「ヴイナス戦記」安彦良和が壇上で植草克秀にオファー?スタッフとは当時を懐かしむ

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2024年12月19日 19:06  コミックナタリー

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劇場アニメ「ヴイナス戦記」35周年記念トークショーに登壇した安彦良和と植草克秀。
安彦良和が監督・脚本・キャラクターデザインを務めた劇場アニメ「ヴイナス戦記」の公開35周年を記念したトークショーが、去る12月14日に東京・中野セントラルパークカンファレンス地下1階のイベントホールで開催。安彦がスタッフ、キャストとともに約2時間トークを繰り広げた。

【画像】安彦良和から色紙をもらえると知り、両手を挙げて喜ぶ植草克秀

■ 「安彦さんが現れると身の引き締まる思いがする」
イベントは2部制で実施。第1部では安彦とともに、メカニック作画監督を務めた佐野浩敏、作画スタッフの川元利浩、MCとしてミランダ役の佐々木優子が壇上に上がった。

35周年を迎えた「ヴイナス戦記」だが上映やトークイベントが開催されるようになったのはここ数年のこと。その理由について安彦は“封印”という言葉を使いつつ「なぜ封印したかというと恥ずかしいとかではなくて、愛おしかったんです。はっきり言って(興行)成績は芳しくなかった。それで僕が拗ねて『そんなに世間が冷たいなら見せるもんか』って(笑)、子供じみた感情に陥って」と言い、「スタッフには非常に申し訳ないことをした。もう何回謝っても足りないです」と佐野と川元に対して思いを口にした。

安彦のアニメに憧れを持って業界に入ったという川元は、安彦のファンだということをアピールしていた結果、作画監督の神村幸子に声をかけてもらい「ヴイナス戦記」に参加することになったそう。当時の監督の印象については「メインスタッフでもないし、恐れ多くて近づけなかった。話しかける勇気がなくて、駆け出しの僕からしたら本当に雲の上の存在。背中を見て学べればよいかなという思いでした」と尊敬する安彦のもとでの仕事を回想した。司会の佐々木が「監督が遅れて控室にいらしたとき、おふたりがぱっと立ち上がって、そのままずっと座らずにいらっしゃって(笑)。当時の関係性が垣間見えた気がしました」と控室での様子を伝えると、安彦は謙遜しつつ「電車に高齢者が乗ったら若い人が立つのと同じですよ(笑)」と冗談めかして笑わせる。これに対して川元が「安彦さんが現れると身の引き締まる思いがするのは未だに変わらないですね」と話すと、佐野も「そうなりますね」と同意した。

■ メカ作監はTSUTAYAで借りたビデオを観て抜擢
「ヴイナス戦記」は安彦自身の会社・九月社が制作したこともあり、自身が監督を務める劇場作品では初めて作画監督を立てたそう。安彦は「サンライズでは『自分で(作画監督)できるでしょ?』と言われちゃうんですよ(笑)。だから『アリオン』なんかはめちゃくちゃ忙しかったんです」と振り返る。当時は自分でもメカを描けると思っていたという安彦だが、「巨神ゴーグ」制作時のスタッフからの「時代が変わったんだからメカ作監を立てるべき」という言葉や、マニアックなアニメが台頭してきたという時代の転機もあり、若い後進に任せようとメカニック作画監督を入れることを決めたと明かした。

そんな経緯もありメカニック作画監督として参加した佐野。初めてだったという安彦との仕事について「僕は安彦さんと仕事をする前は、安彦さんの作品とは真逆の“乱暴な作画”の仕方をしていたんです」と、パースを付けたりダイナミックな動かし方をするような作画が特徴だったと話し、その特徴をどう消していくかに苦労したことを明かす。安彦は佐野の起用について「とにかく若いやつにしようと、新所沢のTSUTAYAでビデオを借りて観て、俺ができないようなアニメーションをやっていて『いいな』と思える人を探したんです。彼(佐野)は“乱暴”って言ったけれど、ようするに元気があったんですよ。これは俺には描けないなというビデオを見つけて、作画監督は誰だって見たら佐野くんだった」と自身の目で佐野を選んだと、起用の経緯を説明した。また「当時面識もないし、名前も知らなかった。作画監督を頼もうと思って会ったら、なんかトガっていて、ジーパン履いてグラサンかけていて。かなり危険な感じの男だった(笑)。大丈夫かなと思いながらお願いしました」と振り返って笑いを誘った。

■ スタジオでは定規禁止、その理由とは
映像面の話題では、川元が“タコ戦車”と呼ばれているアドミラルA-1戦車の動きについて「タコ戦車の砲塔がぬるっと動くときの重量感や不気味さは3Dの固まった絵で動かすとあの感じは出せないと思うんです」と作画アニメのよさを熱弁。佐野は当時のTVアニメではメカのシーンは2秒程度と短く瞬間的に動きが変わるようなシーンが多かったことを説明し、「安彦さんの(メカシーン)は6秒とかでじわーっと動く。パッと動くのは勢いで描けちゃうんですけど、じわーっとした動きは計算しとかないと描けないんです、そこも苦労しましたね」と安彦のアニメの特徴を語った。

また当時制作スタジオでは安彦によって定規の使用が禁止されていたという驚きの事実も。これには佐野も苦心したそうで、安彦はその理由について「当時、大友克洋が業界に入ってきて、大友調の絵が流行ったんです。彼の絵というのはめちゃくちゃ細かくて、幾何学的な線もあって。それを真似てやたら硬い線を描くアニメーターが増えたんです。僕は彼は偉大な男だと評価しているんですが、当時の僕は“大友かぶれ”のアニメーターが増えることはあまりよくない傾向だと思っていたんだと思います」と時代背景も踏まえての考えだったと振り返った。

