今季も「花園」の季節がやってきた。12月27日から1月7日にかけて、全国51校が参加して高校ラグビー日本一を決める「第104回全国高校ラグビー大会」が行なわれる。
開幕に先駆けてAシード・Bシードの13校と3回戦までの組み合わせは発表された。そのなかから今季、個人的に注目している高校生ラガーマン4人を紹介したい。
優勝候補の最右翼は、Aシードの「白い旋風」こと大阪桐蔭(大阪第1)だ。今季は春の選抜に続き、世界の強豪校も出場した高校世代の交流大会「サニックスワールドユース」も制した。強固なディフェンスを武器に、15人制では公式戦だけでなく練習試合も通して無敗を貫いている。
花園を制すれば6大会ぶり2度目の優勝&史上5校目の春冬連覇となり、15人制では初の3冠もかかっている。そんな常勝軍団のなかで、「彼が抜かれたらしょうがない」と綾部正史監督から全幅の信頼を寄せられているのが、キャプテンのインサイドCTB名取凛之輔(3年)だ。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
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大阪・枚方市出身の名取は枚方ラグビースクールで競技を始め、中宮中では近畿大会を制した。そして高校は「練習に参加したら楽しかったし、日本一を目指せる環境だったから」という理由で、家から1時間ほどかかる大阪桐蔭に進学する。
大阪桐蔭ではハードタックラーとして1年から12番を背負ってスタメン。パスやキックのスキルも年々上達している。模範としている選手は、元日本代表CTB中村亮土(東京サンゴリアス)やCTB眞野泰地(ブレイブルーパス東京)だという。
【東の横綱を統率する165cmの司令塔】
これまでの花園を振り返ると、2年前は準々決勝で京都成章(京都)、昨年は準決勝で桐蔭学園(神奈川)に敗れた。自らが考案した「結実」というスローガンは、努力した先に日本一を達成したいという意味を込めている。
「花園では桐蔭学園に勝って優勝したいですね!」
名取は昨季のリベンジに燃えている。
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その大阪桐蔭のライバルと目されている「東の横綱」桐蔭学園も、もちろんAシードだ。今大会では花園連覇がかかっている。
春の選抜大会では大阪桐蔭に準決勝で敗れたが、夏の7人制ラグビー全国大会では5年ぶり2度目の優勝に輝いた。そして今冬の神奈川県予選決勝では、選抜ベスト8の東海大相模を33-18で下して2大会連続22回目の出場を決めている。
チームを率いるのは、これまで4度花園で日本一に導いている藤原秀之監督。その名将が「春から成長した」と称えたのが身長165cmのSH後藤快斗(かいと/3年)だ。
桐蔭学園と言えば伝統的に「展開ラグビー」を強みとしており、FWとBKのつなぎ役であるSHが要のポジション。そのため元日本代表の後藤翔太やフランス・トゥールーズでプレーする齋藤直人、浦安D-Rocksに所属する小西泰聖など、能力の高い司令塔を輩出してきた。
熊本県出身の後藤は小学校から楕円球を握り、高校進学時は「東福岡を倒して日本一になりたい。日本代表の齋藤直人選手などOBにすばらしいSHが多い」という理由で、親元を離れて神奈川県の桐蔭学園に進学した。
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後藤たちの代が掲げたスローガンは「律」。頂点を目指し、自らを律し、チームを律すという意味を込めた。夏の練習試合では今大会Bシードの東福岡(福岡)に大敗したものの、リーダーのひとりに任された後藤はチームを「律」して牽引する。
SO丹羽雄丸(3年)とは高校1年からハーフ団を組んできた仲で息もぴったり。後藤は「プレー中の余裕と幅が増えた」と意気込む。
桐蔭学園のターゲットはもちろん、選抜大会とサニックスワールドユースで敗れた大阪桐蔭に勝っての連覇だ。後藤は「連覇はプレッシャーというより、先輩たちがくれた僕たちへのチャンス。自分たちの代で(日本一を)成し遂げたい」と語気を強めた。
【ベンチプレス130kgを上げるパワー】
そして今大会3枠ある、もうひとつのAシードには石見智翠館(島根)が選ばれた。今季は選抜大会で準優勝を果たすなど安定した成績で初のAシードを手にしたチームの大黒柱が、身長180cm・体重105kgの体躯を誇るNo.8/HO祝原久温(いわいはら・くおん/3年)だ。
福岡県出身の祝原は、小学校5年生の時に「体重70kgで太ってきたからダイエットのため」の理由でラグビー競技を始めた。中学ではWTBだったが「佐藤健次選手(現・早稲田大4年)に眉毛が似ている」と言われたことで意識するようになり、佐藤が当時プレーしていたN0.8に転向した。
高校は「普通の青春がしたかった!」の理由で男子校の東福岡ではなく、共学の強豪校を志望し、親元を離れて石見智翠館に進学。「僕の代はみんなウェイトトレーニングが好きです」と話すように、祝原も日々トレーニングに明け暮れてベンチプレスで130kg以上を上げるようになり、強靱な肉体を得た。
今季、出村知也監督は「グラウンドで体を張れる選手になれば、もっと飛躍できる」と期待して祝原をキャプテンに任命。本人も「チームに勢いをもたらしたい」とアタックだけでなくディフェンスでも体を張るつもりだ。
将来について、祝原は「高校日本代表はもちろん、U20日本代表、フル代表に選ばれて活躍できる選手になりたい」と語る。石見智翠館を初の日本一に導けるか。
最後の4人目は、ノーシード校ながら注目を集める京都市立京都工学院(京都)の司令塔を紹介したい。9年ぶり21回目の出場となる京都工学院は、テレビドラマ『スクール☆ウォーズ』のモデルとなったことで知られる「フシコー」こと伏見工業が前身。過去4度の花園優勝を誇る古豪は2016年に洛陽工業と統合し、現在の校名は初の花園出場となった。
伏見工業の赤黒ジャージーの10番といえば、誰もが思い浮かべるのが元日本代表SO平尾誠二だろう。その背番号を昨季から背負っているのがSO杉山祐太朗(2年)だ。
杉山の特徴は、パス、スキル、ランの3拍子が高いレベルであること。強豪・京都成章との予選決勝でもジャッカルを決めて勝利を呼び込むなど、細身に見えるも体を張ることを厭わないSOだ。
【花園に帰ってきた「フシコー」の10番】
熊本県出身の杉山が京都の高校を選んだのは、ラグビーを始めたスクールのコーチが京都工学院の大島淳史監督と縁があったから。ラグビーの強い公立高校を志望したこともあり、悩んだ末に京都工学院に進学。理数の進学コースに在籍する。
今夏は初めて、桜のエンブレムのつけたU17日本代表の10番としても躍動した。『スクール☆ウォーズ』は少ししか見たことがないが、「平尾さんのプレーは動画で見ています。(10番を背負うことは)プレッシャーはないですが、それにふさわしいプレーをしたい」と語る。
キックとランに強みを見せる姿は、まさに「平尾2世」。9年ぶりに出場する赤黒ジャージーの主軸として、花園で旋風を巻き起こせるか。
のちに日本代表となった高校生たちの多くは、この花園で強烈なインパクトを残していった。数年後にワールドカップの舞台に立つかもしれない開花直前のスター候補たちの今の姿を、ぜひ見てもらいたい。