ドコモとモトローラが18年ぶりにタッグを組んだワケ シェア急拡大で2025年度は“2倍成長”を狙う

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2024年12月17日 12:31  ITmedia Mobile

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ドコモから約18年ぶりに発売されるモトローラ製端末のrazr 50d。同社がモトローラのAndroidスマホを取り扱うのは初となる

 モトローラ・モビリティ・ジャパンは、同社初となるドコモ向けのAndroidスマートフォン「motorola razr 50d」を発表した。同モデルは、9月に発売されたフォルダブルスマホ「motorola razr 50」をベースにしながら、ハードウェアとソフトウェアの両面にドコモ向けのカスタマイズを施した1台。ドコモからモトローラブランドの端末が発売されるのは、iモード端末の「M702iS」以来、実に18年ぶりのことになる。


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 ここ数年、ソフトバンクでの取り扱いが拡大し、急成長を遂げていたモトローラ。2024年度も、前年と同じ成長率である2倍程度の規模拡大を目指すことを明かしていたが、その“秘策”がドコモでの端末発売だったというわけだ。一方で、ドコモにとってもrazrシリーズの取り扱いは、端末ラインアップが拡大するメリットがある。ここでは、そんなドコモとモトローラ双方の狙いを読み解いていきたい。


●razr 50をベースにドコモ仕様を盛り込んだ1台、ハードもソフトも“オンリーワン”


 端末名に「d」がつくことからも分かるように、razr 50dは、ドコモ向けに全面的なカスタマイズを施したrazr 50だ。そのカスタマイズはソフトウェアにとどまらず、ハードウェアや個装箱にも及ぶ。ソフトウェアは、一般的なドコモ向けのAndroidスマホと同様だ。ホームアプリに「docomo LIVE UX」を採用しており、設定メニューにもドコモのサービスやクラウドへの導線が設けられている。「d払い」や「my daiz」といった主要アプリもプリインストールした。


 また、razr 50シリーズに固有の機能である電源キーのダブルクリックには初期設定でd払いが割り当てられており、ロック解除してあれば、すぐに同アプリを呼び出すことができる。razr 50dは、閉じたときに情報を表示できるアウトディスプレイが3.6型と大きく、本体を開かずとも、d払いの決済に必要なQRコード/バーコードを十分なサイズで表示可能。折りたたみのギミックを生かし、コンパクトな状態のまま支払いを済ませることができるというわけだ。


 とはいえ、この程度のカスタマイズであれば、他の端末で採用されていることもある。razr 50dがすごいのは、ハードウェアもドコモ向けに作り込まれていることだ。1つ目は、本体素材の違いだ。通常のrazr 50やソフトバンク向けの「motorola razr 50s」は、背面がレザー調になっており、ザラっとした手触りを楽しめる。これに対し、razr 50sには天然繊維素材のアセテートが採用されており、サラッとした質感に仕上げられている。


 アセテートとは、木材パルプを主な原料とした繊維素材のこと。半合成繊維の一種で、植物由来のため、環境に優しいとされている。素材の特性上、大理石のような模様がつくが、その形状は1台ごとに異なったものとして出る。スマホのような工業製品では、全数のデザイン処理が均一になるのが一般的。この点は、どちらかといえば天然素材に近く、環境への配慮と同時に、“オンリーワン”の1台を持てる特別感の演出にも貢献している。


 ドコモから発売されるため、ある意味当然ではあるが、5Gの対応バンドには4.5GHz帯(n79)も含まれている他、4Gは1.5GHz帯(Band 21)にも対応。オープンマーケット版のrazr 50やソフトバンク版のrazr 50sはどちらもこの2つの周波数帯を利用できなかったため、これもドコモ向けの特別仕様といっていいだろう。


 機能的には、ベースとなっているrazr 50や50sとほぼ同じで、先に述べたようにアウトディスプレイが3.6型と大型なのが最大の特徴。4型で、ヒンジ付近にギリギリまでアウトディスプレイが広がった「razr 50 ultra」と比べるとやや小ぶりな印象だが、情報を確認するのはもちろん、アプリの操作も十分こなせる。