■ もう1本はアニメを作りたい
第1部の最後で、安彦が「77歳でも(アニメは)もう1本くらいできるかなという気がしています」と発言すると、会場から大きな拍手が湧き起こる。さらに「本業のマンガも、長いものは描かないと連載はやめたんですが、メジャー誌からお誘いがあって実は今1本描きはじめています」と告白。厚めの単行本1冊くらいのボリュームになるそうで、どこでいつからかはまだ言えないとしたが、安彦のさらなる活躍に会場から温かい拍手が贈られた。

■ 「植草さんの参加は無理だろうと思っていた」
第2部には安彦、佐々木に加え、スウ役の原えりこ、主人公・ヒロ役を演じた植草克秀が登壇。“封印”が解かれた30周年での上映会にも参加が叶わなかった植草の登壇に、安彦は「これまでの上映会でも植草さんの参加は無理だろうと思っていたので、今日来てくださったのが本当にうれしいです」と笑顔で感謝を述べる。

「ヴイナス戦記」が声優初挑戦だったという植草は、当時1人で収録に臨んだという。「果たして僕にできるのかという不安もありましたし、ドラマなんかで演技は慣れているんですけど、声優さんたちのセリフを聞くとやっぱり僕らとは出している音が違うんですよね。それを自分ですごく感じてショックを受けたのは覚えています」と初めての挑戦での苦労を話す。またこのイベントに向けて改めて「ヴイナス戦記」を観返したそうで、「やっぱりやってよかったな。やらせていただけて光栄だなと感じました」とヒロ役への思いを語った。

オーディションでスウ役に決まった原は、オーディションの話をオーストラリアで一人旅をしている最中に聞かされたという。「音響監督の千葉耕市さんから電話がかかってきて、安彦良和先生が映画をやるんだけど日本に帰ってこないかって。それで安彦先生の作品で帰らない訳がないでしょうって感じで途中で切り上げて帰ってきました」と説明し、「受かったからよかったけどこれで落ちていたら……」と話し笑わせた。またスウについて「自分がやったことのないような役でした。背伸びして大人っぽくって。冒頭のバーのシーンとか本当に緊張しちゃって。でも大人になったらバーで1人でカクテルを飲みたいという夢があったんですけど、それをスウに叶えてもらったような気持ちでした」と懐かしんだ。

■ ヒロの大事な思いを自然に表現してくれた
植草を主人公役に抜擢した理由についての話題では、安彦が「有名人に主役をお願いしたいという非常に大それた願望で。なけなしの予算をどこに振るか一点豪華主義で行きたかったんです」と当時の思惑を明かす。また印象深い出来事として植草の収録の取材に多くのマスコミが集まったことを回顧。「どっと来ることはわかっていたけど、思っていた以上で人が入れなくなってしまった。それで2回に分けて入れ替えで取材をしたんです。プロモーションとしては『やったぜ』って感じでした(笑)」と振り返った。

植草の演技が話題に上がると、安彦は「僕は戦争に兵士として関わっていくヒロというキャラクターに今でもすごく共感できるんです。ヒロは戦争の綺麗事を信じない、彼にあるのは意地と友情だけなんです」と自身の考えを述べる。国と国の戦争にはそれぞれのナショナリズムがあるが、それを信じない若者も戦争に巻き込まれていく。そのときに亡命する、捕まって刑務所に入るという選択肢もある中で、ヒロのように兵士として戦う人の中には国の大義を信じているのではなく、「やるしかないだろう」という考えの人もいるだろうと持論を展開する。戦争の綺麗事に流されたのではなく「やるしかないから戦う」という1つの大事な思いを、植草が自然に演技で出してくれたと称賛の言葉を贈った。

■ 「植草さんにも観ていてほしいと思っていました」
また過去のトークショーで植草の演技に感謝を伝えたいと言っていたことを佐々木から明かされると、改めて植草へ「本当にありがとうございました」と思いを伝える。また「“封印”した人間が言うことではないんですけど、植草さんにもどこかで観ていてほしいなと思っていました」と安彦が話すと、植草は「もう3回くらい観ています。だからもったいないな、もっともっと世の中の人に観てもらいたい、今の時代だからこそ観てほしいと思います」と返し、「ヒロがバイクに乗って彼女に会いに行って、会ったときの画にものすごく感動しました。またその先も見たいなと思いました」と具体的なシーンを挙げながら感想を伝えた。

イベントでは観客へのプレゼントも用意。サイン入りのグッズなどが大勢のファンの手にわたり、最後のサイン入りTシャツが植草から手渡される場面では当選者が歓喜の涙を流していた。さらに安彦から植草へイラスト入りの色紙のプレゼントも。これには植草も両手を上げて歓喜の表情を見せていた。

■ 壇上で植草にさっそくオファー?
最後の挨拶では植草が改めて「やらせていただいてよかったなとすごく感じています」と役への感謝を伝える。続けて「またこういうチャンスがあるならば、先生……! 先生についていきます」と安彦のほうに向き直り、声優仕事に意欲を見せた。トリとなった安彦は「今は平均年齢が上がっているので、77歳はまだワンステージあると考えています(笑)」とこちらもさらなる仕事に意欲を見せる。「アニメももう1本はやりたいので。植草さん、ビジネスは事務所の方と話せばいい?」とさっそく植草に相談すると、植草も「直で大丈夫です」と返し、笑いに包まれる中イベントは幕を閉じた。

なお東京・中野ブロードウェイのギャラリーカフェオメガでは、2025年2月11日まで「ヴイナス戦記」のコラボカフェを実施中。また公開35周年記念トークショーの模様は2025年1月15日より有料配信が予定されている。詳細はギャラリーカフェオメガの公式サイトで確認を。

(c)学研・松竹・バンダイ

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