限定公開( 14 )
ランドセルの価格は5万〜6万円が一般的ですが、50万円のモノが登場し、話題になっています。商品名は「赤色小札黄銅鋲背嚢具足」(あかいろこざねおうどうびょうはいのうぐぞく)。ランドセルのカブセ(ふた部分)のデザインが甲冑のように見えるので、背負うと「武将気分」を味わえるデザインになっています。
このランドセルを開発したのは、創業1957年の村瀬鞄行(名古屋市)。国内最大の革製品コンテスト「JAPAN LEATHER AWARD 2024」に応募したところ、アーティスティックデザイン賞を受賞しました。
その後、この商品を紹介したXのポストが330万インプレッションを記録し、それをきっかけに国内外から問い合わせがあるようです。甲冑ランドセルを開発した背景やこだわりなどを取材しました。
●開発のきっかけ
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このランドセルの特徴は、ランドセルのパーツのみで甲冑のような形状を再現していること。カブセの部分は、量産時に出る端切れを1枚ずつつなぎ合わせることで、甲冑のようなデザインにしたそうです。
大マチ(幅のこと)部分は異なる革を組み合わせることで模様をつくり、下部には“にらみを効かせた顔”を左右につくって、より本物らしく見せています。つまり、形と色だけで、甲冑のように見せたランドセルといえます。
開発のきっかけについて、ランドセル職人の岡田憲樹さんに聞きました。
「ランドセルをつくる際に、コードバン(馬のお尻部分の皮のこと)を使っているのですが、どうしても端切れが出てしまうんですよね。その端切れを使って財布などをつくってきましたが、それでもどうしても余ってしまう。
以前から『なんとかこれを使うことはできないか』と考えていたところ、たまたまネットで甲冑の写真を見たんですよね。そのとき『端切れを使えば、甲冑デザインのランドセルができるのでは』とひらめき、開発を進めました」とのこと。
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とはいえ、職人の岡田さんでも、甲冑ランドセルは一筋縄ではいきませんでした。本物の甲冑は、小札(こざね:甲冑に使われる小さな金属や革の板のこと)を糸で縫い付けていますが、コストと手間がどうしてもかかってしまう。岡田さんは「糸で縫うのは現実的ではない」と考え、ランドセルで使っている「鋲(びょう)」を採用しました。
甲冑ランドセルは複雑な形状ですが、開発期間は2〜3カ月ほど。普段つくっている同社の商品「匠ランドセル」をベースにしているので、それほど時間がかからなかったそうです。
村瀬鞄行はこれまでにも、さまざまなコンテストに出品してきました。2022年、同アワードで「浮世鞄-富嶽-」(50万円)が特選に選ばれました。この作品は非売品でしたが、消費者から「欲しい!」「販売しないの?」といった声が多く、2024年10月に甲冑ランドセルと同時に販売しました。
●メモリーフォームという素材に注目
話題を少し変えますが、脱ゆとり教育の影響を受け→教科書のページが増え→ランドセルの重さが問題になっています。ランドセルを軽くするために「布製」などが登場していますが、こうした状況に対し、村瀬鞄行はどのような手を打っているのでしょうか。
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従来品の場合、背中とランドセルの間に隙間ができることで、肩の一部に負担が集中して、後方に引っ張られる傾向がありました。こうした課題を受け、同社が注目したのは「メモリフォーム」という素材。メモリーフォームとは衝撃吸収能力や低反発性があって、ベッドやクッションなどに使われています。
最新モデルは、背中と肩の部分にメモリーフォームを10ミリほど使用しているわけですが、同社によると「ランドセルにこの技術を取り入れるのは難しいこと」だそうです。
従来品と比べて、どのくらいの違いがあるのか。ランドセルに重い教科書を入れて、子どもたちにどのくらい負担があるのか。さまざまな実験を繰り返して、それを数値化。近い将来、その数値を公表するそうです。
コンテストで受賞して、価格は50万円――。このような話を聞くと、奇をてらっているように感じるかもしれませんが、さまざまな作品をつくるのは職人の技術力を高めていくため、といった狙いもあるそうです。
甲冑ランドセルは鞄としての機能があるものの、基本的には観賞用の「作品」という位置付け。それでも背負えば「いざ出陣……いや、いざ通学!」と子どもが奮い立つかもしれません。
(土肥義則)
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