残忍かつ凶悪な手口で世間を震撼させている「闇バイト」の数々。実行犯は若者ばかりと思いきや、自覚の有無にかかわらず中高年も手を染めている。その裏には、若者とは違う彼らならではのニーズがあった。
◆還暦になって5000万円をマルチにつぎ込む
「70代というと年寄りだと思われるけど、今の老人は結構パソコンもiPhoneもSNSも使いこなしてる。それがアダになったのかなぁ……」
銀行カード転売の闇バイトを行った石井勝彦さん(仮名・72歳)はそう振り返る。大手ゼネコン勤務を経て40代で工務店を経営するも、60歳でマルチにハマり5000万円を失ってから人生が暗転。
「それでも年金で食い繋いでましたが、ここ数年ギャンブルにのめり込み、闇金に手を出した。それで親族や知人から400万円を借りたのですが、首が回らなくなったので闇バイトに応募しました」
◆X経由で銀行カードを転売…その後も闇バイトの勧誘が続く
Xで「高収入」「即金」などのワードで検索し、行き着いたのが「キャッシュカード高額買取、即金」とポストされたアカウントだった。
その後、通信記録の残らないアプリ「シグナル」でのやり取りを強要され、石井さんが売りに出したカードは妻名義のものを含め4枚。
「買い取り額は一枚10万円。『カードが作れないヤクザの幹部が日常で使うためのもの』と説明されました」
数日後、指定されたJR高田馬場駅近くの古びた喫茶店で相手と面会し、カードと暗証番号を渡した。
「20代の半グレ風の男で、当初は紳士的だったんですが、『人気のない銀行じゃないか』と突然脅されて、一枚1万円に値切られてしまいました」
それ以降、石井さんのもとには頻繁に闇バイトの誘いが入るという。どれも一日3万〜100万円の案件で、「運転や荷物運びくらいなら……と迷っています」と話す。
◆若者の逮捕は“隠れ蓑”!?深刻化する中高年闇バイト
「主にSNSを通じて闇バイトに関する相談を多くいただくのですが、最近は生活に追われ『即日払い』などの文言に引き寄せられる中高年が増えているのを感じます」
そう話すのは、裏社会事情に詳しい作家で編集者の草下シンヤ氏だ。中高年闇バイトの増加について「むしろ今後、リクルーティングの主対象になるだろう」と分析している。
「犯罪者は常に次の一手を考えています。現在は闇バイトの実行犯が20〜30代の若者であると報道されていますが、それは犯罪者にとって“いい隠れ蓑”になっています。
実際、若者よりも使い勝手がいい場合が少なくない。犯罪はチームで行われるため、強盗のように“体力が必要”なポジションばかりではありません。
たとえば犯罪で得たカネの運搬役などの場合、犯罪者は職質されそうにない人を配置したがるので、地味な見た目をした中年男性が求められる。そんな役回りはいくらでもあります」
◆「守るものはあるのに、相談相手がいない」中高年は狙いやすい
応募者には孤独感を抱える人が少なくない。それも闇バイトに手を染める一因になっている。
「核家族化が進み、独身で交友関係が狭く相談相手がいないような中年は格好のターゲットです。そうした中年の自己効力感を刺激することは間違いなく画策しているでしょう」
また、若者と違い介護する親や家族、人脈など守るべきものが多く、それらを“人質”に取りやすいのも使用側からみると利点だという。草下氏は今後も中高年に向けて警鐘を鳴らしていきたいと考えている。
「しかし、悲しいかな、そうした注意喚起にアクセスできる人は最初から闇バイトに引っかからない。社会的孤立や生活苦による情報の遮断、判断力の低下など根本的な問題から対策していく必要があると感じます」
悪の手は老若を問わず迫っているのだ。
【作家・編集者 草下シンヤ氏】
『半グレ』(講談社)など裏社会をテーマに多くの創作を行う。彩図社編集長として発行した書籍は総計2000万部以上
取材・文/週刊SPA!編集部
―[中高年[闇バイト]の実態]―