なぜ、イケアは激安“50円”ソフトクリームを提供するのか?

0

2024年12月18日 09:51  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

写真はイメージ

 イケアは店舗内にあるレストランやビストロで、気軽に楽しめる軽食を激安価格で提供している。同社公式サイトによれば、ホットドッグとシナモンロールはわずか100円、ドリンクも100円程度で楽しめ、ソフトクリームに至っては“50円”という驚くべき安さだ。


【画像】なぜこんなに安いのか? イケアのソフトクリーム(50円)、ホットドッグ(100円)のほか、北欧を感じさせるレストランメニュー


 激安メニュー提供の裏には、実に綿密に練られたマーケティング戦略があることがうかがえる。


 こうしたイケアの戦略を、「企業が顧客から収益を得るための5つのポイント」から詳しく分析してみたい。


●1. 節目需要の獲得


 節目需要とは、新生活の開始や引っ越しなど、顧客のライフイベントを捉えて接点を持つことを指す。


 イケアは50円のソフトクリームのような手軽な商品の提供で、こうした節目で家族連れや若者などが来店しやすい仕組みを作っている。それが、結果として新規顧客の獲得や潜在的な購買意欲の喚起につながっている。


●2. 関連商品の販売促進


 激安フードメニューの提供は、顧客の店舗での滞在時間を伸ばし、店内での購買機会を増やす効果がある。


 フードコーナーで一息つくことで、顧客が再度店舗内を回り、追加の家具や雑貨に目がとどまる可能性を高めているのだ。


 また、イケアは北欧発の家具ブランドであるため、北欧のメニューも提供することで、顧客が北欧文化やライフスタイルに触れる機会を作っている。これにより、顧客が北欧デザインの家具やインテリアに関心を持ち、関連商品を購入しやすくなっている。


●3. 買い替えと買い増しの促進


 イケアは手頃な価格でデザイン性の高い商品を提供しており、初回購入後の顧客満足度が高い。


 フードメニューの良好な体験も相まって、顧客は商品の買い替えや買い増しを検討しやすくなっている。さらに、新商品の情報をレストランに掲示することで、顧客が最新の家具や雑貨に関心を持つ可能性を高め、買い替えや買い増しを促している。


●4. メンバーシッププログラムによる囲い込み


 イケアはメンバーシッププログラム「IKEA Family」を通じ、顧客との長期的な関係構築を図るとともに、特別価格で提供することで来店を促している。


 フードメニューの満足度が高い顧客は、店舗を「食事も楽しめる場所」として認識し、定期的に来店するようになるため、継続的な売り上げが期待できる。


●5. 口コミを通じた紹介


 50円のソフトクリームやリーズナブルな北欧料理は口コミやSNSで広まりやすい。


 また、顧客が家族や友人に紹介することで、新規顧客の来店が期待できる。これにより、新規顧客の獲得と売り上げの拡大を見込むことができる。


●顧客の動きを意識した店舗設計


 イケアの店舗は巨大であるため、顧客は長時間店内に滞在する。これに伴う疲労や空腹感を解消できるフードメニューは、顧客にとってありがたい存在だ。


 イケアは店舗の出入口付近にレストランを設け、買い物を終えた顧客が立ち寄りやすくしており、購買後の満足感と再訪意欲を高めている。


 顧客の動きを意識した店舗設計で、顧客体験を最適化しようとするイケアの姿勢が見て取れる。


食事を通じ「北欧ブランド」の浸透も


 さらに、「北欧らしさ」を体現したフードメニューで、顧客に北欧のライフスタイルを体験する機会を提供している。


 これにより「北欧発」というブランドの一貫性を高めてもいるのだ。


●目玉商品で来店を促し、顧客のデータの収集・活用で顧客理解をさらに深める


 50円のソフトクリームはロスリーダー(目玉商品)としての役割も果たしている。これは利益を度外視した商品を出すことで顧客を引き寄せ、他の商品購入につなげる戦略である。


 価格以上の価値を提供することで、顧客との長期的な関係を築きやすくし、売り上げ増加に加え、イケアというブランドイメージ向上や顧客ロイヤリティー強化につなげている。


 また、多彩なフードメニューで顧客の来店を促すことで、さまざまなデータの収集がしやすくなる。例えば、どの時間帯にどの商品が売れているか、家族連れと単身客での購買行動に違いはあるのかなどといったデータだ。


 これらのデータを、店舗レイアウトの最適化や商品ラインアップの強化など、マーケティング戦略全般に生かしているのではないか。


●イケアの戦略は他企業にも応用可能


 イケアは50円ソフトクリームをはじめとする激安フードメニューを通じ、価格以上の価値を提供することで顧客満足度を高め、ファンを増やした好例である。それにより、顧客体験向上と収益化の両方を実現している。


 この戦略は他企業にも応用可能であり、顧客満足度を高めながら持続的な成長を目指す上で、大いに参考になるものだ。イケアの取り組みは、顧客との関係性を深化させ、ブランドの価値を高めるための効果的な手法であるといえるだろう。


●金森努(かなもり・つとむ)


有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師


金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。


2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。


コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)など。



    ニュース設定