もちろん、一人旅の拠点にもおすすめ。今回は実際に筆者が宿泊または現地視察をし、その魅力を体感した厳選宿5軒をご紹介します。
【奈良ホテル】115年の歴史と伝統を今に伝える「関西の迎賓館」
奈良のホテルの代表格として、100余年の伝統を受け継いできた「奈良ホテル」は、奈良の宿を語る上で欠かすことのできない老舗のクラシックホテル。明治42(1909)年に奈良公園に創業。本館の建築は東京駅などを手掛けた建築家・辰野金吾氏によるもので、「関西の迎賓館」といわれ、国賓や皇族に愛されてきた歴史があります。筆者も20年以上前に宿泊したことがあり、ロビーの階段で記念撮影をしたことや、メインダイニングでの優雅なディナーが脳裏に焼き付いていました。
正面玄関を入ると、20年前と何ら変わらない木造建築の粋を極めたロビーに改めて魅了されました。そう、ホテル最大の魅力は何といっても建築的意匠にあります。天平瓦の屋根を葺いた2階建の木造建築の本館に入ると、赤絨毯(じゅうたん)の敷かれた吹き抜けのロビーに圧倒されます。
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本館ロビーの「桜の間」は、17:00〜20:00からは宿泊者専用スペースとしてフリードリンクが用意されます。
壁際にはアインシュタイン博士が滞在時に奏でたというピアノが置かれています。ピアノを弾く博士のモノクロ写真も掲示され、往時を偲(しの)ばせます。
廊下のショーケースには、懐かしいモノクロ写真の数々やかつて使用されていた銀食器やアメニティ、団扇(うちわ)など、貴重な品々が展示され、悠久の年月を振り返ることができます。
お待ちかねの夕食は、創業以来、受け継がれるメインダイニング「三笠」で、正統派のフランス料理をいただきます。正倉院文様の絨毯が一面に敷かれ、格天井からは行灯(あんどん)型の照明が灯り、和洋折衷の趣が感じられます。
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食後はクラシカルなバー「THE BAR」で、オリジナルカクテルや季節のフルーツを用いたカクテルを傾けて、長い夜を過ごすのもいいでしょう。
一人旅なら本館スタンダードダブルルーム、またはツインルームに宿泊を。創業当時の暖炉のある本館でノスタルジックな時を過ごしてみたいもの。2食付きのほか、朝食付き、素泊まりとニーズに合わせてプランが選べる自由度の幅広さがうれしいです。
朝食は3種類から選べますが、筆者のおすすめは奈良のご当地食、茶がゆ定食。食べ飲み疲れの胃を優しく労ってくれます。
滞在の記念にはホテルオリジナルアイテムを。人気No.1のクッキー缶は、正倉院文様の宝相華(ほうそうげ)がデザインされた缶の中に10種のクッキーが詰まっています。
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「奈良ホテル」
・住所:奈良県奈良市高畑町1096
・TEL:0570-66-6088(ナビダイヤル)
・交通アクセス:近鉄奈良駅からタクシーで約5分、またはJR奈良駅からタクシーで約8分(無料送迎バスあり<定時>)
【セトレならまち】猿沢池のほとりに佇む、静けさに包まれたホテル
「セトレならまち」は世界遺産・興福寺の南側に静かに佇む3階建のホテル。来訪時は、夕日でオレンジ色に照らされたホテルの外観が猿沢池に映り込み、佇まいの優美さが印象的でした。外観はもちろん、館内は吉野杉を多用しており、木の温もりあふれる心地よい空間です。中庭にはビオヤードを備え、オーガニックの野菜やハーブを育てているほか、ヒノキパウダーを用いた自然発酵の温熱足湯を配し、癒しのひとときを与えてくれます。
筆者は以前「セトレ ハイランドヴィラ 姫路」に宿泊したことがありますが、「セトレブランド」のホテルに共通するのは、単に泊まるだけでなく、滞在を通じて、地域の豊かな資源、伝統、食などを五感で感じることができるということ。
吉野杉で作られたオリジナル家具が配された、宿泊者専用ラウンジでは、ワインや日本酒などアルコールを含むドリンクとドライフルーツやナッツ、クッキーなどが自由に楽しめます。客室やマイスタールーム、ライブラリーなどに持ち込んでもOK。
ライブラリー&レコードルームでは、さまざまなジャンルの本を片手に、好きなレコードをかけて、まるで自宅の書斎でくつろぐかのように、ロッキングチェアに身を預けることができます。
屋上に設けられた「星宙テラス」では、興福寺の五重塔を目の前に、夕景や星空をのんびりと眺めることができます(興福寺五重塔は現在工事中)。
