「土井先生」と「きり丸」が好きな人は、全ての創作物に優先して観るべき 映画「忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師」レビュー

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2024年12月21日 19:03  ねとらぼ

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「忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師」 12月20日劇場公開 配給:松 (C)尼子騒兵衛/劇場版忍たま乱太郎製作委員会

 「劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師」が12月20日から公開中だ。まず、「忍たま」のファン、特に「土井先生」と「きり丸」が好きな人は、全ての創作物より優先して本作を観るべきだと断言する。


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 その2人の愛おしさ、関係性の尊みを極大射程かつ最大出力で放ってくれていていたのだから。それでいて、「忍たま」をミリしら(1ミリも知らない)でも楽しめる間口の広さもあったのだ。


●「ゲ謎」との共通点と違うところ


 今回の映画「忍たま」の内容に触れる前に、2023年に公開され口コミ効果で右肩上がりの大ヒットをした「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」との共通点を記しておきたい。


 何しろ、愛され続ける(漫画原作の)アニメの久しぶりの劇場版というだけでなく、その中身も劇場版ならではのシリアス寄りな物語、アクションのクオリティーの高さ、大人が楽しめる物語の深み、さらには声優・関俊彦がカッコいい男(鬼太郎の父/土井先生)を演じていることなど双方に通ずるところが多く、「ゲ謎」が好きな方は今回の「忍たま」も気に入る可能性が高いのだ。


 ただし、「ゲ謎」がPG12指定(リテイクカットを含む「真生版」はR15+)で完全に大人向けだったのに対して、「忍たま」はG(全年齢)指定であり、お子さんと一緒に見るのもおすすめだ。


 「一年は組」の面々のコミカルな活躍も多いので、小さなお子さんこそ彼らに同調してワクワクできるし、気軽に笑いつつ楽しめるだろう。わずかに出血描写があるものの「鬼滅の刃」ほどハードではなく、それは敵の攻撃の危うさを示すために必要なものとして描かれていた。安心してご覧になってほしい。


●きり丸と土井先生が「家族を亡くしている」事実


 今回の映画「忍たま」は予備知識を必要としないが、公式サイトのキャラクターページを事前に見ておくのもおすすめだ。何しろ、魅力的なキャラクターそれぞれの特徴が記されており、特に今回のメインキャラクターである土井先生ときり丸には、とても重要なことが書かれているのだから。引用しておこう。


土井半助:一年は組の教科担当教師。兵法や火薬のスペシャリストだが、学園長先生の思いつきや生徒たちに振り回され、いつも胃を痛めている。地方豪族の出身であったが、幼い頃、敵の襲撃で家族を失ったという過去があり、同じ境遇のきり丸を気にかけている。練り物が苦手。


きり丸:戦で村を焼かれて家族を失い、アルバイトをしながら忍術学園に通っている。明るく元気なムードメーカー。とにかくドケチで、お金のことになると驚くべき能力を発揮する。休み中は、土井先生宅に居候している。


 そう、きり丸と土井先生は共に家族を失っており、同じ境遇である者同士で休みの日は寄り添い、同じ屋根の下で暮らしているのだ。そこから、2人の関係は単に教師と生徒というだけではない、親子にも近い、いやそういう枠組みにも収まらない絆があると分かるだろう。


●描かれるきり丸のショックの大きさ


 そして、今回の映画「忍たま」の物語の主軸となるのは、「土井先生が行方不明になる」ことだ。もちろん忍術学園の先生や六年生たちによる必死の捜索が行われるのだが、長引くにつれ「最悪の事態」も想定するようになる。


 そして、彼らの前に現れたのは、ドクタケ忍者隊の冷徹な軍師「天鬼」。その顔は、なぜか土井先生と瓜二つだったのだ。忍術学園では土井先生が行方不明である事実を下の学年に知らせないよう配慮していたのだが、きり丸は期せずしてそのこと、よりにもよって土井先生と同じ顔を持つ天鬼が六年生たちを攻撃してきたことと合わせて知ってしまう。


