「TVer大躍進」となった2024年 その背景をひもとく

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2024年12月19日 17:11  ITmedia NEWS

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 今年、TVerの伸びがすごいという話があちこちで聞かれるようになった。博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が出した 「メディア定点調査2024」によれば、TVerの利用率は緩い右肩上がりで推移してきたが、前年の2023年には39.5%であったものが、24年は50%越えを達成し、もはやキャズムは超えたといえる。


【詳細はこちら】TVerがこれほど人気となった理由をじっくり見る(全10枚)


 また同研究所の「テレビ番組視聴意識調査」において、TVerの認知率は全年代を通じて9割を超え、利用頻度も男性10〜20代では3割がほぼ毎日利用すると答えており、1つのメディアとして定着していることが分かる。


 TVer自身も、12月11日に24年の利用動向をまとめた「数字で見るTVer」を公開した。「数字で見るTVer」は24年9月に公開が始まった広報データだが、この12月に出たものが最新という事になる。


 今回はこのデータをにらみながら、TVerの利用形態や、その立ち位置などを分析してみたい。


●TVer躍進となった要因


 TVerは、テレビ番組の見逃し配信サービスという立ち位置だが、今年大躍進した理由の1つは、ライブ配信の充実だろう。スポーツライブでネット配信サービスが足場を固めた例としては、2022年の「FIFAワールドカップ カタール 2022」において、ABEMAが全試合無料中継したことが記憶に新しい。


 TVerもその例に漏れず、24年のパリオリンピックのほぼ全競技を単独無料配信した。コンテンツの総再生数は1億1000万再生を突破、全ユーザーの総再生時間は2300万時間に上ったという。まさに日本中の目玉を奪った快挙であったわけだ。


 スポーツイベントに強い理由は、同時刻に複数行われる試合を、チャンネルの制限なく同時配信できることである。これは放送枠が決められているテレビ放送にはなかなかできないところだ。もっとも地上波放送は12セグメントに分けられており、1つの放送波で3つの番組を同時放送することもできる。ただこうした機能を積極的に利用しているのはNHKぐらいで、民放では機能はあるがなかなかやれていないというのが実情である。


 また地味に見逃せないのが、24年1月1日に発生した能登半島地震ニュース速報の視聴の高さである。10月には日本シリーズと重なってはいるが、衆議員総選挙特番もかなり視聴されているのが分かる。


 もちろんこうした報道は地上波テレビ放送でも行うが、ずーっとやり続けるわけにはいかない。一方ネットライブでは、いわゆる専門チャンネルとして長時間の配信に耐えられる。見逃し配信、いわゆるAVODとしてだけでなく、専門ライブチャンネルとしての有用性も示された結果といえる。


 一方で番組検索数では、10番組中9番組がバラエティとなっている。こう見るとTVerはバラエティ番組が中心なのかと思われがちだが、実際には違う。検索結果のランキングということを逆説的に考えれば、これらの番組は「お気に入り」に登録して毎回見るわけではないということを表している。


 現在ネットニュースでは、テレビの後追い記事、芸人がこの番組でこんな事を言ったとかいう記事が多く出ている。またXなどのSNSでも、バラエティ番組の情報は一言で切り出しやすいことから、投稿に向いている。


 こうした情報拡散の結果、後追いで視聴するために番組が検索されたものと考えられる。このような利用形態は、ある意味番組見逃しサービスとしての本来の姿であり、バラエティ番組とネットとの親和性の高さをうかがわせる。


●主力の導線


 TVerの主力は、ドラマである。配信番組数が多いのももちろんだが、現在「名作ドラマ特集300作品」といった企画で、1990年代の旧作ドラマも復活している。「ロングバケーション」「踊る大捜査線」といった一世を風靡したドラマのお気に入り登録数もそれぞれ30万、28.7万と、好調だ。


 TVer利用の導線を見てみると、ホームからの遷移でもっとも多いのが「マイページ」である。マイページには「お気に入り」に登録した番組へ直接飛ぶことができる。旬な番組ならホームに直接載るわけだが、そうではない見方をしている人が主力という事である。


 またお気に入り登録数で見ると、50〜64歳女性が最多、次いで35〜49歳女性と続く。テレビ的に言えば、「F3層」「F2層」を抑えているという事になる。


 テレビマーケティング的にもっとも重視されるのは、20〜34歳女性の「F1層」だ。ここがもっとも消費意欲が強く、コスメやスキルアップなどにお金をかける。また独身者が多いことから、それなりに自由に使えるお金があるため、CMを打つ企業としては最重要ターゲット層となっている。


 一方でTverが強いF2・F3層は、それに続く消費層である。従来は健康志向の強い層として認識されていたが、昨今はこの層にも独身者が多い事があきらかになり、いわゆるお一人様需要として新しいターゲットとなっている。つまり旧来の狙いはテレビ放送に任せ、TVerでは新ターゲット層を獲りに行くという戦略が伺い知れる。


 別の意味で気になるデータは、倍速再生の利用率だ。全世代平均と比べて倍速再生の利用率が高いのは、女性の15〜19歳を先頭に、49歳までのF2層までが順序よく並んでいる。