 背面のメインカメラは光学式手ブレ補正対応の6400万画素。折りたたみというギミックを生かし、本体を置いたまま撮影したり、アウトディスプレイを使って自撮りしたりと、通常のスマホより撮影スタイルの幅が広いのも特徴だ。ステレオスピーカー搭載で、「Dolby Atmos」にも対応する。プロセッサはMediaTekの「Dimensity 7300X」を備え、ミッドレンジの上位モデルという位置つけの端末だ。


●懐かしのドコモ×モトローラだが、狙いは若年層の新規ユーザーか


 ドコモとモトローラの歴史は古く、かつてはライバル的な存在でもあった。ドコモ(当時はNTT)の2Gケータイである「mova」は、モトローラの「MicroTAC」対抗として開発された端末。黒船として上陸したモトローラに触発されたNTTや同社に端末を納入するメーカーが、総力を挙げて端末の小型化を進めてきた経緯がある。一方で、2003年に国際ローミングサービスの「WORLD WING」を開始した際には、当時、ドコモ端末が対応していなかった第2世代の通信方式・GSMを利用できる端末として、モトローラの「V66」を貸し出していた。


 また、2005年にはドコモ初のスマホとしてSymbian OSを搭載した「FOMA M1000」を発売。法人利用に特化したモデルとして販売した1台だったが、当時はiモード端末の全盛期だったこともあり、物珍しさもあって大きな話題を呼んだ。その後、ドコモは海外モデルの「RAZR V3xx」をベースにした「M702iS」や、その国際ローミング対応モデルの「M702iG」を発売。多機能化が進む中、薄さやスタイリッシュさを打ち出した端末として記憶に残る1台になった。


 その後、FOMAの90Xi/70Xiシリーズでモトローラの端末が定番化していくと思いきや、06年のM702iS/iGを最後に、後継機が発売されることはなかった。モトローラ自身はAndroidスマホも開発しており、日本ではKDDIやソフトバンクが取り扱っていたものの、ドコモでの展開はなく現在に至る。そこから、約18年の月日が経過した。


 2020年に、razrブランドはフォルダブルスマホに形を変えて復活。くしくも、ドコモは18年前と同じブランドの端末を取り扱うことになった。同社でプロダクトマーケティング本部 プロダクトクリエーション部 部長を務める佐々木啓三郎氏は、「M702iSから18年、本当に長いことお待たせした」と語る。


 もっとも、razr 50dはZ世代を中心とした若年層をメインのターゲットにした端末。どちらかといえば、ドコモからモトローラ端末が登場するのを18年間待ちわびていた古参のユーザーではなく、新たにドコモを使い始めるユーザーに向けた端末という色合いが濃い。ドコモは、代表取締役社長に前田義晃氏が就任して以降、ユーザー数の拡大にアクセルを踏んでおり、特にデータ通信の利用が多く、将来の基盤となる若年層の獲得には注力している。ahamoの容量拡大などで他社に先行したのも、そのためだ。razr 50dは、この戦略にマッチした端末といえる。


 また、ドコモのラインアップ全体を見渡したとき、フォルダブルスマホはバリエーションが手薄になっていた。現状、同社は横折りのフォルダブルスマホとしてサムスン電子のGalaxy Z FoldシリーズとGoogleのPixel Foldシリーズを取り扱っているが、縦折りのフォルダブルスマホはサムスン電子のGalaxy Z Flipシリーズのみ。razr、Libero Flipの2ブランドでミッドレンジからハイエンドまでをそろえるソフトバンクと比べ、品ぞろえが見劣りしていた。ミッドレンジで価格のこなれたrazr 50dは、その隙間を自然と埋める1台になりうる。