 想像してほしい。一緒に暮らしている、たった1人の大切な人が行方不明になり、もしかすると死んでしまったのかもしれないとも思った矢先、その大切な人が(別人であるという可能性もあるが)敵として立ちはだかるのだ。たった10歳の少年にとって、そのショックはどれほどのものだろうか。


 原作である『小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師』で描かれたきり丸の心理描写は、アニメでも丁寧に表現されている。特に、きり丸の繊細な表情と田中真弓の渾身の演技が相まって、より一層胸に迫るものになっていた。


●きり丸の「ドケチ」を含めて愛おしくなる理由


 原作小説ではきり丸について、「『ただ』という言葉を好み、『損』という響きを忌み嫌う。戦災孤児の彼が一人で生きていくための、人生の道標とも言えるものだ」「安くない授業料を捻出するため、補習がない日はアルバイトが日課となっている」という記述もある。


 きり丸のドケチぶりは、アニメでは「目が小銭になって喜ぶ」といったギャグとしても描かれていたが、それが戦争で家族を失い1人で生きていた彼にとっては「生きる術」としてとても重要だったのだ。


 そして、お金以上にきり丸にとって大切だったのが、彼に寄り添ってくれる土井先生だということも、ある涙腺決壊必至のシーンでよりはっきりと分かる。これまでのドケチだったきり丸のことも愛おしくなる上に、今回の物語があってこそ、土井先生ときり丸の2人が寄り添っての、今後の幸福も心から望みたくなるだろう。


 また、土井先生がきり丸以外の生徒からとても慕われていることが、彼らの姿からもはっきりと分かる。土井先生の行方不明中に「雑渡昆奈門(ざっとこんなもん)」が代理で教師を務めるもののその教え方の優しくなさにうんざりしてしまったり、ある場面でみんなで笑い転げながら土井先生の強さを心から信じていることを言ったり、はたまた後半のある活躍で「もう、みんなかわいいな!」と全員が愛おしくなったのだ。


●「彼岸花」が示していたこと


 本作と併せて、「彼岸花」のことも軽く知っておくとよいだろう。彼岸花の根には毒があり花も赤く血を連想させることから縁起の悪さが伝えられる一方で、お彼岸のわずかな時期に咲く儚くも美しい花であり、その花言葉には「悲しき思い出」「あきらめ」「再会」「また会う日を楽しみに」などとあり、「故人への思いを馳せつつも前を向いて生きる」というネガティブとポジティブの両面を持ち合わせている。


 その彼岸花がどの場面で映るのか、その場面は誰の視点なのか、その視点がどのように変わるのか……演出に注意して見ると、きっと感動も増すことだろう。


 加えて、本作はアニメ作品としてのクオリティーが高い。監督は初代キャラクターデザインを、さらに前作「劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段」(2011年)でも監督を務めた藤森雅也。その「全員出動!の段」も当時の合戦の専門用語や戦の陰謀などが分かりやすく語られる秀逸な内容だったが、今回も意外に込み入った戦況がリアルで、かつ混乱しないような工夫が凝らされていた。


 さらには、脚本を原作小説の著者であり、テレビシリーズも手がけてきた阪口和久が担当しているからこそ、「解釈違い」も起こりようもない。実際に原作を読んでみると、90分のタイトな上映時間のアニメ映画で、小説にあった魅力を存分に引き出した手腕にも感服させられたのだ。


 これ以上は言うことはない、めちゃくちゃにカッコいい土井先生と、史上もっとも愛おしいきり丸、もはや全員がかわいいキャラクターの魅力と、スピーディーかつ本格的な忍術アクション、そして涙腺決壊のエモーショナルな物語と演出の数々……スクリーンでその全てを堪能してほしい。


(ヒナタカ)



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