子ども2人を中学から私立に入れたら資金的に厳しいでしょうか?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は35歳、パート・アルバイトの女性です。2人のお子さんのことを考慮し、中学から私立を検討し始めたものの、資金的に不安を抱えています。さらに、ハードな仕事で体調を崩しているにもかかわらず、無理して働いているご主人の現状を心配しているのですが……。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。
相談者
私立と矯正で家計が心配さん(仮名)女性/パート・アルバイト/35歳
神奈川県/持ち家・一戸建て
家族構成
夫(会社員/39歳)、長男(小学4年/9歳)、長女(来年、小学生/6歳)相談内容(原文まま)
いつも楽しく拝見しています。2点相談したいことがあり、応募しました。1つ目は子ども2人を中学から私立に入れて、家計が破綻しないかという点です(中高大と私立)。
2つ目は、中高公立、大学私立(1人暮らし)という進路にした場合、どのくらいの収入を維持すれば家計が維持できるかという目安についてです。
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しかしここにきて、地元にある私立の中高一貫校のうわさを聞き、進学させたい思いにかなり心が揺れています。長男は繊細なタイプ、長女は軽度の発達障害があり、どちらも教育に手をかけてやりたい気持ちがあります。地元の私立中学は首都圏のように中学受験戦争は必要ないタイプの私立学校で、小学校時代に塾へ行かせる必要はおそらくありません。
しかし、中学から私立に入れて、教育費および生活費は破綻しないか不安です。難しければ中高公立になるのは致し方なく、わりとそちらが当たり前の地域柄ではあるのですが、迷いが出ています。
夫婦の働き方ですが、私立進学を考えるなら夫婦フルタイムの共働きにしたいところなのですが、長女に発達障害がある事情で、おそらく長女が中学生になるまでは片方がパートタイムなどで融通の利く状況でないとかなり難しいと感じています。
また、2つ目の相談事情に関することとして、夫の体調があります。昨年から持病の悪化など、全般的に体調不良を訴えることが多くなり、現在の仕事を続けるのがつらそうです。もし、夫が働けなくなったら場合、私が正社員となり収入の軸となる予定なのですが、夫ほどの収入はとても見込めないと思います(想定ですが、手取り19万円、ボーナス50万円ほどではないかと思います)。
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以上、いくつかの相談が絡まって内容が取っ散らかってしまった感があるのですが、教えていただけたら幸いです。
家計収支データ
私立と矯正で家計が心配さんの家計収支データは図表のとおりです。家計収支データ補足
(1)ボーナスの使いみち年払い保険料(学資保険)20万円、実家への帰省10万円、旅行・レジャー費5万〜10万円、他。残り30万〜35万円を貯蓄。
※2035年までローン控除により固定資産税は実質0円。
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車両費は2台分のガソリン代、車検費用、税金、保険料。1台は普通自動車、1台は軽中古自動車。基本、購入から10年サイクルで買い替え。予算はそれぞれ100万〜250万円。
(3)加入保険の保障内容
[夫]
・個人年金保険(年金額30万円、60歳から10年確定)=毎月の保険料6700円
・医療保険(終身保障終身払い、入院5000円)=毎月の保険料1900円
・収入保障保険(年金月額14万円、保険期間60歳)=毎月の保険料3400円
・低解約型終身保険(教育資金用に加入、2030年払込終了、2032年で解約返礼金321万円)=※保険料ボーナス払い
[相談者]
・医療保険(三大疾病特約つき、一時金100万円)=毎月の保険料4000円
・収入保障保険(年金月額14万円、保険期間60歳)=毎月の保険料3000円
