【開発者インタビュー】ヤマハの子乗せ電動アシスト自転車が初のフルモデルチェンジ!「パパママ共用」が実現できる理由を聞いた

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2024年12月26日 10:11  マイナビニュース

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完全なる“夫婦共働き時代”に突入し、電動アシスト自転車に対するニーズも変わりつつあるようだ。



ヤマハ発動機の人気子乗せモデルが来年、初のフルモデルチェンジを行い、「PAS babby」「PAS kiss」として生まれ変わる。テーマは「夫婦共用」。長く根付いていた「子乗せ自転車=ママの乗り物」という先入観を一新し、ママもパパも快適に乗れるモデルを目指したという。



では一体、今回のフルモデルチェンジではどこがどうアップデートされたのか。ヤマハ発動機のeBikeビジネス部で商品企画を担う山内理沙さんと、開発を担当した梶田剛さんに話を聞いた。


テーマは「夫婦共用」! パパは子乗せモデルに何を求めている?



――まず、「PAS babby」と「PAS kiss」はどんなモデルとして誕生したのか、その位置づけについて簡単にご説明いただけますか?



山内 電動アシスト自転車にもいろんなカテゴリーがありますが、PAS babbyとPAS kissは“子乗せモデル”というカテゴリーに属する主力モデルです。自転車協会が定めた「幼児2人同乗基準」を満たしているので、お子さまを2人、前後に同時に乗せられます。



PAS babbyのほうはチャイルドシートが後ろに、PAS kissは前に標準でついていますが、メインフレームやリアキャリアは同一。2017年にデビューして以来、マイナーチェンジは何度かあったのですが、フルモデルチェンジは今回が初となります。


――フルモデルチェンジのテーマが「夫婦共用」とのことですが、このテーマに至った背景について教えてください。



山内 もともと子乗せ自転車は“ママが乗る自転車”というイメージが強かったのですが、一歩引いて社会を見てみると、共働きの夫婦は増え、男性の育休促進もトレンドとなり、昔よりパパが子育てに積極的に関わる時代になってきています。実際に私の周りでも、パパが送り迎えしている家庭が増えたように感じていました。



――それでパパたちも乗りやすいようモデルチェンジした、ということですね。パパが子乗せモデルに求めるものって、何なのでしょう?



梶田 まずはパパが必要としている要素、困りごとや使いやすい機能を探るため、子乗せ自転車のニーズが高い地域に赴き、市場の調査を行ったり、実際に子乗せ自転車をその土地で使ってみて、どういう部分で不便を感じるかを体感したりしながら、「夫婦で快適に乗るにはこういう機能がないといけないんだな」「夫婦共用するにあたってこうしたら便利だ」と確かめていきました。



――具体的に、どういう機能が必要だったのでしょうか?



梶田 調査で最も強く実感したのは、多くの夫婦が“サドル調整”に苦労しているということです。身長差のある夫婦の場合、サドルの位置を毎回調整する必要があります。でも、子乗せ自転車に乗るシーンって、とにかくみなさん忙しいんです。



子どもを幼稚園や保育園に送ってそのまま駅に向かったり、夕方子どもを迎えに行ってすぐに夕飯を作らないといけなかったり、何かに戸惑っていると子どもがぐずったり親から離れてしまったりで危なくて……。そんな忙しい中でレバーをクルクル回してサドルをグリグリ上下させて調整するのは、すごく大変。だから結局サドルを調整せず、ママが普段使っている高さのまま違和感のある姿勢で乗っているパパが多いんです。



――たしかに、「面倒だからちょっとの距離くらい我慢しよう」と思ってしまうかもしれませんね。



梶田 ほかにも、チャイルドシートにパパの脚がガンガン当たって窮屈だったり、パパの背中との距離が近くてリュックと当たったり、子どもの視界が狭まったりしてしまうことも分かりました。しかし市場調査にあたって、狭い駐輪場や街中での取り扱いやすさやスタンドのかけやすさなどから、現行モデルの車体のコンパクトさも重要であることも分かりました。そこで今回のフルモデルチェンジでは、車体のコンパクトさはキープしたまま、サドル調整を簡単にしつつ、居住性も向上させる方向で検討しました。



山内 車体を大きくしてしまうと狭い駐輪場での取り回しも大変ですし、今度は小柄なママにとって不便になってしまいます。小柄なママでも扱いやすいコンパクトさは維持しつつ、男性も窮屈に感じない。これを両立させるために、開発のメンバーにはいろいろと無理を言わせてもらいました(笑)

フルモデルチェンジ後のアップデートポイント



――フルモデルチェンジにあたって、実際にどのような工夫を凝らしたんですか?



