2024年の大反響だった記事をピックアップ! すご過ぎて順位はつけられない「すごい人生」部門はこちら!(集計期間は2024年1月〜10月まで。初公開2024年8月2日 記事は取材時の状況) * * *
「全ての男が性欲をコントロールできるように チピコ」
これは、7月8日に放送された『月曜から夜ふかし』の「七夕なので街行く人に短冊を書いてもらった件」というコーナーにて、インタビューを受けた女性・Chipicoさんが書いた願いごとだ。
この発言自体もやや過激だが、加えて彼女の髪型が坊主だったことも注目を集めた。Chipicoさんの過去のロングヘア時代の写真も放送されており、「(当時は)女っぷりが良すぎて大変だった」「(髪の毛を)剃ったら男の人が来なくてラクかな」と坊主にするに至った経緯を簡単に説明。
するとXでは「モテすぎてブサイク風にしている女性」「美女にこんな思いさせるオスの性欲やばい」といった論争が巻き起こり大きな話題となった。そこで、日刊SPA!ではインタビューされたご本人に直撃。発言の真意と坊主にした本当の理由に迫った。
◆幼少期から美醜の価値基準に悩まされた
夜ふかしの放送から1週間後、都内某所の取材場所に現れたChipicoさん。番組でインタビューされていたときはすっぴんだったそうだが、取材当日はメイクを施しており、個性的な髪型がよく似合うかなり凛とした印象だった。そんな彼女に、坊主に至るまでの半生から聞いてみた。
「物心ついたときから両親は『かわいいね』と溺愛してくれていました。だけど、いざ幼稚園にいくと明らかに私より可愛い!と思ってしまうような子と出会って、しかも周りの大人はそういう女の子には少し対応の仕方が違うことに気づいたんです。
小学生時代も、私はよく男子から『うるせぇブス!』と言われがちだったんですけど、クラスメイトの女子のなかには絶対にそんな罵り方をされない子も存在していて……。そうした積み重ねから、私はけっして美しい側の人間ではないんだと刷り込まれていきましたね」
◆「自分の顔が嫌で鏡を見れなかった」
世間からの見られ方を自覚せざるをえない出来事は、高校入学後も続いた。
「クラスの男子たちが集まって気になる女子についての会話をしていたときに、ある男子が私の名前を出したそうなんです。だけど、誰も同意することなく、『……いい子そうだよね』と場がしらけたと伝え聞いて。やっぱり私は微妙な反応をされる側なんだなと思い知らされました」
それ以来、Chipicoさんは「美しくはなくても、せめて無害で愉快な奴になろう」とガヤガヤ騒ぐキャラに徹するように。
「でも、そうしたら今度は私のことをよく知らない人が『あの女、ブスのくせに調子乗ってね?』なんて悪口を言っていたとか……。気にしちゃいけないと思い込もうとはしてたんですが、メンタル的には徐々に蝕まれていっていて、自分の顔を見るのが嫌で鏡を見れなくなっていたり。
同時に、『もし私が男だったら美醜にとらわれずに、愉快なキャラを演じるだけで人気者になれたかもしれないのに……』と屈折したコンプレックスも抱えてました」
思い悩んでいたChipicoさんは、一時は本気で整形を考えるほどだったとか。だが、18歳の時に、自身の美醜について考え直す大きな転機が訪れた。
◆女っぷりがどんどん上がった大学時代
「両親と大喧嘩したことがきっかけで高校を中退し、自力で大学受験の費用を稼ぐためにショットバーで働き始めたんです。といってもそこはキャストの9割が女子で、お客さんも女のコたちが騒ぐのを求めてきてたので、ほぼガルバ。
でも、店長の面接を受けたら、いきなり『こんな可愛い子が来てくれて嬉しい!』と言ってくれて。お客さんや同僚も『可愛いー!』って、どんどん話しかけてくれました。そんな環境で働きはじめたから、少しずつ、自分は魅力があるかもって思い直せるようになったんです」
自信が芽生え、さらに自分の魅力を磨きたいと考えたChipicoさんは、19歳で大学進学を果たすと同時に、夜間に美容専門学校に通いはじめた。
「自分をより美しく魅せるため、また自分の本来持つ美しさを知るための確かな技術と論理を学びたかったんです。すると、さらに女っぷりが上がっていって、女子大の同級生からもモテだしました(笑)。『ごきげんよう。美人は目立って大変ですわ』みたいなことを素で言えちゃうくらい、自信に溢れていたし、満ち足りていた時間だったと思います」
◆異性としてみられることが辛くなった
だが、Chipicoさんはある悩みも抱えるようになっていく。
「私が高校中退で、自分でお金を稼いで大学に通っていた事情を知る男性たちが『支えたい』と、よくご飯なんかを奢ってくれて。私は言葉の裏を読まずに素直に受け止めるタイプなので、友人としての信頼関係を築けているつもりで、ありがたくお世話になってました。
