高木豊の現役ドラフト総括
セ・リーグ編
出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化することが目的の「現役ドラフト」。その第3回が12月9日に非公開で開催され、13人の指名選手が決まった。そのなかでセ・リーグの各球団に移籍した選手について、かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説、YouTubeでも活動する高木豊氏に聞いた。
【ポジティブだった今年のドラフト】
――まずは、全体的な印象からお聞かせください。
高木豊(以下:高木) たとえるなら、「お金を出した分、いいものが返ってくる福袋」みたいな感じですね。過去のドラフト1位の選手が3人も出ましたし、「いい選手を出すことで、いい順番でいい選手を獲りたい」という意識を感じました。一昨年にスタートした時は、僕の勝手な印象かもしれませんが、ネガティブな印象があったんです。だけど今年はすごくポジティブな感じでしたね。
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――過去2回で、成功事例があったことが大きい?
高木 確率論になりますが、非常に高い確率で活躍する選手が出てきています。今回、初めて2巡目までいったことも、それを証明しているのかなと(広島が2巡目で日本ハムの鈴木健矢を指名)。
――リーグ優勝した巨人には、日本ハムの田中瑛斗投手(25歳)が移籍。ほかのチームにいけば活躍ができる選手として、高木さんはドラフト前の記事で名前を挙げていましたね。今季は一軍での登板が3試合にとどまるなど、まだポテンシャルを発揮できていない印象です。
高木 巨人のピッチャー陣は若手が伸びてきていますし、先発・リリーフともにレベルが高くなってきています。なので、競争はかなり厳しくなるでしょう。制球力に課題があるのでリリーフは難しそうですし、先発ローテーションの谷間で起用された時にいいピッチングをして、チャンスを広げていくしかないのかなと。ただ、ボールに力がありますし、変化球も多彩なので楽しみなピッチャーです。
――続いて、阪神が獲得した巨人の畠世周投手(30歳)。高木さんは畠投手の名前も挙げていましたね。
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高木 素材がいいですし、デビューの頃からいいピッチャーだと思っていました。ここ2年、一軍でほとんど使われていない理由はわかりませんが、獲ったからには藤川球児監督が再生するでしょう。少し変われば、また一軍で通用すると思います。ファームでは中継ぎで登板していましたが、先発なのか中継ぎなのかも藤川監督が適正を見つけてくれるはず。浜地真澄(26歳)を出してまで獲っているわけですから、期待度は高いと思います。
――その浜地投手を獲得したのはDeNAでした。
高木 セットアッパーの伊勢大夢が先発に転向する可能性があり、それと、J.B.ウェンデルケンがいなくなることもあって、貴重な中継ぎにはなるとは思いますが......三振を取れるボールがほしいですね。前に飛ばされると、凡打でも何が起こるかわかりませんから。ボールが走っていたら抑えて、走らなかったら打たれる、では困ります。状態がいい時も悪い時も、手を変え品を変え、抑えてほしいと思います。
【変則ピッチャーたちが面白い存在に?】
――広島は、やはり高木さんが候補を挙げていたオリックスの山足達也選手(31歳)を獲得。内野のユーティリティープレーヤーですが、活躍の場は広がりそうですか?
高木 菊池涼介、矢野雅哉、小園海斗がいて、広島の守備固めはいらないんですよね。ただ、何かあったときのために、ベンチに経験がある選手を置いておきたいという考えがあるのかもしれません。上本崇司らも重宝していますが、そつなく何でもこなしてくれる控えのベテランがあまりいなかったので、そういう狙いがあったんじゃないですか。
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――それと、広島は12球団で唯一となる2巡目で、日本ハムの鈴木投手を獲得しました。
高木 広島はオーソドックスなピッチャーが多いなか、変則のアンダーハンドが一枚加わるのはプラスだと思います。今はバットを振り上げる軌道のバッターが多くなっている影響もあってか、巨人の船迫大雅やDeNAの中川颯、ヤクルトの小澤怜史ら変則ピッチャーが活躍できていますす。鈴木を先発で使うのか、中継ぎで使うのかはわかりませんが、面白い存在になるかもしれません。
――ヤクルトは広島から矢崎拓也投手(29歳)を獲得。昨季はリーグ4位の24セーブをマークし、今季は26試合に登板していました。
高木 まさか、この選手が出てくるとは思いませんでしたね。今年もけっこう投げていますしね。ヤクルトはピッチャー陣の層が薄いですから、経験値があって計算できるピッチャーが獲れたのは大きいと思います。
ただ、開幕からいきなり抑えというのはどうなのかなと。やはり広島の時と同じように7、8回で起用し、抑えのピッチャーが疲れてきたら矢崎に委ねるという形じゃないですか。抑え候補なのかはわかりませんが、新外国人のピッチャーも獲得していますし。
――中日は楽天から伊藤茉央投手(24歳)を獲得しました。今季の一軍での登板は6試合にとどまりましたが、右の変則でシンカーを武器にしているピッチャーです。
高木 期待できると思いますよ。サイドハンドという点で希少で面白いですし、シンカーはかなりの落差とキレがありますからね。田島慎二が引退して、その代わりといったら変ですが、変則ピッチャーを獲れたのは大きいです。先発はないと思いますが、ピッチャー陣の状況にもよるでしょう。本人が「長いイニングもいける」と言えば可能性はなくはないと思います。
(パ・リーグ編:「チャンスをもらえれば覚醒する可能性が高い」選手は?>>)
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。