広くて温かいお風呂に心身がトロケる癒しの空間、銭湯。かつては昭和時代の遺物かのように見なされていた時期もあったが、現在では心身への健康効果や湯船で手足を伸ばせるレジャー性などが見直され、「サウナ」&「ととのい」ブームが一段落した感のある現在も新たな銭湯ファンが増加している。
とりわけ都市部では10代〜20代の若年層が増加傾向で、訪日中の外国人観光客(インバウンド)と思しき人々も見かけるように。店舗の建て直しやリノベーションでデザイン・設備を一新するニューウェーブ銭湯も増えており、なかでも人気店は休日の大混雑も珍しくない。
一方、銭湯の客層が世代交代することに伴い、浴室内での大騒ぎや不快行為といったマナー違反も目立つようになった。ここでは都内銭湯巡りを趣味として11年目の筆者が遭遇したなかでも、特に印象的だった迷惑事例&迷惑客を紹介していく。
◆露天風呂を大人数で包囲し、大声でゲラゲラ
銭湯の大きな浴槽に身を委ねると、身体の疲れやコリだけでなく気持ちもスーッとほぐれていくものである。特に親しい友人・知人同士で銭湯に入れば、心の緩みから普段以上に会話やコミュニケーションがはかどるのも自然な効能かも知れない。だが、なにごとも程々が肝心である。
以前見かけたケースでは、中庭のような形になった露天風呂スペースを、10代後半〜20代と思しき若者が複数人で占拠していた。彼らは露天風呂のフチに腰かけて談笑に興じており、湯船に浸けているのはふくらはぎから下だけ。そこは足湯用の場所ではないのだが……。
湯船そのものは中央が空いているのだが、若者達が背中で完璧ガードしており、中まで入りたくても入れない。しかも露天風呂では大声が外への騒音となるため「お静かに!」と注意書きされているが、若者達は話が楽しすぎるせいか、お構いナシに大爆笑である。
十数分ほど経った頃、腕っぷしの強そうな客が「お前ら周りを見ろ!」と一喝。若者達はシュンと無言のまま露天風呂から撤退していった。湯船の周りをふさがず、声量も控えで普通に入浴しておけば、彼らも友達同士の楽しい会話を続けられたはずである。
◆なぜジェットバスや電気風呂から一向にどかないのか
銭湯では背中などに強く泡を当てるジェットバスや座風呂、低周波電流で筋肉マッサージする電気風呂など、マッサージ機能のついた浴槽設備も珍しくない。気持ちよさのあまりつい長居したくなるが、そこを使いたいのが自分だけでないことは忘れない方がよいだろう。
こうした設備は銭湯ひとつにつき1箇所だけか、多くても2〜3箇所ということが多い。にもかかわらず、そこを一部の銭湯客が長時間にわたって使い続け、結果的に他の客が利用できなくなることがたびたびある。特に目立つのは、そこに長年通っているであろう高齢の常連客が居座るケースである。
ジェットや電気風呂などによる身体への恩恵や快感は、若年層より中高年層の方が大きくなる。その効果をなるべく多く享受したい気持ちは分かるのだが、銭湯は知らない人同士でゆずり合う場。若い銭湯ビギナーに規範を示す意味でも、数分程度で他の人に明け渡してほしいものだが……。
◆サウナは大人気ゆえに問題行動も遭遇率高め
「銭湯に行くのはサウナに行くため!」という方も、読者の中には少なくないだろう。サウナは銭湯の設備でも特に人気が高く、街中の銭湯でも最新リノベサウナやオートロウリュ・ヴィヒタなどを見かける機会が多くなった。しかし、それゆえに内部で迷惑行為が頻発するのもサウナである。
一部の大型銭湯やスーパー銭湯を除けば、サウナの室内は基本的にコンパクトで、時にはいささか窮屈なものである。そのため混雑時はなるべく脚を広げず、まわりを圧迫しないような気遣いが求められるが、それに構わずダラリと大股を広げている客は珍しくない。
また、一部の銭湯ではサウナ室内に敷かれたサウナマットのほか、ウレタン製などの一人用小型マットをサウナ入り口に置いている。通常はこれをサウナ室内で尻に敷くべきなのだが、これを使い忘れてしまう客や、逆に一度使ったものをサウナ内に忘れていってしまう客は多い。
サウナ内で無用に汗を撒き散らされる場合も困る。ワイパーのように手で肌を強くぬぐう、汗だくのタオルを室内で絞るなどの行為に遭遇してしまった時、周りにいる人間の不快指数は計り知れない。私達が浴びたいのはサウナの熱気と癒しであって、迷惑客の汗気と体臭ではないのだ。
なお、ごく一部の銭湯では「サウナ内での性行為は厳禁!」という張り紙がされていることもあるが……。幸いにも筆者は、そうした場面にはまだ出くわしたことがない。
◆水風呂ダイビングで大波&大迷惑!
