『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』(大塚志郎著/宝島社刊)は、日常の思わぬ危険とその回避方法を描いたマンガとして、SNSで大きな注目を集めています。
スマホに夢中になって巻き込まれてしまう事故のように、時代の流れの中で新たに発生するリスクもあれば、川での沈水のように昔から繰り返される事故もあります。作者の大塚志郎さんは、時代関係なく繰り返し起きている事故は、その原因と対処を知ることで事故を回避できると伝えます。
では、実際に危険なシチュエーションに遭遇した時はどうすればいいのか? 大塚さんへ、死亡ピンチから生還するために日頃から気をつけておくべきことを聞きました。
◆やむなく危険な場所に近づく場合は“シミュレーション”を
――「死亡ピンチ」から身を守るために、意識しておくべきことはありますか?
大塚志郎さん(以下、大塚)「一番大切なのは、事前のシミュレーションですね。危険な場所には近づかないのが鉄則ですが、避けられないシチュエーションもあると思います。漫画の例で言えば、ため池(底なし沼)です。
仲間内で『〇〇池に行こうぜ!』と盛り上がったとき、自分だけ行かないわけにはいかないケースも出てきます。いわゆる同調圧力ですね。『危ないから行かない』と言ったら空気が悪くなってしまいます。ため池に限らず、その場のノリに合わせてついて危険な場所に行く羽目になることはあると思います。
もし、どうしても危険な場所に行くことになった場合は、事前に安全な場所を確認しておくことが重要です。たとえば(作中にも登場する)アリ地獄の溜め池の場合、池の外に出るための梯子や階段があるのでそれを事前にチェックしておきます。それから、冷たい言い方かもしれませんが、『ここで溺れても助けられないからな』と忠告しておくことも大事です。実際に助けられないですからね。
本当は近づかないことが一番良いのですが、最悪の事態をシミュレーションしておくことが大切です」
◆漫画でも描かれ話題になった「アリ地獄の溜め池からの脱出方法」
――漫画の中では、アリ地獄の溜め池からの脱出方法がかなり詳細に描かれていました。
大塚「セメントなどで舗装された池や川は、一度入ってしまうと脱出が困難な場合があります。本当は近づかないのが一番良いんですけどね。万が一そういう池にはまってしまった場合、脱出方法があります。脱出方法を知っておくことで、冷静に頭を切り替えることができます。パニックになってやみくもに沼から出ようとするのではなく、まずは階段や梯子(はしご)など、出る場所を探すことが大切です。
漫画を一度読んでいただければ、『ちょっと待てよ』と冷静に梯子を探すことができます。実際のシチュエーションだと、梯子や階段を探すのは難しいかもしれませんし、見つけてもそこまで辿りつくのに勇気もいりますよね。でも、確実に出られる場所がどこかにあると知っているだけでも助かる確率は上がりますし、冷静な判断もできると思うんです。危険な箇所を事前に察知することもできます。
そういう意味でも、この漫画に一度目を通してほしいなと思います。知っていれば助かる事例の一つだと思います」
◆同調圧力で危ない遊びをしていない? 注意してもダメなら……
――事前に梯子の位置を確認しておくだけでも、いざという時にパニックになりにくいですね。
大塚「『だれかが溺れたら救助隊を呼ぼう』など、事前に仲間内で確認できればいいですね。実際に助けられませんから。もしその発言を聞いて、『お前、空気悪くするなよ』とか言われたら、そんなグループからは離れたほうがいいですね。
そういうグループは、今後も危険なことをする傾向があるからです。危険だと思った子は自然と離れていくはずです。これも危機回避の一つです。なにか事故を起こすと、『あのグループ、危ないことしてたもんな』となることが多いのです。だから、少し注意してダメだったら、離れるしかないと思います。漫画の主人公じゃないですけど、危険な行動で死亡フラグが立っている状況です」
◆危険な場所やシチュエーションは、子どもに具体的に教えていく
――同調圧力は、子どもにとって避けるのが難しい問題ですね。
大塚「子どもの場合、集団でいるときに大きな事故が起こることが多いですね。個人ではそこまで危険なことはしませんが、集団になると悪さをしてしまいます。集団の圧力で、気づいたら結構危ないグループに関わって、危ない遊びをしてしまっているんですね。
かわいそうなのは、子どもも危ないことはなんとなくわかっていることです。おうちの人から危ない場所だという話も聞いています。でも、なにが危ないか、どうしたらいいのかが具体的にわからないから、いざ危機に遭遇しても危険を回避できないんです。
だから、危険な場所やシチュエーションは、子どもに具体的に教えていくことが大事です。その上で、逃げ方を自分で考えられるようにしておく。最低限、ここには近づかない、もしもの時の逃げ場所を確認しておくといいと思います。事前に回避方法を教えておくことも大切です。また、危険なグループや同調圧力を感じたら逃げなさい、という話もできるといいですよね」
◆だれかが溺れてしまったら、本当に「何もできない」
――川や海での危険を子どもが事前に察知するのは、なかなか難しいですね。
大塚「子どもが数人集まって、みんなでテンションが上がっていると、ますます難しくなりますよね。だれかが沈水して初めて気づくことになると思います。そして、だれかが溺れてしまったときは、作品の中でも『何もできない』と描いていますが、実際にどうしようもないんです。無理なものは無理。そこにいる人たちは助けられません。だからこそ、事前に沈水の怖さを知って、沈水の危険がある場所には近づかないようにしてほしいと漫画では警告しています。
昔の人は『河童がいるから、近づいちゃダメだよ』と子どもに恐怖を植え付け、危険な場所に近づけないようにしていました。危険を回避させるための苦肉の策ですね。『危険な川に行こう』となっても、そこにいる誰かが『あの池は河童が出るからダメだよ』『牛も引きずり込むくらい、怖いらしい』と言って抑止力になります。そこで、危険な川には近づかなくなるんです。
でも、令和の時代って迷信がほとんどなくなってしまいましたよね。あっても、エンタメ化されていて抑止力にはなりません。河童の話を聞いてもピンとこないかもしれません。だからこそ、いかに川遊びが危ないかや、危険な場所には近づかないということを、わかりやすく伝えていくことが大切だと思います。漫画の『溺』の章はぜひ読んでいただきたいです」
◆「危ない」だけではなく、「なぜ危ないのか」まで理解する
子どもの事故の原因は、危ないことを知らないことや経験不足だけでなく、同調圧力によるものも多いことが分かりました。お子さんがいる方は、危ない場所に行かない、危険なことはしないという基本に加えて、誘われた場合の対処法を一度家族で話し合うのも良いかもしれません。
【大塚志郎】
漫画家。2002年『ビッグコミックスピリッツ増刊 新僧』にて『漢とは何ぞや』でデビュー。商業誌以外にもSNSや自費出版漫画などで幅広く活動中。著書に『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』(宝島社)、『漫画アシスタントの日常』(竹書房)など。
Xでも漫画を公開中。X:@shiro_otsuka
<取材・文/瀧戸詠未>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB