司法の未来を担うはずだった元裁判官がインサイダー取引の罪で在宅起訴された。佐藤壮一郎元裁判官(32)は金融庁に出向中、不正な株取引を発覚直前まで行っていたとされる。最高裁は11月、全国の裁判官らに株取引で違法行為などをしないよう注意喚起する異例の対応を取ったが、専門家からはさらなる再発防止を求める声も上がる。
複数の関係者によると、佐藤元裁判官は出向直後から未公表の企業情報に基づいて不正な株取引を始め、取引額を徐々に増加させた。こうした株取引は、証券取引等監視委員会が調査に着手する直前まで続いていたといい、不正にのめり込んでいた様子がうかがえる。
裁判官は上場企業が当事者となる訴訟や刑事事件で司法判断を下す立場にあり、中には株価に影響し得る案件もある。それにもかかわらず、裁判所では裁判官の株取引を制限する内規などは設けられておらず、特化した研修もないという。
元裁判官で明治大大学院の瀬木比呂志専任教授(民事訴訟法)は「閉鎖的な組織で社会的常識を欠く裁判官がいるから、こういう事件が起こる」と指摘。その上で「最高裁や金融庁が出向者に対して、事前に不正な株取引をしないよう説明するなど最低限の教育をすべきだ」と話した。
一方、東京証券取引所の若手社員だった細道慶斗元社員(26)は、自らの父親に利益をもたらそうと未公開情報を漏らし、それを基に父親は3社の株式計約1700万円分を不正に買い付けたとされる。
東証を傘下に持つ日本取引所グループは、独立社外取締役で構成する「調査検証委員会」を設置し、社員への教育研修や情報管理の体制などについて検証、評価を進めている。