・低解約型終身保険(教育資金用に加入、2032年で解約返礼金330万円)=払込終了
(4)住宅コスト
・購入年/2022年(新築)
・借入額/2050万円
・返済期間/35年(夫72歳の時に完済)
・全期間固定/0.8%
(※長女が大学入学以降、繰上げ返済を検討する予定)
(5)子どもの進路
大学は2人とも私立の可能性はあるが、長女の場合、自宅通学できる大学にする予定。長女の1人暮らしはさせない判断から。また、大学進学だけに限らず、専門学校、就職もあると考える。奨学金(返済型)は利用しない予定。相談者および夫が、奨学金で苦労したため。
(6)夫の体調
体調不良で病院などをいろいろ受診。ただし、原因は不明のまま。現在、それに関しては通院せず、養生を続ける。ただし、相談者は夫が仕事をできなくなるのではと不安。もともとの疾患は悪化し、現在も通院している。
(7)夫の仕事について(相談者のコメント)
「家計が夫の収入に依存しているので、本人からは辞めたい、休みたいとは言い出しにくいのだと思います。私が家計管理大好きなこともあり、先まで資金の見通しを立て、それを崩すと私が不安に思うのを避けたいと、考えているのでは。また、夫の仕事は夜勤も多く、絶えず人手が足りない状況。そのため、職場への義理もあるようです。準管理職で責任も感じている気がします」
「過去に、休職を勧めたが、結局、休まなかった。医師が休職すべきと診断すれば、おそらく本人も休むと思います」
(8)これからかかるお金について
長男は今後60万円を予定。長女も同程度の費用を検討している。
(9)定年の年齢と退職金制度の有無
夫の勤務先は、定年65歳。再雇用で70歳まで勤務可。退職金は500万〜800万円。
FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1:中学以降の教育費は2人分で2600万円アドバイス2:現状の収入ならば老後資金までほぼ心配なし
アドバイス3:収入減より健康維持を優先する
アドバイス1:中学以降の教育費は2人分で2600万円
2点のご相談ですが、ともあれ試算をしていきましょう。設定として、ご夫婦の昇給は考慮せず。ただし、奥さまは長女の方が中学入学のタイミングでパートからフルタイム勤務に変更。その際の収入は想定されている、給与が手取り19万円、ボーナスは年間手取りで50万円とします。また、投資商品は現時点で評価額の変更はなく、新たな投資額は元本として計算します。
現在の貯蓄(投資も含む)ペースですが、世帯収入から児童手当を除いた月間収支は8万6000円の黒字。ボーナスから貯蓄に回るお金を35万円とすると、年間138万円。6年間(数カ月分は便宜上省略)で約830万円となります。
長女の方が中学入学から、世帯収入は170万円アップ。無理のない範囲で、そのうち半分の85万円を貯蓄に回すとすると、貯蓄ペースは年間223万円。さらに、教育資金用に加入された低解約型終身保険の支払いがこの時期に終わるため、それも貯蓄に回すと、年間243万円。これを、ご主人が60歳まで継続すると、ざっと15年間で3645万円。
さらに、先に資産で除いた、今後2人のお子さんに支給される児童手当が合計でおよそ20年分、240万円。予定されている保険の解約金が650万円。結果、今ある金融資産と合算して、計7350万円となります。
ここからこの間に発生するまとまった支出を差し引きます。
まずは教育費。想定されている、もっとも予算が大きくなりそうな進路として、お子さん2人とも中学から大学まで私立に進学。長男の方は、遠方の大学で1人暮らしをするとします。この進路で、平均的な学費(大学は1人は理系、1人は文系とする)と、ご長男の方の生活費(4年分400万円)、その他費用も考慮すると、中学以降の教育費は計2600万円ほど。
ただし、試算では2人のお子さんとも、中学以降も月2万5000円の教育費を計上していますので、その分400万円を差し引くと、試算上は2200万円の支出増となります。
次に車の買い替えですが、今後、ご主人が60歳となるまで2回ないし3回。ここでは、2台分で計1000万円程度とします。
