病気と闘う人に対してのアンチコメント、誹謗中傷、いつから人はこんなに下品になったのだろうか。
46歳会社員が振り返る、乳がんのこと
「私も3年前に乳がんで手術したんです。その後も治療は続いて、今も薬を飲んでいますが、仕事はずっと続けてる。抗がん剤だの手術だのといったら隠してはおけませんから、ある時、同じ課の人たちに言いました。『ご迷惑をかけるかもしれないけど、できる限り、今と同じように仕事をしますから、よろしくお願いします』と明るく伝えたんです」
ユキコさん(46歳)はそう言った。抗がん剤治療中はやはり髪の毛が抜けたため、真っ赤なカツラをつけて出勤したこともある。
「うちの会社はもともとカラーリングに対して鷹揚(おうよう)だから赤毛の若い社員なんかもいるんです。私がウィッグをつけて行ったら、若手社員がおおっという顔をして『似合う〜』『かっこいいじゃないですか』って。それがすごくうれしかった。元気が出ました」
がんとの闘いは、自分にとって誰が味方なのかがわかる期間でもあったという。
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わざわざ「今、それ言う?」人もいた
それまで仲良くしていた同期の女性が、静かに自分から離れていったことにも気付いた。「彼女は、民間療法をいろいろ勧めてきたんです。『親戚がこれでよくなった』とかね、怪しいお茶とかドリンク剤とか。私は医師とよく話し合って、標準治療でいくと決めていたから、ありがたいけどとやんわり断ったんですよ。そうしたら『人の好意を受け止めてくれないなんて、あなた、変わったわね』と言われました」
どんな治療をするかは本人次第だ。医師と話し合って決めたことを他人がとやかく言う権利などない。ましてや民間療法を強引に勧められては困ってしまう。
「他にもいましたよ。私が告白したとき、女性の先輩が、『うちの母も乳がんで死んだの』って。まだ治療も始まっていなくて、一番不安だった時なので、今、それ言う?と思いました。別の社員が『どうしてそんなこと言うんですか』と言ってくれました」
世の中さまざま、人の意見もさまざまだが、誰かが病気になった時に「余計な一言を発する」人はいるものだ。
「そんなに頑張っても同情は買えないよ」
手術後は治療を続けながら、仕事に完全復帰。体調がよければ飲み会にも付き合うし、最近は出張もこなしている。「日々、元気に頑張っているんですが、なかには『そんなに頑張っても同情は買えないよ』と言う人もいるんですよね。別に私、同情されたいわけじゃないんですけどね」
ユキコさんは独身で1人暮らし。仲のいい同僚は、それとなく週末に連絡をくれる。おそらく安否確認なのだろうが、たまたま彼女が風邪で伏せっていたときはすぐに来てくれたというから、それが本当の友人だ。
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「病気の人間は大人しくしておけ!」
どんなに気をつけていても病気になるときはなるものだ。だからといって、「特別なことではない」と彼女は言う。「実際は他にもがんで闘病している社員はいるんです。でもその人は目立つことはしない。私が真っ赤なウィッグをしたり、派手な洋服を着て出社して目立つから、いろいろなことを言われているのはわかっています。でも、普通にしていたら鬱々(うつうつ)としちゃうんですよ。
だからあえて自分の気持ちを上げるような服を着ている。以前は地味な格好をしていましたからね。そういう当事者の気持ちも想像せず、言いたいことを言う人がいるのは、どうなのかなと思いますね」
私は味方もたくさんいるから気にしていないけどと言いながら、弱った人を叩く風潮だけはどうにかしたいとユキコさんは言葉に力をこめた。
「病気の人間は大人しくしておけとか、明るく生きようとすると陰口を叩かれたりとか、なんだかおかしなことになっていますよね、今の日本」
メンタルが強い人ばかりではない。誰もが考えていかなければいけない問題が目の前に生じている。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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