現時点でわかりやすい目玉候補が不在と言われる2025年のドラフト戦線だが、結局はこの選手が主役に躍り出るのではないか。筆者が勝手にそんな予感を抱いているのが、東洋大の本格派右腕・島田舜也(3年)だ。
【徹底した細部へのこだわり】
島田は1球見ただけで「モノが違う」とわかる、すごみのあるボールを投げている。身長184センチ、体重91キロのたくましい体躯ながら、そのパフォーマンスには余計な力みが感じられない。最速154キロのストレートは打者に向かって伸び、数字以上のスピード感がある。
身体感覚も特殊だ。島田は自身の投球について、こんな言葉を用いる。
「ゼロの力で150キロの質のいいボールを投げるイメージです」
美しい立ち姿、バランスのいい体重移動、しなやかかつ力強い腕の振り。だが、島田に投球中の意識を聞いても、「投げる動作中は考えることをなくしたいんです」と具体的な言葉は返ってこない。島田はこんな表現も使っている。
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「自分の場合は体が『やる』ではなく、『やってくれる』という感覚になれたら究極だと考えています」
自分のことなのに、使役の感覚。プレー中にさまざまな思考が入り込めば、余計な力みにつながることを島田は知っている。ただし、練習中はこれでもかと細部にこだわる。
「今までの自分の動作は、腹圧が抜ける時がありました。体の中心部分が抜けてしまうと、そこから生えている腕や足に力が伝わりません。たとえば10キロのケトルベルを体の前で持って、片足で椅子に立ったり座ったりするトレーニングがあるんですけど、常に体の感覚を意識しています。『腹圧が抜けていないか』『ヒザが前に折れていないか』『ハムストリングスとお尻に張りを感じながら動けているか』『重心は足の拇指球と小指球に乗っているか』......みたいに、1回1回意識するんです」
力を発揮するための最適な動作をトレーニングでつくり、試合になったら無意識に投げる。そのサイクルが固まった今秋は、東都2部リーグで5勝1敗、防御率0.64と無双した。東都2部でMVPを受賞し、東京農業大との入替戦でも好投して1部リーグ昇格に貢献した。
【大学日本代表候補合宿での挫折】
島田にとって転機になったのは、今年6月に招集された大学日本代表候補選考合宿である。島田は代表候補同士の紅白戦に登板したが、2イニングを投げて被安打6と打ち込まれた。登板後、島田はこんな感想を口にしている。
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「球速だけじゃダメだし、コントロールがアバウトすぎても打たれる。あとは組み立てもうまくできなければ打たれるとわかりました。打たれたのは悔しいけど、全然ダメだとは思いません。これくらいが今の実力だなと感じています」
代表選考から漏れた島田だったが、一方で大きな出会いもあった。合宿中に圧倒的なパフォーマンスを見せた、中村優斗(愛知工業大→ヤクルト1位)と交流できたのだ。
「中村さんを見て、『すごいな、ああいう球を投げたいな』と思って、『どんなトレーニングをやっているんですか?』って聞いてみたんです」
最速160キロを計測する中村から学ぶなかで、動作の形を大切にする今のスタイルに行き着いた。
元来、島田は「鈍感なタイプ」だという。秋になるにつれ、島田は指導者たちからこんな声をかけられるようになる。
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「成長してるの、わかんないの?」
投手陣を指導する乾真大コーチ(元・日本ハムほか)とキャッチボールをした際には、「球の勢い、怖さが春とは違うよ」と言われた。チーム内の打者からは「ポールの伸びが全然違う」という反応が返ってきた。ボールの回転数(rpm)を計測すると、それまで2000回転前後だったものが2300〜2400回転まで増えていた。ようやく島田は自身の成長を実感する。
「体の形も変わってきました。今まで重い重量を上げるトレーニングをしていた時は、ボン、ボン、ボンと筋肉がふくらんでいる感じでしたけど、今は中心から末端にかけてスラーッとなめらかになって。無駄な筋肉がなくなったような気がします」
【成長の実感と2025年の抱負】
11月30日から大学日本代表候補強化合宿に招集され、シート打撃では最速150キロをマーク。打者6人と対戦して被安打1、奪三振2と、まずまずの内容を見せた。
6月の合宿で打ち込まれたリベンジという思いもあったのではないか。そう推測して登板後の島田に声をかけると、意外な反応が返ってきた。
「いやぁ、シンプルに楽しかったです。いつもどおり投げられました」
いつもどおり──つまり周到な準備を積んで、「ゼロの力」で投げられたということだろう。「リベンジ」などという思考が入り込めば、島田の「いつもどおり」から離れてしまう。
そんな島田も、合宿中にややムキになった瞬間があったという。それは堀越啓太(東北福祉大3年)とパートナーを組んだキャッチボールだった。
「向こうがエグいボールを投げてくるんで、こっちも負けないように少し力が入ってしまいました」
島田はそう言って笑ったが、これはリップサービスなのかもしれない。実際に両者のキャッチボールを見た印象としては、「剛の堀越、柔の島田」。堀越が勢いよく右腕を叩きつけて伸びる球を投げるなら、島田は力感なく右腕を振りながら重力に逆らうような球を投げていた。いずれにしても、タイプの異なる本格派ふたりの成長が来年の大学日本代表、そしてドラフト戦線の行方を大きく左右するだろう。
来年にはどんな存在になっていたいか。そう尋ねると、島田は少し考えてからこう答えた。
「島田は絶対にドラフト1位だと言われる選手になりたいですね。今年の中村さんとか、金丸さん(夢斗/関西大→中日1位)や宗山さん(塁/明治大→楽天1位)みたいな存在に。これまで学生野球でいい思いをしていないので、大学はいい思いをして終わりたいです」
全国大会の出場実績はなく、島田に言わせると「負けてきた野球人生」。だが、島田が行き着いた「ゼロの力で投げる150キロ」は、その人生を劇的に変えるはずだ。