限定公開( 6 )
第2次カヌレブームが到来し、定番スイーツの仲間入りを果たしつつある。
ローソンでは、2022年9月に発売した「濃密カヌレ」の累計販売数が、わずか4日で100万個に到達。同社スイーツブランド「Uchi Cafe」として歴代2番目の速さで100万個を突破する、爆発的ヒットとなっている。
今秋冬シーズンは、セブン-イレブン・ジャパンが、ロッテの「ガーナミルク」とコラボした「ガーナ ショコラカヌレ」を発売。ファミリーマートも発酵バターを使ったカヌレを発売し、各社が注力している。
回転寿司でも、スシローが9月限定のスイーツとして「カヌレ・ド・ボルドー バニラアイス添え」を販売して40万食を完売。マクドナルドでは、見た目がカヌレに“激似”の「プリンケーキ」を11月13日から販売している。
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JR大阪駅直結の商業施設「ルクア大阪」に出店する洋菓子店「ダニエル」では、連日大阪土産の新定番として、カヌレを買い求める人で行列ができる。早い時間帯に行かないと、大半の商品が売り切れる。東京では、広島発の「立町カヌレ」が丸の内・渋谷・品川に出店。名古屋発の「カヌレとアイス」も吉祥寺・浅草・原宿にショップを構えるなど、中部より西、西日本勢の活躍が目立つ。
●今回が「第2次ブーム」 進化系の登場が特徴
そもそもカヌレとは、正式には「カヌレ・ド・ボルドー」と呼ばれる、フランスのボルドーに伝わる伝統的な菓子である。小麦粉や蜜蝋、ラム酒、卵、バターなどを使い「カヌレ型」と呼ばれる王冠のような円錐の型を使用して焼く。表面はカリッとしていて、中はしっとりしたプリンのような味わいと食感が特徴だ。
カヌレはかつて1990年代に第1次ブームがあり、今回は「第2次ブーム」とされる。ベーカリーや洋菓子店だけでなく、コンビニや回転寿司が販売したり、バリエーション豊かなものが登場したりと「進化系カヌレ」が続々と出現しているのが特徴だ。今回はこのカヌレブームの行方を見ていく。
●大阪から始まった「第2次カヌレブーム」
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1990年代の第1次カヌレブームは、神戸を本拠とする老舗ベーカリーチェーン「ドンク」を経営するドンクの影響が大きいといわれる。同社スタッフがフランス視察で見つけたカヌレ・ド・ボルドーにほれ込み、日本でもつくれないかと思案し、ボルドーにある業界団体のカヌレ協会を訪問。レシピの入手に成功すると、帰国後に試作を重ねて「カヌレ・ド・ボルドー」を発売した。
その後、反響を呼び、全国のドンク店舗にカヌレを求める顧客が押し寄せてブームになった。ドンクに続く形で、各地のベーカリーや洋菓子店がこぞってカヌレ販売を始めることになる。ちなみにドンクはカヌレ協会日本支部に入会しており、本部から贈られた「本物のカヌレを売る店」としての認定証も店内に掲示していた。
なお、1990年代には、フランスの高級ブーランジェリー「ポール」が上陸、フランス人オーナーの三重県鈴鹿市「ドミニク・ドゥーセの店」がオープンするなどしている。これらの店も第1次ブームに絡んでいると思われる。
カヌレブームは一旦落ち着くが、再ブームのきっかけになったのが大阪府箕面市にある「カフェエズ」の「箕面カヌレ」だ。フランスのレストランで働いていたオーナーが、現地でレシピを習得したといい、大阪市内に姉妹店を相次いでオープンしてカヌレ復権ののろしを上げた。
さらに「カヌレ復活」を決定付けたのは、兵庫県芦屋市に本店がある洋菓子店・ダニエルだ。小さめのサイズかつ色とりどりで、見た目がかわいらしく写真映えするカヌレのスタイルを確立。2011年に先述のルクア大阪に出店すると、カヌレに集中した品ぞろえで連日行列となる繁盛店になった。現在は系列店を含めて3店舗を展開。味はプレーン、カカオ、抹茶、いちじくくるみなどを用意。1人20箱限定で販売している。
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その他、2012年に大阪市内の桜川で開業した「カヌレ堂」も人気だ。定番のカヌレは小ぶりで、緑茶にも合う「和カヌレ」という新機軸を打ち出した。
●コロナ禍の「プチぜいたく」機運が追い風に
阪神間で人気となったカヌレは西進し、2013年には福岡市に「ラ・スール」、2017年には広島市に立町カヌレなどの専門店が誕生。両店は後述する名古屋のカヌレとアイス、新潟の「カヌレドキャンティ」などとともに東京に進出し、東京でもカヌレブームをけん引していく。