 実際、本体価格は11万4950円(税込み、以下同)で、ベースとなるrazr 50のモトローラ直販価格である13万5801円よりも安く抑えられている。これに対し、ドコモが扱ってきた縦折りフォルダブルスマホの「Galaxy Z Flip6」は17万5560円。10万円は超えてしまっているものの、一段安い価格で手に入るフォルダブルスマホとして差別化が図られている。24回目の残価が下取りで免除されるいつでもカエドキプログラムを使うと、実質価格は5万9510円まで下がる。フォルダブルスマホを初めて使ってみたい人にも、手に取りやすい価格といえそうだ。


●日本市場で急拡大するモトローラ、25年度の倍増も可能か?


 レノボ傘下になって以降のモトローラは、当初、オープンマーケットを中心にじわじわと成長を続けてきた。その拡大を加速させる契機となったのが、ソフトバンクやそのサブブランドであるY!mobileでの販売だ。モトローラのアジア太平洋地区 エグゼクティブディレクター兼モトローラ・モビリティ・ジャパン統括のプラシャンス・マニ氏によると、日本では2022年度から2024年度にかけ、販売台数は3.5倍に急増したという。2025年度は、「モトローラのビジネスをさらに2倍にしたい」(同)と語る。


 この成長率は、マニ氏がカバーするアジアパシフィック地域全体の平均を上回っている。同氏によると、2024年度第2四半期は、アジアパシフィック地域で出荷台数が178%増を記録。収益面では、284%と大幅に拡大したという。マイナス成長から回復した世界のスマホ市場だが、その成長率は以前に比べると鈍化している。このような環境で約1.8倍にも出荷台数を伸ばしたのは異例のこと。日本市場でのこの2年間の伸びはそれをも上回っている。


 7月に開催された発表会でその理由を問われたモトローラ・モビリティ・ジャパンの代表取締役社長(当時・10月に退任)、仲田正一氏は、「市場のさまざまなニーズをつかんだ商品をご提供できたことが一番の理由だが、加えて、パートナーのソフトバンクにも、ソフトバンク、Y!mobileの両ブランドでたくさん販売していただけた」と語っていた。ラインアップの拡大に加えて、ソフトバンクの取り扱いが増加したことで販売台数が倍々ゲームで増えているというわけだ。


 2024年は、ここにドコモのrazr 50d分が上乗せされた形になる。2年連続で高い成長率を維持できている背景には、こうした販路の多様化があると見て間違いないだろう。モトローラ・モビリティ・ジャパンでマーケティング部長を務める清水幹氏は、razr 50dの販売台数が「これまで見たことがない規模になる」と語る。具体的な数への言及は控えたが、キャリア最大手のドコモが端末を販売する影響は大きい。マニ氏の挙げた2年で3.5倍という数値を見ても、そのインパクトがうかがえる。


 プレミアムモデルをスタイリッシュな縦折りのフォルダブルスマホに絞り、いち早くその価格レンジを広げたモトローラの戦略が奏功した格好だ。モトローラは、9月からタレントの目黒連さんを起用した大規模な広告キャンペーンも展開しており、その知名度を急速に上げている。これも、ドコモとソフトバンクの両方で取り扱われることを想定し、認知度獲得のアクセルを踏んだとみていいだろう。


 12月にIDC Japanが発表した2023年度第3四半期の出荷台数調査では、モトローラ(調査ではレノボと記載されている)が8.9%のシェアを獲得し、3位のGoogleに1.1ポイント差まで迫っている。マニ氏の予測通り、2025年度も販売台数を倍増できれば、トップ3入りも見えてくる。


 とはいえ、ドコモでの販売という大きなカードを切ったばかり。ここからさらに2倍に規模を拡大するハードルは高い。裏を返せば、KDDI、楽天モバイルでの販売開始や、ドコモでのラインアップ拡大など、これまで以上に積極的な手を打ってくる可能性がある。その意味で、モトローラは2025年のスマホ市場で台風の目になりそうな1社といえそうだ。



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