超円安の影響で実質賃金が下がり、物価上昇中の日本。将来の不安が募るばかりだが、元外資系金融エリートである肉乃小路ニクヨさんは「逆に経済に敏感になれるいいチャンス。身体が元気なうちは、お金ってどうにでもなります」と言う。2025年、ニクヨさんがおすすめするお金との付き合い方とは。
資産を守るための対策が必要
「株式や投資信託は、決して博打ではありません。一時的にはイケイケ状態やパニック状態に陥る市場も、時間がたつと一定の規律や論理を重視した動きに落ち着いていきます。そうやって資本主義経済は成長してきました」
そう語るのは、女装家・肉乃小路ニクヨさん。新宿二丁目のゲイバーのママ、ショウガールなどを経験してきた一方で、銀行や外資系保険会社などでキャリアを積んだ金融エリートだ。そんなニクヨさんに、2025年がどんな年になるかを聞いた。
「1月20日からアメリカはトランプ政権がスタートしますから、日本経済もさまざまな影響を受けるでしょう。ただ悲観的に捉えすぎる必要はないと思います。物価やサービス価格が上昇するインフレは日本より欧米のほうが深刻で、日本はまだ踏ん張っているんじゃないかと。
ただ、インフレ傾向が変わらず続くことは十分にあり得る話。デフレ時代と異なり、現金の価値が減少していくため、資産を守るための対策が必要だとは思います」
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ニクヨさんは素人でも投資を早めにスタートすることをおすすめする。
「まずは投資=ハイリスクという考え方を改めてみてはいかがでしょう。バブル期前後の日本は、銀行や郵便局が高金利だったため、預けておけば資産は勝手に増えるものでしたし、投資はハイリスクな博打というイメージから敬遠されていたのも確かです。
ですが、現在は低金利時代。定期預金でも利息がほとんどつかず、お金を眠らせておくだけに。新NISAも始まり、国としても初心者向けの資産運用を推奨しています。手数料が安く、分散がきいた商品を選べば、リスクを減らすこともできます」
新NISAは非課税で運用できる有利な制度。にもかかわらず対象者の2割程度しか活用していない状況で、非常にもったいないとニクヨさん。
「2024年1月から新NISAが始まりました。そもそもNISAとは、株式や投資信託の配当金や分配金、値上がりで得られた売却益が非課税になる国の制度です。投資で得られた利益には通常20.315%の税金がかかります。例えば100万円の利益が出たら、普通の口座であれば、約20万円を税金として支払っていたのです。
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それが100万円の利益は100万円満額で受け取れるようになったのです。とても優遇されているがゆえに、今までのNISA制度は制限がしっかりとありました。しかし2024年からはそういった制限が緩やかになり、使いやすいものに変更されました」
変更の大きなポイントは4つある。
常に自分に投資する気持ちを忘れないでほしい
1・ 非課税期間が撤廃
「従来は、非課税期間は一般NISAが5年、つみたてNISAは20年と限られていました。だから期間内に売却するか、それを過ぎてしまったら課税口座に移管する必要がありました。しかし新NISAでは、非課税期間が無期限になったため、長期的な視点で投資をすることができます」
長期での運用が可能になったことは、老後資産の形成を目的にするためにも使いやすくなった改正だといえる。
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2・ 非課税投資枠が拡大
「従来のつみたてNISAの年間投資枠が40万円だったのに対し、新NISAのつみたて投資枠は120万円に拡大されました。さらに、成長投資枠として年間240万円の投資枠が追加されたため、より積極的に投資をすることができるようになりました」
ただし、通算の運用資金の合計が1800万円までとなっていて、年間の枠をフルで使うと5年でいっぱいになることには注意。
3・ つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能に
「つみたて投資枠で老後資金を着実に積み立てながら、成長期待の個別株やアクティブな投資信託で攻めの運用もできるようになりました」
4・ 売却をしたら翌年に売却分の枠が復活
「資金需要や利益確定で新NISA口座にある資産の売却をした場合は、翌年、売却分の購入原価分の枠が復活します。例えば、100万円で買ったものが120万円になって、住宅の頭金のために売ったら、翌年100万円の枠が復活します」
売却したら、そこからまた老後資金の備えに向けて枠を使うということも可能に。
「新NISAで、政府は本気で国民に貯蓄から投資へという流れを進めようとしています。よく国家ぐるみで国民をギャンブルに誘導しているというネガティブな発言を聞きますが、私はそうは思いません」
ニクヨさん自身は、海外への投資よりも国内に目を向けているという。それは国内経済が活性化し、日本の社会がより良くなってほしいという思いもあるという。
「投資したお金で、日本企業が頑張って、付加価値の高い製品の輸出が増えたり、世界におけるウェブサービスのプラットフォーマーが出てきたりするといいなと思っています。私はかなり楽観的なシナリオを抱いていますが、国内にお金が回らないことには実現しないので」
経済や投資について精通しているニクヨさんだが、ただお金を得るだけでなく、働くことの経験も大切だと話す。
「ライフステージが変わっても、常に自分に投資する気持ちを忘れないでほしいです。将来への不安があるかもしれないけど、“働き続ければ、なんとかなる”が私の持論。大切なのは年をとっても価値が減らない自分をつくり続けること。そのほうが楽しいし、自分を大事にしていると後悔が少ないですよね」
ニクヨさんは大学卒業後の数年間、4畳半風呂なしトイレ共同のアパートで貧乏生活を経験。その後、本人いわく「周回遅れ」で派遣社員として社会人キャリアをスタート。若いころの苦労した経験から“お金のニオイ”にも敏感になっていった。
人生に対するモットーは“人生は経営”
「私の人生に対するモットーは“人生は経営”。お金を含め、自分の状況や周辺の物事を整理しやすくなります。自分にとっての資産や負債を“仕分け”しやすい。それに、目標や向かう先も考えやすくなります。
こうした経営感覚は、ビジネスや投資にはもちろん、人生でも大切なことだと思います。常に世の中のお金の動きを見ながら、自分の振る舞いを考える。人生を選択していく。お金のニオイに敏感になるとは、こういうことだと思うのです」
例えば、「うちの会社はなかなか給料が上がらない」と嘆く人がいたら、その原因は会社ではなく、自身がお金のニオイに敏感ではないからかも。
「そもそも業界が相当な不景気かもしれません。お金のニオイがしない業界にとどまり続ければ、給料は上がりにくくなります。そこで嘆くのではなく、給料が上がらない分、円安で利益を上げる企業に投資してカバーするという方法もあるでしょう。勤務先や転職の判断をする上でも、こうした感覚を持つことが大切ですよね」
適切な範囲で身銭を切って、実際に投資しながら、感覚を勉強することも大切。
「お金が集まりそうなところを注意深く見続け、その嗅覚を鍛えていきましょう。投資を怖いと感じる方も、きっと自分のお子さんに入ってほしい会社のほとんどは株式会社だと思います。
株式会社はそれだけ機能的に優れていますし、だからこそ増えてきたわけですよね。自らの資産を投資して、自分にできないことを株式会社に実現してもらう。そんな感覚で投資をする人が増えてくれたらうれしいですね」
取材・文/諸橋久美子
肉乃小路ニクヨさん 1975年千葉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中(1996年)女装を開始。証券会社に就職後、銀行と保険会社でキャリアを積む。会社員と並行してショウガール・ゲイバーのママとして勤務。経済・お金・ライフハック・人生観を独自の視点で語る。