32室すべての客室に吉野杉が使用され、木の温もりが感じられます。女性の一人旅なら「女子一人旅プラン」の利用がおすすめ。猿沢池か中庭に面したハリウッドツインルームの「青丹〜あおに〜」か、和洋スタンダード「蘇芳〜すおう〜」のいずれかの客室がチョイスできる、2食付きプランです。
他に、奈良の町家には必ずと言っていいほどある坪庭を室内に配した「まちやルーム」というユニークな客室も用意されていました。
ドリンクがオールインクルーシブで、ラウンジやディナー時のドリンクがすべてフリーというのがうれしいポイント。ソフトドリンクに限らず、ワインやリキュール、日本酒や焼酎など、好きなものを好きな時に楽しむことができます。
廊下には周囲の山々の風景をまるで一幅の絵画のように切り取った窓もあり、心が和みます。
レストランでは大和牛、大和肉鶏や大和ポーク、大和伝統野菜、長崎・五島列島直送の鮮魚などを用いたディナーコースを用意。
2024年4月にはカウンター6席のみの「じびえ井田」もオープン。店主と会話を交わしながら、奈良・十津川村の猟師が捕獲した新鮮なジビエをコース料理で楽しめます。1泊2食付きの宿泊プランに追加料金でジビエ料理のセレクトも可能です。
「セトレならまち」
・住所:奈良県奈良市高畑町1118
・TEL:0742-23-2226
・交通アクセス:近鉄奈良駅から徒歩8分、またはJR奈良駅からタクシーで約5分
【ノボテル奈良】2024年9月にオープン。スタイリッシュな内装とルーフトップの眺望に魅せられて
次にご紹介するのが、2024年12月現在、奈良中心部で最も新しいホテル「ノボテル奈良」。フランスに拠点を置く「アコー」グループの上級ブランドのホテルチェーンで、日本では沖縄に次いで2軒目。客室はスイートを含む264室あり、ダブル、ツインの客室が大半なので、一人旅やビジネス利用に活用しやすくおすすめです。館内に大浴場が用意されているので、一人旅なら筆者が宿泊したシャワー付きのスタンダードダブルで充分(バスタブ付きもあり)。ベッドはキングサイズで広々としています。窓際のソファでお茶を飲みながらくつろいでも。
2階にはフィットネスルームもあり、24時間トレーニングも可能です。スイートもしくは8・9階のエグゼクティブルームに宿泊すれば、8階のエグゼクティブラウンジが利用可能。フリードリンクでアルコールのオーダーもできます。
こちらのホテルの最大の魅力は8階のルーフトップテラス。高い建物が周囲にないので、開放感があり、奈良の夜景と星空の下でオリジナルカクテルやクラフトビールを傾けてみたいもの。
日の出タイムには山の端が徐々にオレンジ色に染まり、山の上に日が昇る美しい朝景に出会えることも!
美しい朝焼けの余韻に浸りつつ、朝食は1階の「トラットリア・ポンテ 奈良」で和洋ブッフェを。
柿の葉寿司や茶がゆ、吉野豆腐、わらび餅、奈良漬けといった奈良の郷土の味が用意されるほか、吉野柿バター、柿の葉を使ったフレンチトーストなど洋食でも堪能できます。
「ノボテル奈良」
・住所:奈良県奈良市大宮町7-1-45
・TEL:0742-32-3020
・交通アクセス:近鉄奈良駅からタクシーで約5分、または近鉄奈良線新大宮駅から徒歩8分
【NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち】創業150余年の蔵元の元酒蔵が全8室のホテルにリノベーション
近鉄奈良駅を南下した元興寺の旧境内、江戸から大正にかけての建物が残る「ならまち」には、春日大社から流れる水脈があり、水脈に沿って並んでいた明治創業の奈良豊澤酒造の家屋のひとつが、2018年、宿として生まれ変わりました。土間や蔵、庭を残し、部屋割りを変えることなく、伝統的な古民家の趣を最大限に残した建築美が楽しめる一方で、快適なベッドや機能的な水回りなど、現代人が過ごしやすい空間になっています。8室ある客室はすべて趣向の異なる間取り。
繊細な彫刻が施された欄間(らんま)は昔のままに残され、古民家のよさを存分に感じることができます。客室内にはテレビも時計もなく、日常の忙しなさからかけ離れ、非日常に身を委ねることができそう。
客室内の冷蔵庫には蔵元の日本酒も用意され、フリードリンクで楽しむことができます。
一人泊にふさわしいタイプは蔵の面影を残す、メゾネットタイプの「VMGコンフォート」。1階に檜(ひのき)風呂とリビング、梯子(はしご)階段を上った2階が屋根裏風の寝室となり、まさに大人の隠れ家といった趣。不思議とワクワクする空間でした。
檜風呂では元酒蔵らしく、酒粕を入れて酒粕風呂も楽しめます。肌がしっとりすべすべになりそう!
