校野球の元監督が「お父さんコーチ」になって思った、少年野球のあんなことやこんなこと。日々、子ども達と向き合い、奮闘されている指導者の皆さんに向けた、神奈川県立川和高校野球部の元監督、伊豆原真人さんのコラムです。
小学6年生を持つ保護者は、体験会や見学会など様々な中学のチームを見て回っていると思います。中学チームの選び方についてヤキュイクにも多くの質問を頂いたいているそうなので、少し私の考えを書こうと思います。ポイントは5つあります。
<1>必ず家族で話をすること
「本人が希望したから」というだけで決めるのはお勧めしません。親もチームに関わることになるのですから、以下の点は確認しておきたいところです。
・当番の有無
・試合などの遠征の頻度
・練習時間(集合時間や帰宅時間)
まだ中学生ですから、野球をするならば間接的なもの(お弁当の準備や集合場所への送迎、ユニフォームの洗濯など)も含めて親のサポートは必須になります。どこまでできるのかをきちんと線引きして子どもと話したいものです。
<2>チーム方針をキチンと確認する
「HPでは『罵声禁止』と書いてたのに、試合になると怒号、罵声が凄くて……」
体験会や練習では穏やかでも、試合になると急にスイッチが入る指導者は少なくないと私は感じています。何をもって指導者の良し悪しとするかは別の機会に書くとして、検討しているチームの練習試合や公式戦を抜き打ちで見に行くと良いと思います。体験会や見学会はあくまで「お客さん」を迎えるイベントです。指導者側と保護者側で感じ方がずれていることもあります。
「試合はいつも固定メンバー。子どもが全然試合に出してもらえない」
人数が多いチームでも、同学年で2チーム編成するなど、スタメンでの出場機会を確保したりするところもあれば、人数が少ないのにいつも固定メンバーで試合を行いサブメンバーに殆ど機会がないチームもあります。「練習試合は全員出場させています!」と謳いながら、最終回に代打や代走でちょっと出場させるだけで、それを「全員出場」と公言するチームも少なくないと思います。特に中学以降では1日で2試合以上行うことが多いので、この辺りのチーム方針はしっかりと確認しておく必要があるでしょう。
・練習試合の出場頻度(レギュラー争いとは別)
・練習でのレギュラーとサブの区別の有無
これらはまず確認しておきたいところですね。
(指導者に聞くよりも、周りの保護者に聞いた方がリアルな話が聞けると思います)。
<3>普段の活動をチームの一般保護者から聞く
「練習試合に出場するのも競争ですよ」というチームが悪いわけではありません。それはそれでチームの方針です。あくまで選択は各家庭に委ねられているので、様々なチームがあるのは問題ではないのです。
要するに各ご家庭で求めるチーム像とチーム方針が違う場合は入団しなければ良いのですが、問題なのは公言している内容と実際に相違がある場合です。それを確認するためには、体験会や見学会の場でも良いので、周りのチームの保護者(できるだけ多くの保護者)と話をして質問するのが良いと思います。事前に質問事項を用意しておいて積極的に情報を手に入れるようにいきましょう。できれば、チームの幹部ではない一般の保護者の方と話ができると良いと思います。チーム幹部の保護者だとどうしても勧誘が最優先になりがちです。
<4>親の過度な期待が子どもを苦しめる
私は高1、小6、小2の3人の息子の父親でもあります。3人とも野球をやっているので親としての気持ちもよく分かります。
ちなみに、我が家のチーム選びのポリシーは「試合に出られるチームで野球をやること」です。子ども達の身体が小さく細い我が家では、中学生くらいまでは身体の大きな早熟選手との競争では、息子たちの良いところが伸ばせないのではないかと考えているからです。
レベルの高い名門チームなどでも「努力すれば試合に出られる」と考えるのは、かなりのリスクを伴うことだと覚悟をする必要があります。もちろん、それを否定するつもりはありませんが、個人的には「チーム選びで迷っているような状況なのであれば、レベルの高いチームに行きたいと思っても、その覚悟が足りない」と思った方が良いと感じています。もし私の息子がそういったレベルの高いチームをどうしても希望するのであれば、通用しないと分かったときにはチーム移籍も視野に入れておくことを、予め息子と話しておくようにするかもしれません。
<5>天才希望通りのチームはまず無い
「少しでも子どもに合ったチームを」という考え方は否定しませんが、個人的には100%希望通りになるチームは無いと思います。チームとしてもできる限り方針を明確にして、チームの方針とベクトルが合う家庭、選手が集まってくれることを期待していると思います。ですが野球が団体競技である以上、様々な考え方の家庭が集まってきます。なので「何を優先してチームを選ぶのか?」の優先度を決めておくことが大切だと思います。
中学野球に限らず、学校生活でも、習い事でも、集団での行動が伴うスポーツは子どもにとって様々な価値観・社会性を学ぶ場でもあります。自分の思い通りにならないことを我慢したり、逆にどうやったら自分の主張が理解してもらえるか考えて行動することなども含めて大切な経験の場なのです。
チームの考え方や方向性が家庭の考え方と同じ方向を向いているかどうか、ズレは許容範囲なのかどうか、親子それぞれの目線で見て判断できると良いと思います。
【プロフィール】
伊豆原真人。愛知県立瑞陵高校野球部、信州大学野球部で投手としてプレー。大学院卒業後にシステムエンジニアの道へ進むも、28歳で神奈川県教員へ転職。相模大野高校(相模原中等教育学校)監督を経て、2013年から川和高校の野球部監督に就任。2023年からは他校への異動に伴い高校野球の現場を離れた。担当教科は数学。
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