日本のお正月の食卓といえば、家族や親戚が集まる楽しいひととき。いっぽう、毎年この季節は餅を喉に詰まらせる窒息事故のニュースも増える。さらに近年では、「おせち料理」でもトラブルへの注意が必要になってきているという。
おせち料理のルーツは、“お正月の三が日くらいは主婦が休めるように”というもの。そのため、もともとは保存がきく食事として生まれた。
「おせち料理は、味付けを濃くしたり、煮詰めて水気を切ったり、酢でしめたりすることで、食材を腐りにくくする工夫がされていました」
こう話すのは、栄養士でHACCEPの衛生管理者資格を持つ若宮寿子さんだ。
「ところが、最近のおせちは“健康志向”の影響で、塩分控えめ、甘さ控えめの味付けになっています。また、住宅環境が改善されて室内が冬でも温かくなったことで、おせちを保管するうえで温度管理の注意がいっそう求められます。つまり、冬でも快適な部屋ではおせちが傷みやすくなっているので、おせちによる“家庭内食中毒”の発生が懸念されます」(若宮さん、以下同)
|
|
高温多湿となる梅雨時の食中毒は注意喚起がなされるものだが、お正月の食卓にもリスクがあるというのだ。では、おせち料理ではどのような食べ物に気をつけたほうがよいのか。ポイントを教えてもらった。
「食品が傷む原因は主に3つあります。(1)水分、(2)温度、(3)細菌が好きな栄養分(炭水化物、タンパク質)です。これらの条件が重なるほど、傷みやすくなってしまうのです」
料理のうち、まず最初に気をつけたいのが「煮しめ」。煮物は水気がたっぷりで、さらに野菜や高野豆腐などは炭水化物やタンパク質といった細菌が好む栄養素を豊富に含んでいる。常温で置いておくと、1日でも腐ってしまうことがあるそうだ。
「煮物は早めに食べきることが基本です。毎回食べる前に火をいれて、食べる分だけ食卓に置くようにしましょう」
煮豆も水に浸けた状態で空気に豆を触れさせないようにし、暖かい室内の場合は毎日火にかけたほうがよいそうだ。
|
|
魚介類は加熱した場合でも油断は禁物。
「特に、牡蛎やはまぐりなどの貝類は傷みやすいうえ、ノロウイルスをはじめとするウイルスを持っていることもあり、家庭内での食中毒のリスクが高い食品です。焼いても長時間放置していれば傷みが早くなるので、火を通したらできるだけ早く食べきりましょう」
長寿を祈ったえびや、「目出鯛」でおなじみの鯛の焼き物も傷みがきやすい。
「これらはタンパク質ですから、菌の大好物です。残ったら冷蔵庫で保管しましょう」
さらに、重箱に彩りとして活躍するかまぼこや伊達巻といった練りものも、エアコンの効いた暖かい部屋では傷みやすくなる。
|
|
「練り製品は、通常冷蔵保存するもの。温かい部屋に重箱を出しっぱなしにしていたら菌が繁殖しやすくなります。傷んでいてもわかりにくいこともあり、食中毒のリスクが高い食品です」
意外なところが栗きんとん。
「塩分だけでなく、砂糖も腐敗予防に働いてくれるのですが、最近では栗きんとんも甘さ控えめで作られているため、保存期間が短くなっています。こちらも早めに食べた方がいいでしょう」
近年はおせちも多様化。「洋風おせち」も数多く登場している。
「洋風おせちで気になるのは、ハムやサーモンなど、生に近い状態のオードブルが入っている点です。これも早めに食べきってしまうのがよいでしょう」
逆に日持ちがするのは、田造りなどの水気が少なく、調味料でコーディングされているものや、なますなど酢で味付けをしているものだそう。
「最近では、昔と異なり、年明けから開店しているお店もたくさんありますから、可能であればおせち料理は元日中に食べきってしまったほうがよいでしょう」
新年早々、せっかくの縁起のよい食事で食中毒を起こすようなことは避けたいところ。お正月を楽しく過ごすためにも、食中毒のリスクにも注意を向けるようにしたい。
動画・画像が表示されない場合はこちら
|
|
|
|
Copyright(C) 2024 Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。