各業界でデータ活用が進む中、テレビ業界にもその波が届き始めている。福岡放送(福岡市)は、約2年前にデータ活用の推進部門を設立。“視聴率に頼らない”新しいデータ戦略を構築すべく、試行錯誤を続けている。
同社の編成局リーチ戦略部の松浦博人副部長は、その旗振り役の1人だ。リーチ戦略部が立ち上がったのは2022年。ネットやSNSの出現で、テレビを見ない人々も珍しくない時代となり、地方局の持つ力をどうやって広げていくかを検討するため、同部署が設立された。その中の業務の一つが、データ活用への取り組みだった。
松浦さんは、テレビ業界のデータ活用について「他の業界よりも遅れているのではないか」と指摘。「良くも悪くも、視聴率という大きなデータに頼り過ぎていたのだと思う。しっかりデータを集め何かに活用したり、継続的に効果測定ができる仕組みを作ったりしてはいなかった。社内でも良い番組を作ることが最優先で、データ分析は後回しになりがちだったが、それだけでは立ち行かなくなってきた」と続ける。
「視聴率は昔から大事なデータでそれは今も変わらないが、そもそもテレビを見る人口が減っている。ネットの再生回数というデータも存在する現代で、視聴率〇〇%って再生回数に置き換えるとどのくらいの数値なのか? それをしっかりとデータとして可視化すべく、視聴率以外のデータ活用にも取り組み始めた」(松浦さん)
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●福岡放送のデータ活用、4つの取り組み
では一体、福岡放送ではどのようなデータ活用に取り組んでいるのか。まずは「視聴データ」の収集を始めたという。視聴データとは、インターネットに接続したテレビの視聴情報のことで、チャンネルを合わせているテレビの台数や視聴エリアなどがある。このデータを集め、実際に番組を見ているテレビの視聴台数を把握している。
「テレビは基本的に、電波を各家庭に流してそれを受信してもらう形なので、片方向のメディア。そのためデータを取得するのが難しく、ビデオリサーチが個別に調査した視聴率をデータとして参考にしていた。そこから先に行くべく、視聴データを取得し、視聴率だけでは見えない実数や地域分布などの可視化を始めた」(松浦さん)
また、SNSの効果測定にも力を注いでいると続ける。これまでは、番組ごとにバラバラに運用していたXやInstagram、TikTok、YouTubeなどのデータを1つのダッシュボード上にまとめたという。これにより、フォロワー数やエンゲージメント、再生回数などを時系列で比較・分析し、どの投稿がいつ伸びたのか、番組との連動はどう影響したのかなどを見える化。SNSの運用効率を高めるべく取り組んでいる。
他にも、BIツール「Domo」のダッシュボードを使い、dボタン押すことによるデータ放送の効果測定も実施。これまでは、dボタンがどれくらい押されたのかの効果測定は外部の調査会社に委託していたが、視聴データと組み合わせることで内製で可視化する仕組みを構築した。これにより番組内で行うキャンペーンがどれくらい効果があったのかを測定し、企画に生かせるようになった。
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長年放送する番組でもデータ収集のための取り組みを始めた。毎年年末ごろに放送する「全国高等学校サッカー選手権大会」(冬の高校サッカー)についても、これまでは決勝戦のみを放送していたが、福岡大会と佐賀大会の全試合のYouTube配信を23年から始めている。また、出場する全選手のデータもWebサイト上に掲載した。
これらの配信動画とWebページも、どれくらいの人に見られたかを計測。収集したデータを経営層に報告し、次年度企画の改善などに生かしているという。
●番組、クリエイターたちに横串を通す
22年のリーチ戦略部の設立以降、福岡放送内でのデータ基盤の構築に取り組んできた松浦さんだが、いまだ道半ばでゴールはまだまだ先だとこぼす。いざデータを可視化したダッシュボードを作成しても、それを社内に浸透させるにも一苦労があるためだ。
「テレビ局にいる人々はクリエイター気質な人が多く、個性派ぞろい。バラエティ番組やワイド番組、朝のニュース番組など、作る人それぞれが自分の信念を持っている。そんな人たちに『ダッシュボードを出しました!』だけで終わると、誰も使ってくれない。一人一人と直接話し『データ活用、やりませんか?』『こういうメリットがありますよ』と口説いていく必要がある」(松浦さん)
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そのため、今後の目標は社内全体で横串を指すことだと松浦さん。各番組や部署で分断されている現状を変えるために、それらの結ぶ中間地としての役目をリーチ戦略部が担いたいと展望を語る。「地方局のデータ活用事例の先駆者になれるよう、今後も活動を続けていきたい」(松浦さん)
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