それにしても「嫌知らず」とは面白いネーミングである。嫌を知らない、ということは相手の気持ちを想像できないということ。ただし、もう少しねじれた男性もいるようだ。ここでは夫の「嫌知らず」を訴えている妻の話を聞いてみた。
「嫌だ!」と言っても「嫌知らず」な夫
「子どもができてから分かったんです。うちの夫は、いつでも自分が正しいと思っているタイプだなあと」そういうのはタカエさん(37歳)だ。結婚5年、3歳になる一人娘を共働きで育てているが、子どもが意志を表現できるようになってから、夫が娘をからかって面白がることが増えてきた。
「娘はお絵描きが大好きで、家でもひとりで熱心に絵を描いていることがあるんです。私は『見せて』といって、『これはなあに?』と娘に言葉でも説明させる。最後はすごいね、上手に描けてるねと褒めるんですが、夫は『犬なの? カバみたいな犬?』とか言うんですよ。
娘は仲よくしている近所の犬を描いたつもりだから、マロンだよと犬の名前を出して反論する。夫は『てっきりカバだと思った。象さんにも見えるなあ』と 。娘は泣いて抗議する。それを面白がるんですよ。
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娘が本気で泣きじゃくる様子が「かわいい?」
そこから大ゲンカになり、さらに娘が泣きわめくという修羅場が展開されたという。後日、タカエさんは夫に「からかわれていることが分からない幼い娘に、どうしてあんなことが言えるのか」と問いただすと、「かわいいから」としか返ってこない。だが娘が顔を真っ赤にして本気で泣きじゃくっているのを「かわいい」と思える神経が分からないと彼女は言う。夫は幼い頃から、好きな女の子につい意地悪をしたくなるタイプだったのかもしれないと思ってはみたが、だからといって娘にそういうことをするのは親としておかしいと彼女は感じている。
「それ以降、娘は夫に絵を見せなくなりました。娘にも防衛本能があるから当然ですよね。なのに夫は無理矢理、画用紙を取り上げようとする。すると今度は夫の前では絵を描かなくなった。夫には『最近、絵に興味がなくなったみたい』と言うしかない。『やめて』が分からない人ってどうなんだろうと最近、考え込んでしまいます」
自分がよければ幼い娘の気持ちを想像することもできないのだろうか。
「やめて!」を勝手に別解釈する「嫌知らず」夫
「うちの夫はボディタッチが激しいタイプ。付き合っている頃や新婚の頃は、愛されている実感があってうれしかったのは事実です。でも結婚して10年以上たって、子どももいるのに通りすがりにお尻を触ったり、子どもが『ママー!』と抱きついてくると、夫がそれ以上にしつこく抱きついてきてイラッとするようになって」そう言って苦笑するのはユウコさん(40歳)だ。8歳、5歳、そして1歳、3人の子がいる。にぎやかな家庭は彼女の何よりの宝物だが、夫の「しつこさ」には辟易(へきえき)としはじめている。
「もともとの夫のそういう癖が激しくなったのは3人目の子が産まれてから。私の目が子どもにばかりいっているから寂しくなったのかもしれません。授乳中に体を触られるのは本当に嫌で……。
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相手が嫌がることを正当化する不思議な夫
嫌だと言っているのに、「本当は好きなくせに」と言われたら、ムカッ腹がたって当然だ。ユウコさんはある日、正面切って夫に、本当に嫌だからやめてほしいと感情を抑えて冷静に伝えた。「オレの愛情表現を拒絶するのかと言われました。いや、愛情表現というのは相手が嫌がることをすることではないでしょと言ったんですが、『わかったわかった』とイラッとしていました。でも結局、直らない。
おそらく、夫は自分が正しいと思っていることを嫌だと言われても、自分がいいと思っているんだから大丈夫という考えなんです」
友達に嫌だと言われたらすぐやめて謝ること。ユウコさんは夫の前で、ことさらに子どもたちにそう言っている。夫も「そうだぞ、嫌がることはしちゃダメだ」と横で同意していることに、彼女は首を傾げる。
「夫にはまったく自覚がないという証拠だなと思います。ほんと、あの人のことはよく分からない。子どもたちに悪影響がないように配慮していくしかないですね」
困ったような彼女の表情が印象的だった。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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