そうなると、かつてごく普通の生き方だった「専業主婦」が珍しい存在になっていく。「なぜか肩身が狭い」という声も聞く。
責められているような気がする
「私は専業主婦なんです。就職してはみたものの、バリバリ働くタイプではないし、仕事が好きではなかった。うちは母が働いていたから、長女である私が妹や弟の面倒を見たりおやつを用意したりしていたんです。小学校高学年になると夕食の支度も私がしていました。今日は何を作ろうかと妹と弟の笑顔を思い浮かべるのが好きでした」懐かしそうにそう言うのは、ミズキさん(40歳)だ。父は「娘に食事の用意をさせるなんて」と怒ったが、私は働いている母が好きだったから、父に「私がやりたくてやってるの」と抗議したこともあった。
「母は家政婦さんを頼んでもいいんだけどと、よく言っていましたが、私は自分がやると言い張った。家事が好きなんです。あちこち掃除していると、どんどんきれいになっていくのが目に見えて分かる。仕事をする人が、どんどん仕事を片づけていって気持ちいいのと同じ感覚だと思います」
「専業主婦」を条件にお見合い結婚
それにさまざまな工夫もできる。食事の献立はもとより、春になったらカーテンを替えようとかリビングの模様替えをしようとか、自分の好きなようにアレンジすることができるのだ。「私の結婚の条件は、専業主婦でいさせてくれること。同世代ではなかなかそうはいかず、結局、親戚の紹介でお見合いした10歳年上の人と、26歳のときに結婚しました」
娘と息子に恵まれ、夫は家が大好きで、ミズキさんの料理を食べたくて「残業はしたくない」と言ってくれていた。
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うちは決して高級住宅街ではないし、夫も年上だけど驚くような収入があるわけでもない。同世代の夫より少し多いという程度。私は裁縫も好きだからカーテンなんかも自分で縫うし、子どもたちが小さい頃は洋服も、安い布を買って全部作っていました」
仕事をしなくても余裕で暮らしていけるというわけではなく、専業主婦でいたいから工夫して楽しく生活しているだけだと彼女は言う。
「でも保護者会などのときは役員を押しつけられるし、学校関係では必ず『専業主婦なんだからできるでしょ』と言われる。働いていないことを責められているような気がします」
専業主婦は「暇」で「優雅」なものなのか?
外に出ると、「居場所がない」と感じるのだという。つい先日は、ミズキさんが住んでいるマンションに越してきた人に「昼間、暇でしょう。どうして働かないの?」とストレートに聞かれたそうだ。「忙しいのよと答えました。子どもたちの給食や夫の社食とかぶらないように夕飯の献立を考え、今日はどこを片づけようかとか、アイロンかけが少したまってるなとか、家の中を全方位見つめて日々、働いているんですから。
そう言ったら、私が冗談を言っているのかと思ったみたい。『優雅な暮らしね』と言われました。専業主婦は優雅なんですかねえ」
好きなことをしているから大変だとは思わないが、外で仕事をしている主婦より暇だとも思わないと彼女は言う。
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外に出なければ女性は存在価値がないんでしょうか。私の存在って何って、私は私でしかないと思うんです」
「それぞれの生き方ですから」
ミズキさん、意外とタフである。自分に合うこと、自分がしたいことが揺るぎない。仕事をしながらイライラして家庭で夫や子どもに八つ当たりするより、工夫しながらやりくりして生活できたほうがいいと確固たる信念があるのだ。「家の中の仕事が好きな私みたいな人間もいる。別に理解してほしいわけではないけど、人それぞれの生き方ですから、放っておいてほしいですけどね」
最後は少し苦笑しながら、ミズキさんはおっとりと、だがきっぱりと言い切った。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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