「イーサリアム保有で年3%」の衝撃 メルコインの“新経済圏”はどこまで広がるのか

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2024年12月26日 09:21  ITmedia ビジネスオンライン

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暗号資産でポイントが増える仕組みとは?

 暗号資産を持っていると年3%の利息(のようなもの)がポイントとして付く――。こんな一風変わったサービスが始まる。


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 提供するのはフリマアプリ「メルカリ」の子会社で暗号資産サービスを手掛けるメルコイン(東京都港区)だ。暗号資産の一つであるイーサリアムを保有するだけで、毎月メルカリポイントが自動的に付与される。これまで投機的なイメージが強かった暗号資産に、定期預金のような安定性を持たせる試みとして注目を集めそうだ。


 すでに300万口座を突破したメルコインの暗号資産サービスだが、その86%が暗号資産取引が初めてのユーザーだという。「怖い」「怪しい」というイメージが強かった暗号資産を、毎月ポイントがもらえる身近な資産へと変える試みだ。新しい経済圏づくりの挑戦が始まった。


●イーサリアムのステーキングとは


 銀行預金や株式の配当なら分かるが、暗号資産において保有額に応じてポイントがもらえるというのはどういうことだろうか。一見すると、メルカリがマーケティングのために持ち出しでポイントを付与しているように思うかもしれないが、それは違う。


 イーサリアム特有の仕組みである「ステーキング」が関係している。ステーキングとは、イーサリアムをネットワークに預け入れることで、その運営に参加し、見返りとして報酬を得られる仕組みだ。


 イーサリアムは時価総額で世界2位の暗号資産。2022年9月に大規模なシステム更新を実施し、「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」と呼ばれる仕組みに移行した。ビットコインが採用する「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」では、大量の電力消費が環境面での課題となっているが、PoSではそうした問題は生じない。この移行により、イーサリアムの消費電力は99.9%削減されたという。


 ただし、ステーキングの仕組みは複雑だ。米国では5月にイーサリアムのETF(上場投資信託)が承認されたものの、制度上の制約からステーキング収益は組み込まれていない。個人が単独でステーキングを行うには32イーサ(約2000万円)以上の保有が必要で、技術的な知識も求められる。


 そのため、暗号資産取引所などがユーザーから預かったイーサリアムをステーキングし、手数料を差し引いてユーザーに還元するサービスを提供している。国内大手の取引所では、SBI VCトレードが提供中、bitFlyerも提供予定だとしている。


●保有額に応じたポイント還元


 メルコインのサービスの特徴は、イーサリアムの保有額に応じて、ステーキング収益に相当する額をメルカリポイントとして還元する点だ。中村奎太CEOは「ステーキング自体の報酬は弊社が受け取り、ポイント還元の原資とは独立して運用する」としている。つまり、ユーザーが受け取るポイントは、実際のステーキング収益と直接的には連動していない。


 この仕組みには複数のメリットがある。ステーキング収益をイーサリアムで受け取ると、その時点での時価で無償付与されたとみなされ、その後の売却時に譲渡損益の計算が複雑になる。一方、ポイントで受け取る場合、受け取った時点で確定した金額の雑所得として扱われる。確定申告は年間の雑所得が20万円を超えた場合に必要となるが、税務処理は比較的シンプルだ。


 利用範囲の広さも特徴だ。受け取ったポイントは180日間有効で、メルカリでの買い物はもちろん、イーサリアムを購入することも可能だ。つまり「ステーキング収益を実質的にイーサリアムで受け取ることも可能である」(中村CEO)というわけだ。


 還元率は年3.0%からスタートする。「今後の利用状況や収益状況を見ながら変動する可能性がある」(中村CEO)とのことだ。12月からの保有分が対象となり、最初のポイント付与は2025年1月に行われる。現在のイーサリアムのステーキング利回りが3.1%程度であることを考えると、手数料を考慮しても比較的高い還元率といえる。


