見ていた人たちの多くも、そんな気持ちになったのではないかと思う。少なくとも、G1を制して観客席になだれ込んだザック選手の周りは、幸せそうな笑顔に満ちていた。あれは間違いなく、今年のプロレスの中でも特に幸せな瞬間だったはずだ。


 これから激動の時期を迎えるであろう新日本プロレスにおいて、「IWGPチャンピオンがしっかりとファンの支持を得ている」ことの価値は高い。そして、コロナ禍以降のザック選手の功績は充分ファンに認められるべきものだと思う。もちろんいつ王座が陥落するかは、誰にもわからない。しかし、今ザックがIWGPのチャンピオンでいるのなら、きっと来年のプロレスも面白いはず。そう思わせてくれる時点で、プロレス大賞MVP受賞も納得なのである。



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