◆ 9年目を迎えた「岩崎優の夢授業」
オフシーズンの番記者はグラウンドを離れて全国各地で行われる選手のイベントを取材する機会ことも増える。
その中でも多いのが野球教室。子どもたちも現役選手と接する貴重な機会とあって目の輝きが違う。減少が危惧されている野球人口の増加、裾野拡大など野球教室を開催する意義を1つに絞ることはできないが、テーマを明確にして野球少年、少女と時間をともにしているのがタイガースの岩崎優だ。
「野球教室をやる理由としては技術指導もあるかもしれないですけど、1日ではなかなかうまくならないので。それなら野球を好きになってもらう。ずっと忘れない1日にしてもらう。そういう部分を自分は大事にしていきたいんです」
16年から自主開催し9年目を迎えた「岩崎優の夢授業」は毎回、事前告知せず子どもたちの前にサプライズ登場することから始まる。今年も12月15日、京都市内の「淀イーグルスポーツ少年団」の前に「通りかかったので来ました」と登場した左腕は「今日は楽しみましょう!」と宣言した。
アップを終えて淀イーグルスの子どもたちのキャッチボールを見るとすぐに集合をかけた。
「みんなボールを怖がりすぎかな。ワンバウンドでもいいから体で止める。ボールを怖がってたらうまくならない。ボールと仲良くしてください」
そう言ってボールを1人の子どもに渡すと「思いきり俺にぶつけてみろ」と指令を出した。手加減を知らない子どもはそこそこの強さでボールを胸のあたりに当てたが、岩崎は「ほら大丈夫。全然痛くないもん。これぐらいの気持ちでやればうまくなるぞ」と文字通り体を張ってメッセージを送ったのだった。
子どもたちの「忘れない1日」を作るために、互いに全力でぶつかることも岩崎の信念。
12月1日にあった宮城県気仙沼市での野球教室では対戦企画で“全力投球”。「今日持てるすべての力を出すから向かってこい。ヘラヘラせずに真剣に」と宣戦布告すると、小中学生5人を5者連続三振に仕留めて圧倒した。
「自分も楽しいので。それだけで良いと思います。参加してくれた子たちがプロ野球選手になりたいという夢を持ち続けてくれたら嬉しいし、周りの友達に“野球っておもしろいよ”と伝えてくれたらもっと嬉しい」
そこに「指導」や「アドバイス」と言った言葉は当てはまらない。野球を楽しむ、野球ってこんなに楽しいんだ…。エンジョイ・ベースボールの伝道者として虎の背番号13は今日も突然、子どもたちの前に現れる。
文=遠藤礼(スポーツニッポン・タイガース担当)