結果、残る金融資産は4150万円。これに、自宅の修繕、住宅機器の買い替え、お子さんの成長に合わせて生活費のアップも考慮すると、ご主人が60歳の時ざっと3700万円が残ることになります。
アドバイス2:現状の収入ならば老後資金までほぼ心配なし
これで老後資金が足りれば、心配されている中学から私立となった場合の教育資金も、安心して準備できることになります。試算ではご主人60歳としましたが、勤務先は65歳で定年ですから、現行65歳で公的年金支給となれば、老後資金を取り崩すどころか、それまで、さらに金融資産は増えるはず。さらに、想定されている退職金、個人年金保険からの年金も加算すると、65歳で少なくとも4700万円ほど、あるいは5000万円程度の老後資金が準備できる可能性もあります。
公的年金の支給額はここでは不確定ですが、仮に月10万円不足しても30年間で3600万円。ご主人100歳の時点で1000万〜1400万円が余ります。これをご夫婦の老後の予備費とすれば、ほぼ老後資金は心配ないと考えていいでしょう。
そうなると、2つ目のご質問にありました「教育費がかかった場合、どの程度、収入を維持すべきか」については、上記試算通りであれば問題なし。さらに言えば、試算では支出を多めに設定していますが、例えば、統計では老後生活の年金の不足分は夫婦世帯で月5万〜6万円。つまりは、現状から割り出した数字ではありますが、先の試算より総収入が1500万円程度下がっても、大きく心配することはないことになります。
アドバイス3:収入減より健康維持を優先する
ただ、この試算にはリスクも含まれています。ご相談者の奥さまも懸念されているご主人の健康面です。実際のご主人の体調や業務の内容、職場の状況などは分かりません。それでも、体調不良を訴えることが多いとのこと。諸事情はあるでしょうが、健康を害して、仕事のみならず、日常生活にも影響が出てしまっては意味がありません。
したがって、まずは休職をお勧めします。
休職期間は、ご主人が仕事に復帰できるまでなら、3カ月でも半年でも必要な限り確保すべき。休職中は、最長で1年6カ月(途中で出勤した日は除く)まで、傷病手当金として給与のおよそ3分の2が支給されます。それにより、世帯収入は下がりますが、教育資金や老後資金の準備にはほぼ影響はありません。
傷病手当金の申請に必要な診断が、いろいろな医療機関にあたっても得られず休めない、あるいはどうしても今の職場は休職しにくいのであれば、転職されてもいいのではないでしょうか。
それにより結果的に減収となっても、仮に手取り額で年収50万円ダウンすれば20年間で1000万円減。先に触れましたが、それでも影響はありません。
さらに、すぐには転職せず、数カ月は治療や身体のリフレッシュに専念されてもいいと考えます。
もちろん、ご主人の思いや考えもあるでしょう。資金の面で不安になる気持ちも理解できます。しかし、先にも触れましたが、もっとも避けるべきは無理をした結果、今後十分に働くこと、不自由なく生活することができなくなることです。
その点をご夫婦で十分に話し合い、焦る必要はないですが、現状をただ先延ばしにはせず、課題解決の方向を決めてほしいと思います。まだ時間も、まとまった金融資産もあります。リスタートは可能ですし、そのための選択肢はいくつもあると考えてください。
相談者「私立と矯正で家計が心配」さんから寄せられた感想
敬愛する深野先生にプランを作っていただき感激しています。夫の体調に対する優しいお言葉がしみいり、夫婦でありがたく拝読しました。まずは何よりも体調を、との言葉、本当にその通りですね。長男の進路、長女の進路、歯の矯正とあちこちに悩みをとばしてましたが、まずは今ここにいる家族の様子が第一だと改めて思い直しました。焦らずに中学生くらいから共働きにすれば子ども2人を大学まで私立に行かせても大丈夫だと分かり、お金の面でも安心できました。共働きで働いていくためにも、夫とよく話し合い、体に無理のない仕事の仕方を考えようと思います。今回は機会をいただき、誠にありがとうございました。教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。
取材・文/清水京武
(文:あるじゃん 編集部)