●新たなポイント経済圏の誕生


 イーサリアムの保有額に応じてポイントを付与し、そのポイントで買い物や決済ができる――。これは新たなポイント経済圏の誕生を意味する。


 ポイントの付与方法は、これまで大きく2つのパターンが主流だった。商品やサービスの購入時に値引きとして付与される形が起源で、これが最も一般的だ。もう1つはキャンペーン的な懸賞として付与される形である。


 今回のような資産保有に基づくポイント付与の例は、これまでもいくつか存在する。投資信託の保有に応じてポイントを付与する「投信マイレージ」のような仕組みは、ネット証券各社が提供しておりおなじみだ。


 また、フィンテックスタートアップであるFivot(東京都港区)が展開する「IDARE(イデア)」のように、電子マネーの残高に応じて利息的にポイントを付与するサービスもある。ただし、投信マイレージの還元率は低く、IDAREの場合は100万円が上限となっている。


 メルコインの新サービスは、こうした既存の資産連動型ポイント還元と似ているが、大きな特徴がある。イーサリアムのステーキングという実質的な収益を原資としているため、多額のポイント付与も可能なことだ。


 昨今の暗号資産価格の上昇を背景に、多額のイーサリアムを保有するユーザーも珍しくない。例えば1億円分のイーサリアムを預けたら、年間300万円分のポイントが付与される計算になる。このポイントはメルカリでの買い物だけでなく、クレジットカード「メルカード」の支払いにも使える。まさに、金利や配当のように定期的な収入として活用できるのだ。


●暗号資産の民主化へ一歩


 これまで暗号資産は、投機的な取引の対象か、せいぜいトレーディングの手段として見られてきた。値上がり益を狙って短期売買を繰り返すものという印象が強く、長期保有する資産として考える人は少なかった。実際、暗号資産取引所の多くは、売買手数料を主な収益源としている。


 暗号資産を取り巻く環境は、世界的に大きく変化している。米国では1月にビットコインのETF(上場投資信託)が承認され、3月にはイーサリアムのETFも認可された。機関投資家の参入が本格化し、暗号資産の「金融商品化」が着実に進んでいる。米国では、暗号資産は得体の知れない投資先ではなく、急上昇を続けてきたトラックレコードを持つ資産へと認識が変化してきた。


 今回のイーサリアムステーキングを活用したポイント還元は、国内でも暗号資産に対する認識を大きく変える可能性を秘めている。持っているだけで、毎月ポイントが入ってくる――。これは多くの人々になじみのある定期預金や株式配当に似た体験だ。みんな高金利の銀行預金が大好きだし、投資家も高配当を好む人は多い。毎月定期的に収入が入ってくる安心感は、投資家だけでなく多くの人が求めているものだ。


 3%という数字は、高配当銘柄ほどの高利回りではないが、高成長銘柄としては非常に高い。イーサリアムは過去5年の平均で年率90%を超えるリターンを叩き出してきており、高成長かつ安定的に配当(のようなもの)が得られる資産だと考えると魅力的だ。新たな資産として認識されるようになれば、保守的な投資家の参入も見込まれるだろう。


 「売上金でイーサリアムを買ったはずなのに、もらったポイントでお買い物ができてしまうので減らない」。メルコインの中村CEOは、こうした新しい体験を通じて多くのユーザーが魅力を感じるだろうと話す。暗号資産で得た収益をメルカリでの買い物に活用する、新しい資産活用の形が定着するかもしれない。


 一方で日本では、メルカリが暗号資産の難しさを丁寧に隠すことで、ライトユーザーの取り込みに成功してきた。サービス開始から1年9カ月で、口座数は300万を超え、その86%が暗号資産取引が初めてのユーザーだという。かつて投機の対象とされた暗号資産が、定期的な収益を生む身近な資産として、より広く受け入れられる時代が始まろうとしている。


(斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)



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