アメリカ最大の日刊紙「ロサンゼルス・タイムズ」が伝えた大谷翔平の規格外のバッティング

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2024年12月22日 11:10  webスポルティーバ

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 前人未到の50−50(50本塁打、50盗塁)、ワールドチャンピオン、そして3度目のMVPを成し遂げた米大リーグ(MLB)・ドジャースの大谷翔平選手。

 エンゼルスへの移籍前から大谷の取材を重ねてきたアメリカ最大の日刊紙『Los Angeles Times(ロサンゼルス・タイムズ)』は、ドジャース移籍からまもない今春、デーブ・ロバーツ監督やチームメイトなどへの取材によって、新しいチームで早くも「規格外のすごさ」を発揮し、あまりの打球速度に同僚が身の危険すら覚えた大谷の姿を詳細にリポート。メジャーでも屈指の「打撃のすごさ」に迫った。

 地元紙ならではの肉薄した視点から、100点を超える写真と13万字以上の詳述で大谷の足跡を記した「L.A. TIMES」公式独占本『OHTANI'S JOURNEY 大谷翔平 世界一への全軌跡』(L.A. Times編/児島修訳、サンマーク出版刊)。12月24日の日本発売を前に、本書から今年前半の活躍の一部をお届けする。

【ベッツが大谷の打席時にリードを変える理由】

(ジャック・ハリス 2024年5月18日)

 ムーキー・ベッツが大谷の打席の時だけわずかに離塁時のリードを変える、という話は象徴的だ。それは強打のチームメイトへの賞賛の表れであるとともに、塁上で自分を守る防衛策でもあるという。

 1番打者のベッツは、一塁への出塁時に大谷が打席に立つと、リードの取り方を少し変える。二塁に向けて何度かサイドステップを刻み、ピッチャーが投球すると同時に少しだけ後ろに下がる。

 大谷の打球の強さはわかっている。だから、ライナー性の当たりがまっすぐ飛んできたときに備えて、ボールに反応する時間を少し余計に取っておきたいのだ。

「あれが当たったら、僕はアウトだ」

 ベッツは半ば真顔で言った。

「僕の体重は175ポンド(約79.3キロ)。時速120マイル(約193キロ)のライナーには耐えられないよ」

 今季、大谷の打球速度は、実際には120マイルにまだ達していない。しかし、それに迫る数字は何度も記録している。

 打者・大谷は、その最大の特徴ともいえるフルスイングで、MLBのほとんどの選手よりも強くボールを捉える。この爆発的かつ魅惑的なスイングは、フィジカルとメンタルの完璧な調和の産物だ。

 データ検索サイトの『ベースボール・サヴァン』は、「強打(Hard Hit)」を時速95マイル(約152.9キロ)以上と定義するが、大谷の打球の62%近くは時速95マイルを上回っており、MLB最高の記録だ。しかも、時速105マイル(約169.0キロ)を超えた回数も47回と、2位の選手に5回の差をつけている。

 自己最速の時速119.2マイル(約191.8キロ)をマークしたのは、先月のトロント・ブルージェイズ戦の単打だが、今季この速度を上回ったのはヤンキースに所属するフアン・ソト(現・メッツ)とジャンカルロ・スタントンのふたりだけだ。

「生まれながらの傑物だよ、本当にね」と、ロバーツは語る。

【野球界最高の身体能力】

 大谷がこれほどまでに強くボールを打てるのには秘密がある。

 これまで、打球速度はおもにバットスピードに左右されると言われてきた。基本的に、スイングが速いほど、ボールを強く捉えられる。また、長年の投球追跡データによって、打球速度が速いほど打撃成績がよくなることも明らかになっている。

 ただし、バットスピードがすべてではない。たとえば、スタントンの平均バットスピードはMLB最速の時速80.6マイル(約129.7キロ)で、ベースボール・サヴァンに登録されている他の全打者より3マイル以上速いが、打率は.243にすぎない。バットスピードのベスト10に入る打者のうち、選手の総合成績を最もよく表すといわれるOPSでもベスト10にランクインしているのは、ヤンキースのアーロン・ジャッジだけだ。

 大谷の平均バットスピードは時速75.4マイル(約121.3キロ)で19位。他の一流打者と比べて突出しているとは言い難い。彼が際立っているのは、パワーとスピードに加えて彼が駆使する細かな身体調整能力と、身体のスムーズな連携だ。6フィート4インチ(約193cm)の長身を併せ持つ大谷の総合力は、毎日見ている仲間でも説明しづらい。

「正直、よくわからないよ」

 大谷がコンスタントにボールを捉えられるのはなぜかと尋ねられたフレディ・フリーマンは答えた。

「彼はそれくらい天才的なんだ」

 ドジャースのアーロン・ベイツ打撃コーチは「野球界最高の身体能力に、長い"てこ"を与えたら、こういう結果が出るってことさ」と言う。

 大谷の体の動きは効率がよく、再現性と適応力にすぐれている。多彩な球種を打ち返せるのもこのためで、ストレート、変化球、チェンジアップのどれに対しても.333以上の打率を残している。MLBの他の一流打者でも同じことはできない。「バットをボールに当てるのは練習によって磨かれる高度な技術だ」とベイツは言う。「でも、目と手を連動させる能力、ボールを芯で捉える対応力は生まれつきだね」

 大谷のアプローチには、この天賦の才能が光る。積極的に打っていくにもかかわらず、ボールゾーンのスイングや空振り率は、リーグ平均レベルにとどまる。今年は三振率も低く、現在は19.5%。このままなら余裕でキャリアローも狙える。開幕1カ月で唯一のウィークポイントと言えた得点圏打率も、ここ数週間は上昇傾向で、5月はここまで.417だ。

 これこそが、たとえ二刀流でなくとも、大谷が現実離れしたユニコーン的存在である理由だ。

 力強いスイングだけでなく、正確なスイングも繰り出せる。速球についていける一方で、変化球に対して待つこともできる。引っ張って特大ホームランを放り込んだと思えば、守備の横をついて逆方向へライナーを放つ。火曜日のジャイアンツ戦でバリー・ボンズのような特大ホームランの直後に放ったタイムリーツーベースが、まさにそれだ。

 そして何よりも、彼はそれをほぼ毎日、同じように行なえる。観衆を魅了する身体能力を、唯一無二の強靭な精神力で最大限に引き出している。

 ロバーツ監督が繰り返す。

「彼は何でもやってしまう。たぐいまれな才能だよ」

※文中の成績は現地時間2024年5月16日時点のもの

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