高木豊の現役ドラフト総括
パ・リーグ編
(セ・リーグ編:「まさか、この選手が出てくるとは」という選手を獲得できたのは?>>)
高木豊氏に聞く現役ドラフト総括のパ・リーグ編。かつてのドラフト1位の選手もいるなかで、新天地で活躍の場を広げられそうな選手について聞いた。
【チャンス次第で活躍の可能性が高い選手も】
――まずソフトバンクですが、横浜DeNAから2018年のドラフト1位・上茶谷大河投手(28歳)を獲得。今季は18試合登板で防御率4.37と振るいませんでしたが、活躍の場は広がりそうですか?
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高木豊(以下:高木) 小久保裕紀監督が「先発候補」と明言していて、本人も開幕ローテーションを狙っているようですね。能力がない選手ではないんです。ただ、困った時に力に頼るというか......「えいや!」と投げる、パ・リーグのピッチャーに多いタイプなんです。各チームのバッターたちはそういうピッチャーに慣れていますし、強い真っすぐにも慣れているので、その点が気がかりです。
ボールに力があるので見栄えはいいし、投げっぷりもいい。ただ、大雑把でゾーンのなかで勝負することが多く、繊細な出し入れができないので、そこがどう出るか。ボールの力がバッターを上回ればいいですけどね。キャッチャーのリードにも左右されるピッチャーだと思います。
――日本ハムはソフトバンクの吉田賢吾捕手(23歳)を獲得しましたが、高木さんは以前からバッティングを評価されていましたね。
高木 ファームではキャッチャーのほかにファーストも守り、2年連続で3割をマークしましたよね。コンタクトに長けていてしぶといですし、ヘッドの効かせ方がうまいので強い打球も打てます。日本ハムも野手の層が厚くなっていますし、ポジションが見当たらないのですが、ほかの選手を凌駕するくらいのバッティングを見せられたら使われるでしょうし、面白い存在になると思います。
新庄剛志監督は、どのポジションを守らせるかを探ると思いますが、そうさせたくなるバッティング、守備に目をつぶれるくらいのバッティングを見せられるかどうかですね。チャンスをもらえれば覚醒する可能性が高いバッターだと思います。
――ロッテは中日の石垣雅海選手(26歳)を獲得しました。長打力を秘めた内野のユーティリティープレーヤーですが、ロッテにフィットしそうですか?
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高木 ロッテの内野の若手では、小川龍成が粘りのバッティングや足を生かしたセーフティーバントなど自分のスタイルをつかみつつありますし、友杉篤輝も苦しみながら経験を積んで少しずつ成長しています。ネフタリ・ソトも残留しましたし、中村奨吾、藤岡裕大、安田尚憲、上田希由翔らがいて、なかなか入れないですよね。
守備が評価されれば、セカンドの藤岡の守備固めなどの可能性はあるかもしれませんが、よっぽど頑張らないとチャンスはもらえません。何年も低迷している中日で試合に出られなかったわけで、近年はAクラスの常連になっているロッテで試合に出るのは、より厳しくなりますよ。ただ、チャンスはどういう形で巡ってくるかわかりませんし、少ないチャンスをものにしてほしいと思います。
【西武に移籍のドラ1・平沢の使い道は?】
――楽天はヤクルトの柴田大地投手(27歳)を獲得。力のある真っすぐとスプリットが武器で、一軍は1試合の登板にとどまりましたが、ファームではチーム最多の40試合に登板して2勝1敗、防御率2.17でした。
高木 パワーピッチャーでボールに力はありますよね。ただ、コントロールが課題なのと、楽天はリリーフ陣のレベルが高くなってきているので入り込めるかどうか。藤平尚真と鈴木翔天は50試合近く投げて防御率1点台、渡辺翔太もいいですし、セーブ王の則本昂大がいて、酒居知史はFA権を行使せずに残留しました。ここに入り込むのは相当な頑張りが必要です。
――昨季は5位に低迷し、岸田護新監督で巻き返しをはかるオリックスは、西武の本田圭佑投手(31歳)を獲得しました。
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高木 今季はチーム状態が悪かったことも影響してか、防御率が4点台と悪化しましたが(昨季は主に中継ぎで25試合に登板し、防御率1.56)、先発と中継ぎ両方の経験値がありますからね。今季、中継ぎ陣を支えた古田島成龍が先発に転向するようですし、中継ぎでバンバン使われるんじゃないですか。
先発はアンダーソン・エスピノーザが残留しましたし、宮城大弥、田嶋大樹、曽谷龍平、山下舜平大、東晃平らがいて、広島からFAで九里亜蓮も獲得しました。頭数が揃っているので先発はないと思いますが、いざとなれば先発もできるのは心強いです。使い勝手のいいピッチャーだと思うので、首脳陣は助かるでしょうね。
――最下位に低迷した西武は、ロッテから2015年のドラ1・平沢大河選手を獲得しました。
高木 外崎修汰がサードか外野にコンバートされることが示唆されていて、そうなるとセカンドに誰かを入れなければいけません。そうなると、ロッテで内外野を守っていた経験がある平沢にも挑戦させるのかなと。内野の感性が残っているのかどうかがポイントになりますが。
一方で外野を守りたいのであれば、相当打たなければいけない。ただ、一軍での通算打率が1割台というのは厳しい。1割台の外野手は魅力がないですよ。外野であれば仮に平沢が打率.250打っても、2割で20〜25本くらい打てる外国人選手を使うでしょう。セカンドであれば外国人選手とポジションを争うことはあまりないはずです。特別な足や肩があるわけでもないですし、セカンドで勝負するべきだと思います。
――12球団の指名選手についてお聞きしてきましたが、過去の現役ドラフトで移籍した細川成也、大竹耕太郎、水谷瞬のような活躍が期待できる選手は?
高木 ソフトバンクから日本ハムに移籍した吉田賢吾、楽天から中日に移籍した伊藤茉央です。広島からヤクルトに移籍した矢崎拓也や、西武からオリックスへ移籍した本田圭佑などは、ある程度の経験と実績があるのでどういう働きをするかは想像できるじゃないですか。そうではなく、これまでに出場機会がなくてほとんど実績がない選手が環境を変えることでどう化けるか。そこに夢がありますし、そういった選手が活躍することで現役ドラフトの意義が高まります。今回指名された選手たちが、来季以降にどんな活躍を見せてくれるか注目しています。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。