多様性が重視される社会になりました。多様性は、簡単にいえば「みんな違って、みんな良い」ということです。個人の好みに合わせた商品やサービスの提供は、消費者の満足度を高める効果があります。
例えば、スターバックスはミルクの種類や量などを変えることによって自分好みの飲み物にカスタマイズすることができます。カレーチェーンのCoCo壱番屋は、ルーのからさを甘口から20辛まで選べます。ライスの量も変更でき、好きなトッピングもできます。
ラーメン屋も好みの具材をトッピングでき、油の量や麺の硬さを指定することができます。これらはいずれも多様性への対応です。このようなカスタマイズ対応は手間と時間がかかります。また、見返りとしての利益も決して大きくありません。
ラーメンを例にすると、売値100円、利益50円の煮卵をトッピングしてもらうために時間をかけるよりも、回転率を上げて1人でも多くお客さんを入れた方が売り上げは増えます。
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●それでもカスタマイズにこだわる理由
それでもカスタマイズにこだわる理由は利用者の満足度が高まるためです。自分好みの味をつくれる(つくってくれる)ことがリピートしたい気持ちにつながり、それが中長期で通うファンづくりになるのです。
カスタマイズ対応は競合店との差別化にもなります。例えば、最近はグルテンフリーやビーガンなどに対応した料理を提供する店があります。これらはフードダイバーシティーといわれ、細やかに対応することによって顧客層が広がり、店の特徴をつくることができます。言い換えると、多様性への対応は、大量生産と大量消費からの脱却につながるということです。
モノ不足だった時代と違い、今は良質なモノが安く買えます。その環境に慣れたことで、消費者は大量生産されたありきたりなものでは満足しなくなりました。安くて良いものは相変わらず人気がありますが、高くても良いのでさらに良いものを求める人もいます。モノの質だけでなく、モノが提供される環境にこだわる人もいます。
そのニーズに応える手段がカスタマイズであり、大量生産と大量消費によるマスプロダクションに対して、個人の好みをより深く捉えるパーソナルマーケティングが求められるようになったのです。
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●商品が生み出す3つの価値
さらに一歩掘り下げると、商品やサービスには3つの価値があります。1つ目は、ユーザーにどのように役立つかを示す「機能的価値」です。
多機能なスマートフォンは機能的価値が高い商品です。事業としては、安くておいしい牛丼やハンバーガーなども機能的価値が高いといえますし、あらゆるサービスに対応するコンビニも機能的価値が高い店といえます。
2つ目は、ユーザーの感情に訴えかける「情緒的価値」です。例えば、店の雰囲気や接客などが良い高級レストランは、味だけでなく利用者の感情も満たすという点で情緒的価値が高いといえます。
ディズニーランドなども情緒的価値が高い施設といえます。3つ目は、ユーザーそれぞれの価値観に合うかどうかを意味する「自己表現的価値」です。
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カスタマイズやパーソナルマーケティングはこの領域で価値が高いといえます。前述したマスプロダクションからパーソナルマーケティングへの流れを踏まえると、モノが十分に行き渡るようになったことで、世の中には機能的価値、情緒的価値が高い商品とサービスが浸透しました。
その結果、新たな価値が求められるようになり、自己表現的価値が高いカスタマイズや、カスタマイズ可能な店の人気が高まるようになったということです。
カスタマイズ可能なラーメン店は、その方法で成長しています。これは他の業種でも応用できる方法で、多様性時代のビジネスの成功を支えるためのポイントともいえるでしょう。
●著者プロフィール:菅原由一(すがわら・ゆういち)
SMG税理士事務所・代表税理士。現在は、東京・名古屋・大阪・三重に拠点を置き、中小企業の財務コンサルタントとして活躍。YouTubeチャンネル『脱・税理士スガワラくん』は登録者数80万人を突破し、TV、専門誌、新聞、各メディアで取り上げられ注目を集めている。
※この記事は、菅原由一氏の著書『タピオカ屋はどこへいったのか? 商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのカラクリ』(KADOKAWA、2024年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
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