一方、土間をリノベしたレストランではフレンチのコース料理を。大和野菜や大和牛、大和ポークといった奈良の食材を多用するのはもちろん、酒粕を調理に用いたり、日本酒とのペアリングを提案したりと、日本酒がテーマの宿ならではの趣向が凝らされています。
また滞在中には市内今市町にある酒蔵見学や試飲体験も可能(1人500円。開催期間は公式Webサイト参照)。日本酒好きにはうれしい企画ですね。
筆者はかつて古民家を改装した「篠山城下町ホテル NIPPONIA」に宿泊したことがありますが、その時に感じた、床板を踏み締めるたびに感じるキュッキュッという音や畳の感触、年月が醸し出す木の色合いや艶(つや)に心の底から癒されました。
「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」
・住所:奈良県奈良市西城戸町4
・TEL:0120-210-289(総合窓口11:00〜20:00)
・交通アクセス:近鉄奈良駅から徒歩8分、またはJR奈良駅から徒歩13分
【ANDO HOTEL 奈良若草山】古都奈良のパノラマビューを独り占め。若草山中腹にひっそりと立つ隠れ宿
当地で56年愛されてきた老舗旅館が、2020年7月にリニューアルを経てリブランドオープン。館内は木・布・紙・火・土といった自然素材を生かしており、周囲の自然と調和し、温もりあふれる造りになっています。ロビーラウンジや客室は、上質でモダンな雰囲気に改装され、古都奈良の風景が存分に楽しめるよう、窓が大きく取られています。
さらに屋上にペントハウススイートと貸切露天風呂、ファイヤーピット付きテラス、4階に和食レストランが新設されました。
宿の最大の魅力が、若草山中腹という唯一無二の恵まれたロケーションと、奈良随一を誇るパノラマビュー。目の前を遮るものが何ひとつなく、山並みと奈良公園の豊かな自然、東大寺境内の建築物などが一望の下にでき、感動せずにはいられません。
4階のメインダイニングの「テラス若草山」では、大和野菜や奈良産の肉など奈良で育てられた食材をふんだんに使い、和食にフレンチの技法や食材を融合させた会席コースが味わえます。夕食時は窓越しに新日本三大夜景に認定された「古都奈良を望む若草山からの夜景」にうっとりできるはず。
2024年6月には新たに宿泊客専用のプール、プールサイドにバーとバレルサウナ、焚火スペースを増設。樽型の形状のバレルサウナは、90分1人3850円(2名〜、予約制 ※1人利用の場合は5500円)ですべての宿泊客が利用でき、ヒノキや大和橘など奈良県産のロウリュウのアロマ水が用意されています。
さらに、専用露天風呂付きのテラススイート2室と、サウナ付きのサウナスイート1室が増設され、全24室となりました。
公式Webサイトや旅行サイトでは、いずれの客室も2名〜の予約となっていますが、一人泊を受け入れている時期もあるので、ホテルに直接問い合わせてみるといいでしょう。
ホテルでは奈良の自然や伝統、文化に親しんでほしいからと、フリープログラムを各種用意しているので滞在中に参加しても。若草山で星空&夜景ウォッチング、春日山原始林の森林浴ウォーキング、バードコール作り、薪割り体験など、1人から参加可能なので、1人でも時間を持て余すことなく過ごせそうです。
「ANDO HOTEL 奈良若草山」
・住所:奈良県奈良市川上町728
・TEL:0742-23-5255
・交通アクセス:近鉄奈良駅からタクシーで約8分、またはJR奈良駅からタクシーで約10分(無料送迎バスあり<要事前連絡>)
いかがでしたか? 今回ご紹介した宿の中には「ふるさと納税の返礼品」として宿泊券や食事券、オリジナルのお菓子や食品などの商品が用意されています。奈良市への応援も兼ねて検討してみるのもいいでしょう。
(文:塩田 典子(一人旅ガイド))