ラ・スールは博多阪急に1号店を出店。これが人気となり、大阪や東京、京都に勢力を拡大していった(現在の常設店舗は福岡本店、大阪、京都の3店)。同店のカヌレは1個500円ほどと高価で、中のもっちり感を際立たせた「生カヌレ」が有名だ。担当者は「コロナ禍では特によく売れた。ステイホームで旅行に行けない代わりに、少し高いスイーツを買って、家で非日常的な時間を過ごしたかったのではないか」と話す。
2017年には、広島市で洋菓子店を営むカスターニャが市内にカヌレ専門店「立町カヌレ」をオープン。大サイズの王道カヌレを中心に、中サイズや季節限定品も販売している。広島産のレモンやブルーベリーを使った、ご当地カヌレも魅力だ。
立町カヌレの1号店は路地裏にもかかわらず、オープン2日目から表通りまで伸びる行列となった。同年は「インスタ映え」が流行語大賞となった年でもあり、見た目のかわいらしさがSNSで話題を呼んだ。
その後、2019年に広島駅の駅ビルに2号店をオープン。駅ビルや駅ナカ施設に出店を重ね、広島以外に東京・埼玉・大阪・岡山も含めてカヌレ専門店として最多の9店を展開する。全店で1日平均、5000〜7000個を販売し、客層は男女が半々。カヌレ専門店は女性人気が高いものの、男性のビジネス用途の購入比率が高く、このような客層になっている。特にエキュート品川店が顕著で、新幹線に乗る出張族が東京みやげとして買い求め、ホワイトデーには男性客の行列が恒例化しているという。
●カヌレとアイスの組み合わせを提案
その他、2020年12月に名古屋・大須で1号店をオープンしたのが「カヌレとアイス」。その名の通り、カヌレとアイスを2枚看板としたスイーツ専門店だ。1号店が評判を呼び、現在は都内の吉祥寺・浅草・原宿を含めて4店を展開している。
経営しているのはブライド・トゥー・ビーという名古屋のブライダル企業だ。コロナ禍で結婚式の需要が消失。社内にスイーツ部門を持っており、ホテル・レストラン向けケーキなどの卸売を行っていたことから母の日のスイーツ提案としてカヌレを展示会に出品。これが好評だったことから、カヌレ専門店の出店に踏み切った。
もう一つの看板商品であるアイスは、ジャム、生クリームなどカヌレに合うものを試した結果、選んだ。カヌレとアイスを出店する前は、社長自らクーラーボックスにカヌレを詰め、フラワーショップの軒先などを借りて、街頭販売していたという。しかし、アイスの街頭販売は温度管理が難しいことから、店舗を構えることにした。
●コンビニ各社も参入 スイーツの「定番」になるか
これら専門店だけでなく、第2次ブームではコンビニの果たした役割も大きい。
特にローソンは力を入れており、現在でもチルド1種、冷凍2種の3種類の商品を出している。中でも2022年9月発売のチルド商品である濃密カヌレは、オーブンの焼き時間や原料の配合に工夫を重ねて独特の食感を表現。
「バスチー −バスク風チーズケーキ−」が記録した「発売3日で累計100万個」に次ぎ、発売4日で100万個を突破し、発売7日で200万個に到達。女性のまとめ買いが多い商品だ。この他、冷凍で「焦がしバター香るカヌレ」「塩キャラメルカヌレ」も展開している。
ファミリーマートでは2022年5月に、ドーナツ型の進化系カヌレ「生カヌレケーキ」を発売。フランス産発酵バター入りマーガリンに加え、ラム酒とバニラの風味付けをしたカヌレ生地、さらにホイップクリームを合わせた商品で若い女性を中心に、好評を博した。
この11月には牛乳・小麦粉・卵を使用したシンプルな「カヌレ」も発売。専門店のように、できるだけシンプルな配合にこだわり、外側をカリッと、中をもちっとした食感にするよう工夫を重ねた。他のデザートに比べて、紅茶系の飲料との買い合わせが多く見られる。
セブン-イレブンも期間限定でカヌレをたびたび販売している。例えば2022年8月に「生食感カヌレ」、同年10月に「生食感ショコラカヌレ」を相次ぎ発売した。2024年は3月に「香ばしもちっとカヌレ」を発売。SNS上では「専門店レベル」と好評を博した。11月には冒頭で触れた通り、ロッテとコラボしたガーナショコラカヌレも登場している。
●スイーツの新定番に
以上、第2次カヌレブームは2010年代に大阪・神戸から起こり、コロナ禍に「プチぜいたくスイーツ」として東京に流入。コンビニも参入して大きな潮流となり、現在に至る。果たして今後、カヌレは定着していくのか。
立町カヌレを運営するカスターニャの竹村崇社長は「百貨店のマーチャンダイザーに聞いても、カヌレの需要は底堅く、スイーツの新定番となったという意見が多い。インバウンドの人気も高く、海外出店のオファーもある」と語り、さらなる事業拡大に意欲的だ。今後も、カヌレのさらなる進化に期待したい。
(長浜淳之介)
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