梶田 まずはサドルです。サドルの高さ調整は、レバーをクルクル回す手間、サドルをグリグリしながら上下させる手間、サドルを左右にぶらさず真っ直ぐになるよう調節する手間など、いろいろな手間があるんです。



そこで新型モデルでは、“クイック式レバー”を採用し、レバーを回す手間を省きました。また、シートポストとフレームの隙間を調整することで、サドルをグリグリとしなくてもスムーズに上下できるようにも改善しています。また、シートポストにレールのようなガイドを入れ回転防止をすることで、サドルがストレスなくまっすぐ向くような設計にもしました。プレミアムサドルを搭載した車体で、これだけスムーズにサドル調整ができるようになった分、誤位置での固定防止、いたずら防止や盗難防止を兼ねて上下ストッパー機能も織り込みました。


――サドルの高さ調整に関するほとんどの悩みを解消したんですね。



梶田 力の強いパパがレバーを締めてもママが楽に開けられ、正しく固定できるよう、シートバンドやフレームにも工夫を凝らしています。あまり詳細は言えないのですが、シートバンドは軸周辺の摩擦が少なくし、レバーは長く太く指かけ部は手にやさしい形状とし、フレームをたわみやすくしているので、力の弱い方でも無理のない力で痛くなくレバー開閉がしやすいように設計しています。



ちなみにサドル自体にも工夫を凝らしており、どんな方でも快適に乗っていただけるよう、日本人の体型データ(*)をもとに97.5%の体型をカバーできるよう設計しています。もちろん座り心地にもこだわっています。



(*産業技術総合研究所 AIST人体寸法データベース 1991-92)

――ほかにはどのようなところがアップデートされたのでしょうか?



梶田 もうひとつの大きなポイントが、現行車の“コンパクトさ”と、体格差のある夫婦の“居住性”を両立させつつ、ヤマハこだわりの“操縦安定性”をさらに向上させることです。いろんなシーンや条件で夫婦ともに使いやすい車体にしないといけません。



そこでまずはフレームの「ダウンチューブ」や「シートステー」を低く設定し、またぎやすく、クッションの厚いプレミアムサドルを使っても、よりサドルの高さを低くできるようにレイアウトしました。シートポストは強度を考慮しつつ長くし、サドルの高さは高い側にも範囲を広げることで、身長差のある夫婦でもより共用しやすくしました。ダウンチューブは足を楽に通しやすく、置きやすいように直線部を設け、バッテリー着脱操作に邪魔とならないシートステーの配置など、使い勝手は損ねないように低床化させギリギリのラインを攻めています。


さらに、「クランク」というペダルを支えている部品の長さを見直し、ペダリングの回転中心を下げることで、足の長い方でも初期の距離と回転時の軌跡の両面で膝と踵がチャイルドシートに当たりにくくなりました。またそれに伴い重量部品のドライブユニットやバッテリーの位置を見直し低重心化しています。これらの変更を補完するように、ギヤの仕様やアシストの設定を改めて見直し、快適な乗り味となるよう最適化しています。


――それでも必要なコンパクトさは保っていると。



梶田 もちろん、そこは覆してはいけないところなので。居住性、操縦安定性の向上のため全長が25mmほど長くなりましたが、それでもまだ十分コンパクトな車体と言えますし、25mmの変更とは思えないほど押し歩き性と乗り味は快適になり、形状の工夫によりスタンドかけも格段に行いやすくなっています。またリヤキャリヤとサドルには手にやさしい形状の取手をつけることで、スタンド掛けや駐輪機からの引き出し、車体位置の調整をしやすくしています。



――居住性をアップさせつつ、利便性は維持する。とても難しい開発だったのではないでしょうか?