だけど突然、『そろそろ俺の気持ち伝わった?彼女になってほしい』と異性としての思いを伝えられることが多くて……。当時は恋愛や性愛への意欲が低かったので『聞かなかったことにするから、友人関係を続けてほしい』と頼んでいたんですが、結局は相手にフェードアウトされてばかりで、疲れてしまったんですよね」
こうした経験が、Chipicoさんが「月曜から夜ふかし」で「坊主にしたらラクかな」と発言した理由のもとに当たるという。だが、じつはもう2つ坊主にした理由があったらしい。
◆「自分が性産業で働けないように」自戒で坊主に
「1つはブリーチのしすぎで頭皮のフケが悪化したので、いったん毛髪をリセットしたかったから。そしてもう1つは、『自分が性産業で働けないようにするため』でした。
というのも、実は私が坊主にした2年前は、ちょうどメンタルと体調の両面で辛くなって大学も辞めてしまった時期で、不安定な気持ちを抱えていました。その結果、安易ながらも『女としての肉体があるなら、稼げそうだし性産業をしてみよう』と考えるようになりました」
しかし、友人に「性産業で働こうと思っている」と伝えたところ、全力で止められたという。
「『簡単なノリで始めるべき仕事とは思えない。精神面体力面が追いつかなくて学問から離れたのに、性産業にならできると安易に思ってるの?稼げそうってだけでその仕事につくのは、働いてる人たちにも失礼だよ』とたしなめてくれました。
深く納得したと同時に、そんな舐めた気持ちがあることがヤバいなと感じ、二度とそんな安易な考えに至らないよう、自戒のために坊主にしようと決めたんです」
◆坊主になっても魅力は変わらない
複数の理由に後押しされたとはいえ、女性が坊主にするという行為に抵抗感はなかったのか。
「あまりなかったですね。大学時代は哲学専攻で美学を学ぶ機会があり、本当の美の基準は社会の流れでコロコロと変化する“流行”のようなものではなく、『生きとし生ける命の輝きすべて美しい』という考えに行き着いていたんです。
それなら、坊主にしたら私の恋愛市場、性産業市場での価値は下がるかもしれないけど、私自身の魅力には影響はないはずと捉えていたので、怖さはなかったです。
たぶん、前髪だけを残し後頭部の髪の毛をすべて剃ってほしいとオーダーされた美容師さんのほうがよっぽど怖かったと思いますよ(笑)。実際にこの髪型にしてからは無駄に性愛を向けられることは9割は減りました。今後もしばらくは坊主を続けようかなと」
◆「夜更かし」きっかけで男女の論争が激化
複合的な理由から坊主にし、その髪型の生活に満足しているというChipicoさん。だが、番組放送後、SNSでは彼女の本意ではない方向に論争が広がっていってしまった。
「そのことを友人に教えてもらい、自分の考えをきちんと伝える場が求めて私もXアカウントをつかって考えを主張してみたんです。
まず、『坊主だと髪の毛のおしゃれができなくてかわいそう』という声がありましたが、私は自分の意思で選んで坊主にしているうえ、いまの坊主の自分は最高に美しいと自負しているので余計なお世話かなと。
また、私と違い、自分の選択ができないまま、スキンヘッドや坊主ヘアになる方も多くいます。脱毛症、抜毛症の方などが該当するでしょう。坊主頭必須の運動部員の生徒さんもそうですかね。彼ら彼女らもかわいそうだなんて、私なら言えません。坊主かっこいいんで。
一方で、『男性に性欲をコントロールしろ』という発言は、あとから考え直すと『女性は生理があるんだから全員ピルを飲め』というのと同じくらいひどい発言だったと反省しています。それに、世のすべての男性が女性を見境なく口説こうとしているわけがないのに、『男性』と大きな主語でくくってしまったことも謝罪したかった」
◆リポストだけして満足するのは思考停止
Xの論争に自ら飛び込んだことで思うところもあったという。
「改めて、SNSとの適切な距離のとり方は難しいと感じました。たとえば、『男性に言い寄られる女の苦しさの代弁者』として祭り上げようとする女性も多かったんです。
だけど、放送内の私の発言には反省すべきことがあったのも事実です。誰かの意見を咀嚼しないまま『代弁してもらった、わたしが言いたかったことだ』と思い込みすぎるのは、思考停止に繋がりかねません。誰かを代弁者にするんじゃなくて、それぞれが発信者となっていってほしいとは思いました」
もともとSNSを避けている部分があったChipicoさんは、この論争がある程度落ち着き次第、アカウントは削除する意向だとか。彼女の本意がより多くの人たちに伝わることを願いたい。
<取材・文/田中慧>