ヤクルト「地獄の松山キャンプ」を若手野手陣が完走 限界突破から見えてきた世界とは?

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2024年12月19日 11:20  webスポルティーバ

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ヤクルト秋季キャンプ密着レポート(後編)

 ヤクルト秋季キャンプ(愛媛・松山市)での野手練習は、初日から1日1500スイング以上など壮絶を極めた。「もう無理......」という弱音を吐く選手もいたが、徐々に免疫力をつけ、堂々とキャンプを完走したのだった。

 今回の取材で思い出したのが、2017年と2018年の秋季キャンプだった。今も"地獄"と語り継がれ、当時のメンバーだった松本直樹は、「練習が終わりホテルの部屋にたどり着くと、『今日も生きて帰れた!』という毎日でした(笑)」と振り返った。

 宮出隆自二軍打撃コーチは、当時のキャンプも打撃コーチとして指導。「振る量に関しては、当時と遜色ないですね」と語った。

「1日1500スイングとか、練習内容や意図はそこまで変わっていないと思います。人間って限界が来た時に、『もうダメだ』と逃げ出す選手、もう一回頑張れるヤツなど、本当の自分が出ます。今回、振る量を増やしたのは、そういうところを見たいという大松(尚逸)コーチの思いがあったんじゃないでしょうか」

 そして宮出コーチは、「僕は二軍で今の選手たちを何年も見ていますが、バットを振ってこんなに苦しんでいる姿を見るのは初めてです」と笑顔で語った。

【限界を超えて得た新たな発見】

 多くの選手が「第1クールはどうなるかと思った」と話したが、内面的、技術的にいろいろな発見があったという。

 並木秀尊は「終わりが見えなくて、不貞腐れる時もありました」と打ち明けた。今シーズンはケガの影響もあり33試合の出場にとどまったが、球界トップクラスのスピードは相手の脅威となった。

「感情の起伏があると逆に疲れると思ったので、走るメニューでも無心ではないですけど、あえて淡々とこなす感じでやっていました。そして自分なりの限界まで行った時に、性格だけじゃなく、打つ時に自らボールを覗きにいってしまうといった癖にも気づけました。体で覚えるじゃないですけど、体で理解できたこともあって、こういう昭和のような練習も大事なんだと(笑)」

 3年目の小森航大郎は「限界を超えたら、また限界が来ます」ということを実感したという。今季は二軍で盗塁王を獲得。身長173センチながら身体能力にすぐれ、パンチ力も秘めている。

「投げ出したくなることもありましたけど、コーチや裏方の方たちが『頑張れ!』と鼓舞してくれて、やらなければいけないという気持ちになりました。そのなかで、しっかりフォームを保ったままスイングできたと思っています。フォームが崩れたらいくら振っても意味がないので......。打球速度は置きティーで164キロ出ましたし、平均打球速度も150キロちょうどくらいです。出力を上げるためには、重たいのをただ振るだけじゃダメだということもわかって、やりたいことがたくさん見えてきました」

 橋本星哉は、今年5月に育成から支配下登録された2年目のキャッチャーだ。広角に強い打球が打てることをアピールポイントにしており、このキャンプでは捕手のほかにサードにも挑戦した。

「きつい練習を繰り返していくうちに、弱音は吐いてないのですが、『まだ終わんねぇのかな』と思ったり、自分はまだ弱いんだなと実感しました。シーズン中もそういうところがあったので、好不調の波が激しいのはそういうところから生まれてくるのかなと。ただキャンプ後半になると体も慣れてきて、サボろうとかじゃなく、うまく抜くことを覚えられたような気がします。いいキャンプを過ごせました」

 大松コーチは選手の限界を引き出す練習をしながら、「感情をむき出しにして食らいついてくる選手と、苦手なことに関してスイッチが入らない選手がいました」と話した。

「ファームの選手は接する機会が少ないですから、選手の性格やどういうタイプなのかを把握できたことは大きかった。最初は投げ出し気味だった選手も、次のバッティングの時には自分自身すごくポジティブなことをかけてやっていた。自分たちが真剣にぶつかれば、選手たちにもしっかり伝わるんだなと。こっちも覚悟を持って、根気強くやらなければいけないと思いました」

【キャンプを完走した3人のルーキー】

 今回、松山キャンプに参加した野手は15人。メンバーの中心だった長岡秀樹はノック中に右足を痛め、また武岡龍世は発熱のため、大事をとって途中帰京となったが、3人の新人は最後まで必死に練習に食らいついた。

 鈴木叶(常葉大菊川高→ドラフト4位)は打てる捕手としての片鱗を見せ、6月12日のソフトバンク戦でスタメンに抜擢されると、4打数2安打2打点の活躍。ただその後は、「まだ1年間戦う体力がありませんでした」と、二軍でも思うような成績を残すことができなかった。

「このキャンプを通じて、まだまだ体力も振る力も足りないと実感しました。最初は練習がきつくて『もう無理だ』と思うこともありましたけど、『一軍に出るため』『自分のため』と思ってやり切ることができました。やっているうちに、力がついてきている実感がありましたし、自分で限界と思ってもまだ振れる力があることに気づけました。来年、一軍に少しでも多く帯同したいです」

 伊藤琉偉(BC新潟→5位指名)は「来春のキャンプで(一軍の)沖縄に行くためにも、踏ん張らなきゃと思って乗り越えました」と振り返った。今シーズン、一軍で6試合に出場。一度だけ打席にも立ったが、ヒットはならなかった。