サウナの次に入りたくなるのが、水風呂。水道水に近い温度のものから「キンキンに冷えてやがるっ・・・!」と唸りたくなるものまで温度設定は様々だが、サウナで火照った体を掛け水で洗い流してから、ゆっくり水風呂に浸かって冷却する心地よさと解放感は格別だ。
そんな水風呂で見かけるマナー違反といえば「サウナの汗を流さず入る」「水風呂内で泳ぐ、はしゃぐ」などが多い。なかでも数年前に遭遇した水風呂絡みのトラブルは、今なお強く記憶に残っている。
都内でも最大級と言われる台東区の某人気銭湯に行った時のこと。その銭湯はサウナと水風呂の規模も大きく、他店と比べて数倍の規模を誇っている。その水風呂も休日の最盛期にはたびたび満員御礼となるのだが、その時はたまたまスペースに余裕があった。
筆者も含め3〜4人が水風呂に浸かっている所で、突如として水風呂内に大きな水しぶきが発生!なんとひとりの客が、大きな水風呂をプール代わりにして思いっきり飛び込んだのである。近くにいた筆者も他の客も、大波が顔面直撃するわ、鼻まで水が入るわ、たまったものではない。
もちろん周り一同は大激怒。飛び込んだ客はしばらくヘラヘラと笑っていたが、数人から激しく叱責されて大人しくなり、無表情で去っていった。彼がその後も同じ店内で入浴を楽しめたかは不明だが、いくら水風呂が広いとはいえ、何故あんな愚行を犯したのか。今なお不可解である。
◆脱衣所をビショ濡れにしたせいで喧嘩に発展
銭湯でのトラブルは浴室だけでなく、脱衣所でも発生する。特に多い……というよりほぼ毎日起こっているであろうものは、タオルで体をよく拭かないまま浴室から出てきた客が、肌に残った水滴を飛び散らせて床を濡らしてしまう場合だ。
浴室から出る際は、手持ちのタオルや手拭いなどで出来るだけ体や髪を拭いてから、というのがマナー。それでも拭いきれない箇所はどうしてもあるし、多少の水滴が垂れるのはやむを得ないだろう。しかし、歩いた後にそのまま小川ができるほど体中ビチャビチャなのは、いかがなものか……。
コレが喧嘩に発展してしまった例に遭遇したことがある。中年男性が体を拭かずに浴室から上がり、脱衣所の床はびちょ濡れに。それに御老人が「ちゃんと体を拭け! そんな事も分からんのか!」とご立腹になり、中年男性側も老人の口ぶりに逆上。剣呑な状況は銭湯店員に制止されるまで続いた。
なお、銭湯の脱衣所には大抵、床拭き用のモップが置いてある。客も自由に使えるようになっており、床が濡れたらこれで拭けば良いのだが、拭いてすぐ別の客に濡らされることも度々である。せっかく良いお湯で疲れを落としたのに、その直後に別種の疲れと徒労感がやってくるのは本当に悲しい。
◆「いい湯だな♪」はいい入り方をしてこそ
このほか、銭湯マナーとしては「湯船に入る前に体をよく洗い」「タオルを湯船に漬けない」「浴室内で洗濯しない」「髪を染めない」「カラン(洗い場)の場所取りしない」などが代表的だ。近年では盗撮防止の観点から「脱衣所でスマートフォンなど電子機器を使わない」も周知が進みつつある。
これらマナーが必ずしも徹底されていないのは、今まで書いたとおりである。しかしそれらも、銭湯の客層や銭湯自体を取り巻く環境が大きく変容する過渡期のなか、以前は常連同士で暗黙の了解となっていたルールが変化・途絶しているゆえの現象かも知れない。
銭湯マナーは浴室内ポスターのほか、東京都浴場組合といった業界団体のホームページにも掲載されている。このようなマナー啓発の機会を新規客向けに増やし、時には銭湯に慣れた人が落ち着いて声掛けするなど、「知ってて当然」ではなく「新たに知ってもらう」接点を増やすことが大事だろう。
また、こうしたルールは徐々に若年層にも浸透しつつあるようだ。銭湯で先日見かけた若者グループは話し声こそ若干目立っていたものの、騒ぎ過ぎたら自発的に注意・自制したり、他の客が浴槽に入ってきたらスペースをゆずったり、周囲への気配りや礼儀が行き届いている雰囲気であった。
同じ湯船に入っている若者と年配客が、長年の知り合いかのように仲良く語らっている様子を見かけることも増えた。こうした交流を通じて、銭湯でよくくつろぎ、よくととのう最大のコツが「ゆずり合い」と「気くばり」にあると広まってくれることを期待したい。
<TEXT/デヤブロウ>
【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2〜3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。好きなエリアは浅草〜上野近辺、池袋周辺、中野〜高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw