吉野家はなぜ、「カレー」と「から揚げ」の専門店を始めるのか?

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2024年12月20日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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吉野家HDは3業態を立て続けに展開した

 吉野家ホールディングスは、12月に新業態であるカレー専門店「もう〜とりこ」と、から揚げ専門店「でいから」をオープンした。これは2023年2月に開業したカルビ丼とスンドゥブの専門店「かるびのとりこ」に続く新業態の店舗である。


【画像】吉野家、新業態の「ビーフカレー」(858円)と、店内の様子


 カレー専門店は、吉野家が強みとする牛肉を活用した独自メニューを展開し、香り高いスパイスや特製ソースによる風味豊かな一皿を提供する見込みである。


 また、から揚げ専門店では、外はカリッと中はジューシーな鶏肉のうま味を引き出したメニューを取りそろえ、家庭では味わえない専門店クオリティーで顧客をひきつける意図がある。


 いずれの店舗もテークアウトやデリバリー対応に力を入れ、現代の消費行動の変化に柔軟に応える姿勢を打ち出している。


 牛丼一筋のイメージが強い吉野家HDは、なぜ新業態に進出したのか。そこに隠された意図や戦略を読み解いてみたい。


●「問題児」を「花形」へ


 まず、吉野家HDの戦略を、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の観点から分析してみたい。PPMとは、企業が展開する複数の製品・事業の組み合わせと位置付けを分析し、全社レベルで最適な経営資源配分を判断する経営手法である。


 PPMは、「花形(製品)」「問題児」「金のなる木」「負け犬」の4つに分けられる。


 吉野家HDの主力である牛丼チェーン店は、安定したキャッシュフローを生み出し、新規事業への投資資金を提供する「金のなる木」である。


 しかし、「金のなる木」だけに依存するのはリスクが伴う。競合との価格競争や消費者の嗜好変化の影響を受けやすく、将来的な成長が見込めない可能性があるためだ。


 そこで吉野家HDが開始したのが、「問題児」の位置付けとなる新業態のカレー専門店とから揚げ専門店だ。市場の成長性が高く、将来的な収益源となる可能性を秘める「問題児」に積極投資することで、「花形」へと成長させる戦略を採っている。


 こうした新業態への投資は、企業の成長戦略を対外的に示す上でも重要な役割を果たす。


 もし「金のなる木」が生み出した資金を新規投資に回さず、内部留保として蓄積すれば、投資家から「配当を増やせ」と要求される可能性がある。それに加え、投資家から企業の成長性に対する姿勢に疑問を持たれるリスクもある。


 「問題児」への投資は、投資家に「将来成長するかもしれない」と期待してもらう意味でも有効だ。


●バリューチェーンの共有で効率よく成長


 吉野家HDの新業態開始の背景を、バリューチェーンの観点から見てみたい。


 「価値連鎖」の意味を持つバリューチェーンとは、企業における各事業活動を、価値創造のための一連の流れとして捉える考え方だ。


 企業の事業活動は、原材料調達から販売に至るまで多岐にわたり、それぞれの事業活動がきちんとその役割や機能を果たすことで価値を創造している。


 吉野家HDは、特に「調達」の部分をグループ全体で共有することで、新業態の事業を効率よく成長させられる可能性がある。


 例えば、牛丼チェーンで構築した仕入れルートや大量調達のノウハウを新業態にも適用することで、牛丼用の牛肉をカレーにも活用できるなど、コスト効率を高めることができる。


 また、人材教育やマニュアル化をグループ企業全体で行うことで、オペレーションの効率化とサービス品質の均一化を実現できる。


 スタッフの採用からトレーニングまでを一元化し、多様な業態でも同水準のサービスを提供できる体制を構築することができるのだ。


●リスクを分散し、市場の変化に対する柔軟な対応が可能に


 複数の業態を展開することで、リスク分散も可能だ。


 外食産業は、消費者の嗜好の変化や競合他社の動向、経済状況など、さまざまな要因で市場環境が変化する。


 新業態を行うことで特定の事業への依存から脱却し、各業態が相互に補完し合うことで、企業全体の安定性を高められる。


 さらに、吉野家HDの新業態のから揚げやカレーは持ち帰りやすく、テークアウト需要の高まりにも対応している。


 コロナ禍を経て定着した非接触型の消費行動に適応し、新たな顧客層の獲得や販売チャネルの拡大が期待できるのだ。


●ブランドの多面性と競争優位性の確保


 新業態への挑戦は、吉野家というブランドの多面性をアピールすることにもつながる。従来の「吉野家=牛丼」という固定観念を打破し、多彩なメニューを提供する総合外食企業としてのポジショニングを確立しようとしている。


 また、多業態の展開により、競合他社との差別化を図り、市場での競争優位性を高めている。他社が模倣しづらい独自のビジネスモデルを構築し、市場シェアの拡大とブランド力の強化を目指している。


●「持続的成長」を目指した挑戦


 吉野家HDがカレーやから揚げ専門店に乗り出す背景には、さまざまな戦略的意図がある。強いブランドを持ちながらも現状に満足せず、新たな挑戦を続ける吉野家HDの姿勢は、他の企業にとっても大いに参考になるだろう。


 市場環境が激しく変化する中で、いかにして持続的な成長と企業価値の向上を実現するか。その答えの一つが、吉野家HDの戦略に表れている。


●金森努(かなもり・つとむ)


有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師


金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。


2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。


コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)など。



このニュースに関するつぶやき

  • 恐竜は、なぜ絶滅した?🦕🦖当時、地球上に広がって繁栄していたけど、恐竜は地球にしか居なかったから��そこで災害が起こると全てに影響が及ぶǭリスクは分散しないと��吉野家も同じ。牛丼だけでは��う〜ん����
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