「初日が終わった時には、正直、これがあと2週間も続くのかと思いました。でも、いま思うとあっという間で、今までにないくらい振り込んで、守備もたくさん練習できました。限界に近い状態でも、気合いで振れたので、自分って意外とこのくらいできるんだなと。あとは声が以前より出るようになりました(笑)。自分にはまだ台湾のウインターリーグがあり、これまで取り組んできたことを出せるように。そして来年の2月、沖縄キャンプに呼ばれて、そこで食らいついて一軍に残っていることが目標です」

 高野颯太(三刀屋高→育成2位指名)は、このキャンプで誰よりも必死に取り組んでいることが伝わってきた。30分で約500スイングするメニューでは、足を痛めて倒れたが、なんとか立ち上がりやり遂げた。

「足が攣(つ)っても、支配下の人より振らなければいけないと思ったので、頑張ろうという気持ちでした。その後もたまに攣ることがありますが、体もメンタルもちょっと強くなったのかなと思います」

 メイン球場でのロングティーは「パワー!」と叫び、バックスクリーンをはじめ8本をスタンドに叩き込む日もあるなど、大きな成長を感じさせた。

「来年はもっとレベルアップして、できるだけ早く支配下になりたいです。まだまだそのレベルには達していないですが、フェニックスと松山でちょっとは前に進めたかなと。変化球への対応だったりが、ちょっとよくなったと思います」

 守備練習では本職のサードのほかに、「たーかの!」と土橋勝征コーチから叱咤されながらファーストの守備にも取り組んでいた。

【限界に限界はない】

 今回の松山キャンプで感じたのは、「限界に限界はない」ということだ。

 西村瑠伊斗はキャンプ初日で「もう無理」と言葉を失っていたが、第2クール最終日には「余裕」と、いつもの負けん気を取り戻していた。スイングスピードは、このキャンプでトップクラスの数値をマーク。今夏から取り組んでいたノーステップから、また足を上げるフォームに戻した。

「この2週間で、自分が思ったよりも振れるんだなと感じました。最初は手もボロボロになって、ただやっているだけでしたけど、後半はいろいろとこだわって、考えながらできました。ウインターリーグもあるので、大松コーチと取り組んでいることを継続しながら、来年はもう3年目なのでやらないといけないですし、しっかり結果に結びつけたいです」

 最終クールの3日目、中川拓真が「(ロングティーでの)ホームランですか? 20本ぐらいです」と、圧巻のバッティング見せた。

「バックスクリーンの奥のほうにもいきましたし、いい感じで振れました。疲れは溜まっていますが、体の変化を感じていて、振る力、体の使い方、ウエイトトレーニング......この2週間でやってきたことが、全部つながっていると思います」

 中川は今年7月、独立リーグの火の国サラマンダーズ(熊本)からヤクルトに移籍。松山キャンプが始まると、「もう無理です。東京に帰りたい」と弱音を吐いていた。

「第1クール最終日に、大松コーチから『自分に甘えているところがおまえのダメな部分だ』とはっきり言われました。次のクールからは"なにくそ魂"というか、絶対にやってやるという気持ちでやったら乗り切れたので、やっぱり甘えていたんだなと。逃げ出さずにやり切ってよかったです(笑)」

 その中川だが、バットを強く振るということでは大きな成果があったと語る。

「飛距離や打球スピードがあるなというのはアピールできたんですけど、ポテンシャルだけではやっていけない世界なので。まだ実践形式の打撃では、マイナスポイントが多かった。来年はキャッチャーが増える(ドラフトで2人指名)ので、台湾のウインターリーグで挽回して、まずは来年、二軍で試合に出られるように頑張りたいです」

 北村恵吾はルーキーイヤーとなった昨年、プロ初本塁打がグランドスラムと派手なデビューを飾ったが、今年は腰のケガなどもあり、一軍出場機会なくシーズンを終えた。

「悔しい結果で終わってしまったので、このキャンプでは何かをやり遂げた自信というか、達成感というものがほしいと毎日やってきました。正直、初日にやり切った感はありましたけど、『うわっ、これを明日も明後日もやるのか』みたいな感じで(笑)」

 手のひらはマメが潰れボロボロになり、キャンプ中に行なわれた練習試合では野球人生で初めてテーピングを巻いて出場した。

「数をこなすことで免疫力もつきましたし、疲れたなかでも教えてもらったことが体に染み込んできたと感じられたのはよかったです。気持ちが折れそうな時もありましたけど、最後までやり遂げられたのかなと思っています」

 キャンプ最後の"バッティングの日"には、全体練習後、吉岡雄二打撃コーチに"おかわり"をお願いした。キャンプ前半では考えられないことだった。

「この2週間、数を振ってきたことで、今までになかったいい感覚があったんです。少しでも打って、この感覚を忘れたくない、もっと体に染み込ませたい、味わいたいと思って、吉岡コーチにお願いしました」

 松山キャンプ打ち上げの日の朝、坊っちゃんスタジアムで体を動かす選手たちの表情はじつに晴れやかだった。大松コーチが言う。

「オフの過ごし方は全選手に伝えてあるので、来年2月、いま以上にパワーアップしたみんなに会えることを楽しみにしています」

"シン地獄の松山キャンプ"から1カ月以上が過ぎた。西村、伊藤、中川は前述のとおり台湾のウインターリーグで実戦経験を積み、北村、橋本、鈴木、高野は戸田球場で連日のように走り込んでいた。ほかの選手たちも各所で、飛躍の来年へ向け動き続けている。

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