倒産して金の持ち逃げ、法外な契約、健康被害など、今、美容医療分野で男性の被害が増加している。メンズ美容医療を取り巻くさまざまなトラブルの実態に迫った。
■悪質美容クリニックの相談が増えている!
先日のニュースで、医療脱毛大手「アリシアクリニック」の運営法人が破産したことが報じられた。同クリニックの債権者は9万人に上り、その負債額は124億円だという。この一件で話題になっているのは、脱毛のコース料金を前払いで支払っている場合、未施術分の料金の返金は難しいということだ。
高額な料金を支払ってしまった消費者は、クリニックが破産すると泣き寝入りになってしまうケースもある。ほかにも、法外な価格の診療代・治療代を請求したり、医師の監修なしに治療を行なったりする悪質美容クリニックの存在も報告されている。
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そのような美容医療関連のトラブルは女性の被害者が多くを占めていたが、近年のメンズ脱毛ブームなどの影響もあり、男性の被害者が年々増えている。
ここ数年ニュースを騒がせている美容医療関連トラブルの実態に関して、消費者の相談窓口となっている国民生活センターの担当者が答える。
「最近は、SNSの広告をきっかけにした相談が増えています。安価なサービスを提供しているクリニックの広告を見て無料カウンセリングに行ったところ、その金額では施術できないと言われ、広告に記載があった金額以上の高額な契約をしてしまう例が目立っています。
当センターに寄せられる相談にはそのような事例が多く、SNS上での美容医療広告の広がりを感じます。
男性から寄せられる相談では、AGAなどの薄毛治療、ひげなどの医療脱毛、包茎手術など男性特有の悩みに関する部位の相談が多いです。
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何かしらの悩みを抱えて相談に行ったところ、クリニックから『今やらないと間に合わない』『今やらないと値段が高くなる』などと言われて考える暇がないまま契約をしてしまうケースが目立っています」
■契約関連でさまざまなトラブルが
このように男性の悩みにつけ込む悪質クリニックもあるようだ。具体的な相談事例にはどのようなものがあるのか?
「ネット広告を見て4800円で長茎手術(陰茎を長くする手術)を受けに行った50代男性の事例があります。この方はネットで予約をしてクリニックに出向いたところ、医師から『このままでは病気になって大変なことになる』と言われ、希望とは異なる包茎手術を勧められました。
その後、別室でカウンセラーから、本来は60万円の手術だが医師にかけ合って特別に30万円にしたと言われ、さらにいったんクリニックから出てしまうとこの割引は適用できないと言われたそうです。
その段階ですでに来院から2時間半以上たっていて疲弊していた男性は、カウンセラーの言うとおりにその場での支払いに同意してしまったと言います。
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最初は4800円のつもりで行ったのに手数料を含めて43万円の支払いになり、疲弊した状態での契約だったのでクーリングオフをしたいと当センターに相談が寄せられました」
消費者を疲弊させて強引に契約を迫る。そんな悪質クリニックには気をつけたい......。
「ほかにも、薄毛治療に関しての男性の相談事例があります。この男性はネットで初月980円という広告を見てクリニックへ無料カウンセリングに行くと、カウンセラーから『このままだと髪の毛が危ない』と言われました。
その後医師から『高い薬を塗ったほうが早く毛が生える』と言われ、ビフォーアフターの写真を見せられたそうです。薬の飲み方の説明をされていざ代金の支払いとなると、総額約100万円のローン契約をするよう迫られたといいます。
契約しないと言い出せる雰囲気ではなかったため、その場ではローン契約をしてしまったが解約したいと相談が寄せられました」
最近は電車の中づり広告などでも頻繁に見かける薄毛治療。クリニック選びに失敗すると、思わぬトラブルに遭うこともあるようだ。
■連絡がつかなくなるクリニックも
「最後は、最近話題の医療脱毛クリニックに関する男性の相談事例です。この方はネット広告を見て全身脱毛の10回コースを約30万円で契約しました。契約期間は2年間だったのですが、3回施術を受けたところでクリニックから突然休業すると連絡があり、その後一切連絡がつかなくなったと相談がありました。
このように、事業者と連絡がつかなくなるケースもありますが、この場合、消費者としてはなかなか対処が難しいことが多いです。そのため、一括払いなどの長期的な契約ではなく、サービスを受けるたびに料金を支払う都度払いをしてもらうよう呼びかけています。
結局、どのクリニックが良いかを見分けることは非常に難しく、大手だから安心というわけでもありません。
即日施術を勧める医師を選ばないことや、実施しようとする施術内容やその効果、費用、解約条件などの契約内容、想定されるリスクや副作用について、必ず施術前に説明する医師を選ぶことなど、消費者側のリテラシーを高めていくことも重要かと思います」
美容医療のクリニックだと免許を持った医師がいるはずなのに、なぜそのようなトラブルが起こる?
「クリニックに行くと、カウンセラーがすべての施術内容や金額を決め、医師はリスクや副作用の説明なしに施術をしているような相談事例も見られます。美容目的の施術は、多くの場合、緊急性がありません。
『今すぐ施術を受ける必要がある』などと不安をあおられるような問題のある勧誘や即日施術を勧めるクリニックとは契約しないようにしましょうと注意喚起をしています」
■相談できる医師に診てもらうのが大事
医師の目線からは美容医療の健康被害・契約被害はどのように見えているのだろうか?
美容後遺症診療医として他院での施術後に後遺症が残ってしまった患者を診療している朝日林太郎先生に話を聞いた。
「美容医療分野は自由診療が多いので、施術内容の自由度が高く医師の腕の差が表れやすいです。そのため、経験の少ない医師から施術を受けるとその出来に満足できない場合が多くなるようです。
だからといって高額な料金設定なら良い医師が必ずいるわけでもないので、高い金額を払ったからと安心はできません。値段が安くても良いサービスを提供しているクリニックも多くあるので、結局は個別にサービスの質を見ていくしかないです。
ひとつ気をつけなくてはならないのは、美容医療分野は男性でも女性でもコンプレックスを扱う分野であることです。治療を受けることはなんら恥ずかしいことではないのですが、コンプレックスという患者の弱みにつけ込まれる場合があることも理解しておいたほうがいいです。
なので、治療の内容やリスクについてきちんとした情報を提供していて、かついろいろな相談に応じてくれるクリニックと医師を選ぶことが重要です。
また、クリニックで施術を受けた結果、その出来に納得できないけれど、そのクリニックの先生には相談しづらいというときもあると思います。
そのほかにも、いろいろな事情があってひとりで抱え込んでしまう方もいるでしょう。そのような際は、他院の先生に診てもらうことや後遺症外来に頼ることもひとつの選択肢として考えてもらえたらと思います」
多くの美容クリニックが乱立する今、念入りに情報収集をしてクリニックを選ぶことが必要だ。
イラスト/福田嗣朗 写真/Adobe Stock