山内 私からは「どうしてもコンパクトさと居住性を両立したものにしたいんだ! 」と伝えました。最初は「そんな魔法はないから! 」と言われたのですが、最終的に実現してくれましたね。やっぱり魔法使えたんだな、って思っています(笑)



梶田 本当に苦労しましたけどね……(笑)。ほかにも苦労したのは、フレームの剛性(硬さ)です。硬ければ硬い方がいいと思われるかもしれませんが、フレームの特定の部位が少ししなるように、設計上あえて柔らかくしています。



例えば、カーブを曲がろうとすると、車体が傾くので、カーブが終わったときにまっすぐの体勢に戻そうとハンドルを切りますよね。フレームを柔らかくすると、この車体が傾こうとする力の一部をフレームがしなることで吸収してくれるので、ハンドルの操作に必要な力が減り、楽に運転できるんです。自転車の重さの感じ方が軽減され、より安定し、より疲れにくくなります。また全長が長くなっていることで、まっすぐ走る時により安定して走れるようになっています。



自転車自体は少し重くなりましたが、実際に使ってみるとむしろ軽く感じるようになっています。とはいえ柔らかくしすぎるとお子さまを乗せたときにフラフラしやすくなってしまい、今度は重く感じてしまいます。硬さと柔らかさの両方のメリットが取れるように、フレームを含めた骨格部品の剛性調整を板厚0.1mm単位で行いました。

デザインもさらに洗練! チャイルドシートもアップデート



――試行錯誤の末、クオリティの高い自転車が完成したんですね。



梶田 フルモデルチェンジにあたり、デザインにもこだわりました。機能がいいだけではダメで、洗練された「機能デザイン」である必要があります。フレームやチェーンケースに取り入れている「ホリゾンタルシルエット」は、水平にスーっと伸びているデザインで、見た目からもより低重心や安定感な印象を与えるデザインになっています。


山内 これまでのモデルは「ママが乗りたい車体は何か」ということを主に考えていたのですが、今回は「夫婦共用」がテーマですから、パパが乗った姿が様になることも意識して、スタイリッシュなデザインになるよう心がけました。



梶田 デザインも機能のひとつですからね。あらゆるところをこだわり抜いて作ったので、現時点では「もうこれ以上できることはないだろう」と満足しています。



――ちなみに、チャイルドシートもアップデートしたんですよね?


山内 はい、お子さまの快適性とパパ・ママの利便性という2つの軸でアップデートしました。 お子さまの快適性についてはクッションを変えたり、カラーリングをグレーベースにすることで、日光に当たっても温度が上がりにくくしたりしました。パパ・ママの利便性については、開閉式のバーのハンドルを採用し、お子さまを乗せ降ろしする際の動線を広くしたことで、お子さまを乗せ下ろしするときに足が引っかかりにくくなるよう改善しています。



それと、マグネットバックルも少し改良しています。バックルが自立しているのを少し前に倒れるようにしたことによって間口が広がり、乗せ下ろししやすくなっています。


また、お子さまを乗せ下ろしするときに、マグネットバックルがそのままだらんとしていると、お子さまのお尻の下敷きになってしまうんですよね。なので、チャイルドシートの側面にマグネットでくっつけることで仮置きできるようにもしました。



――ありがとうございます。最後に、子乗せ自転車ユーザーへ向けてメッセージをお願いします。



山内 今までは「慌ただしい日々をちょっとでも楽に」というところに重きを置きがちだったのですが、今回は「いかに毎日がワクワクできるか」といった部分も提供したいと思い開発しました。週末も乗りたくなるようなデザインになっているので、より行動範囲やおでかけの選択肢も広がると思います。みなさまの生活が今まで以上にワクワクした日々になるといいなと思っていますので、ぜひお使いいただければ嬉しいです。



梶田 今回のフルモデルチェンジには、携わったヤマハ社員全員の並々ならぬ思いが入っています、いろんなシーンを想定しながら快適性や利便性を突き詰めました。全ての部位に対してこだわりつくしたので、ぜひ体感してみてください。お客様にストレスなく使用いただけることが、結果的にお客様の日頃の安全に繋がると信じています。PASは日頃のお客様の声、販売店様の声とヤマハ社員の情熱の融合により、感動をお届けできるように日々進化、改善しています。これからもPASをよろしくお願いします!(猿川佑)

このニュースに関するつぶやき

  • この車両、マジで免許必須にして欲しい。クソ重い車体に子供2人乗せた重量で猛スピードで歩道の歩行者のすぐ脇をかすめて爆走してて接触したら只では済まない。
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