 倍速再生の利点としては、タイパことタイムパフォーマンスが上げられるが、同年代の男性がそれほど利用していないことから、世代層全般の話ではないのかなという気がする。筆者にはまさに15〜19歳層の娘と息子がいるが、タイパに対する考え方や認識にそれほどの違いは見られないように思う。


 だとすればそこには特有の行動様式があるはずで、思い当たるとすれば「推し活」であろう。例えば音楽番組に好きなアーティストが出ていたら、他の部分は飛ばして推しだけを等速再生する。またアニメに関しても、推しキャラ登場シーン以外の部分は倍速再生するが、推しキャラのシーンは3〜4回「こする」といった再生パターンが見られる。


 この傾向は、以前TVS REGZA クラウド事業センター センター長の片岡秀夫さんと対談した際にも、同様のデータを見せていただいた事がある。タイパ重視ゆえに全編を倍速再生すると考えるのは誤りで、冗長なところは飛ばし、重要なところは何度も見るという時間を捻出するための、倍速再生なのだ。ある意味「見流している」のではなく、われわれが想像する以上にちゃんと全体構成を見て、時間を傾斜配分しているのである。


●県域放送が無意味なものに


 地上波放送のエリアは、全国放送、広域放送、県域放送の3つに分けられる。全国放送は言うまでもなく全国に同じ番組を流すわけだが、広域放送は関東圏の7都県、中京圏の3県、近畿圏の6府県ごとに固まって同じ放送を流している。例外は徳島県の近畿圏隣接地扱い、佐賀県の福岡県隣接地扱いがあるのみで、それ以外は県域ごとに放送エリアが分かれている。


 それはとりもなおさず、地方局の利権を守るためには必要な措置で、一種の囲い込みである。県境などでは隣県のテレビも受信できることもあるが、基本的には各県独自の経済圏で回していくという仕組みになっている。


 とはいえ、首都圏、中京、近畿のキー局が全て独立して全国ネットされているわけではなく、当然見られない番組も出てくる。こうした不都合を是正するために、地方局は1局で複数のキー局番組を独自編成で編み込むという、クロスネットという方法で凌いでる。


 クロスネット局は日本ではそう多くはない。福井放送、テレビ大分、テレビ宮崎、宮崎放送ぐらいであろう。特にテレビ宮崎は、現在日本国内で唯一の3局クロスネット局である。逆にクロスネット局がない県は、地方局が1局ネットなわけで、完全に見られないキー局というのが出てくる。


 TVerの1人当たり平均再生時間ランキングを見てみると、1位の宮崎県、2位の福井県はクロスネット局があるが、同時に民放が2局しかない県である。それ以降のランキングに登場する県は、民放が3局程度の県である。


 民放の少ない県ほどTVerを多用しており、これによって広域放送圏同様の番組にアクセスしている事になる。ネット配信は通信であり、放送ではないという立て付けになっていることから、越境視聴が認められる。


 これは当然、地方局の経営にも影響を与えることになる。こうした県域放送は将来維持できなくなる時が来るとして、2022年頃から総務省主導の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」で議論されてきた。この提言が2023年の放送法・電波法改正につながり、複数の放送対象地域における放送番組の同一化や、中継局の共同利用などが進められることとなった。


 つまり、近県同士で放送内容であったり、放送設備をまとめていくという方向である。すでにラジオのほうではこうした番組乗り入れが進んでおり、テレビも地方局のローカル番組は、ある程度集約されていく可能性が出てきている。


 12月3日にNHKは、民間放送の放送ネットワークを維持するため、NHKと民放が所有する中継局の保守・利用を進める子会社を設立する方針を発表した。地方局の中継局運営をNHKが助ける格好になるものと思われる。


 ちなみにテレビの中継局の位置解数は、A-PABがデータを公開している。おそらく想像以上に中継局が大量にあって、驚かれることだろう。NHKはもちろん自前で全部そろえているが、民放もそれぞれ別個にこうした放送網を維持するのは無駄ではないのか、相乗りできるところはしたらいいんじゃないのか、という話である。


 これはいわゆる水平統合の話だが、一方で垂直統合の話も出てきている。11月29日に発表された、日本テレビ系列4社が経営統合するという。従来独立採算であった系列各局が、1つの会社にまとまるわけだ。この方法論は他の系列局にも波及する可能性が高い。


 テレビはオワコンといわれて久しいが、現実にはテレビ番組自体はまったく終わっていない。だが地上電波受信というシステム自体が、オワコンになり始めている。以前も英国での議論、もう地上波放送は終わっていいんじゃないかという話をご紹介したことがあるが、日本でも方法論は異なるが、徐々にこうした考え方が受け入れられていくのではないだろうか。


 イギリスでは今年になって、慌ててBBCが中心となってテレビ局共同の配信プラットフォーム「Freely」を立ち上げた。だが日本にはすでにTVerがある。日本における放送再編は、TVerの躍進と無関係な話ではない。



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