なでしこジャパン・インタビュー
守屋都弥(INAC神戸レオネッサ)後編
パリ五輪において、バックアップメンバーからスタメン入りまで駆け上がり、これまで以上にサッカーの面白さに触れたという守屋都弥。その激闘からおよそ4カ月――所属するINAC神戸レオネッサでは、その経験をチームに落とし込んでいるという。
WEリーグ2024−2025シーズン、2期目となるスペイン人のジョルディ・フェロン監督のもと、じわじわと順位を上げ、現在2位(12月25日現在。以下同)につけているINAC神戸。WEリーグ2度目の戴冠へ突き進むなか、守屋が目指すものとは――。
――昨年のW杯や今夏のオリンピック出場の経験から、自らの所属チームに落とし込みたいもの、落とし込もうとしているものはありますか。
守屋都弥(以下、守屋)自分もそうだったからわかるんですけど、(選手によっては)自らのポテンシャルはここまでだって線を引きがちじゃないですか。でも私は代表に行って、その成長にはまだ幅があることを知ったので、そういう選手とか、(チームのプレーのなかで)そういう場面があったら「これ、できそうじゃない?」って提案するようにしています。もしかしたらできるかもしれないし、それができたら、さらにそれ以上のことができるかもしれない。そうした道標を作っていきたいです。
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――確かに代表のピッチでは、「これ、やって」ではなくて、「ここまで行けそう?」といったアプローチややり取りが多いですもんね。
守屋 まあ、自分は鼓舞するタイプではないからかもしれません。それに、(選手によって)自分はここまでできる、こうならできるとか、あるじゃないですか。そこからの自らのビジョンもあると思うので、そういうふうに伝えるようにしています。
――ジョルディ監督も2期目に入って、そのイズムがチームにかなり浸透してきているように感じます。
守屋(監督の志向するサッカーが)だいぶ形になってきたと思います。自分たちの点の取り方がわかってきたので。ただ、まだ「あれ? どうやっていたっけ?」と混乱が見られる部分もあって、ときにコケてしまう試合もあるんですが......。
――強いチームであるほど、悪い意味でスタイルを崩せなかったりするものですが、今のINAC神戸には臨機応変さがあるように見えます。
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守屋 最悪の状況を想定したトレーニングもやっていて、たまにそこでは(選手同士が)ぶつかります(苦笑)。でも、そこからいろいろと話し合って詰めていく。だから最悪な状況に直面したら、(トレーニングでやった)ああいう場面に持っていけばいい、という安心感があります。それで(危機を)防げたこともあって、チームとしての最終手段を持っているから守れている、というのもあると思うんですよね。
――WEリーグも4シーズン目を迎えて、手堅く戦ってくる相手が増えているのではないですか。
守屋 それ、思います!(相手も)こちらのことをわかっているので、右を切ってくるとか、相手FWが前から切ってくるとか。しかも、相手が5バックになったときはマンツーマンで対応してきて、下がるのも速い。
じゃあ、どうする? という状況は結構あるんですが、今シーズンはそういうところでスペイン人FWのロタ(カルロタ・スアレス)が(相手の守備を)荒らしてくれて、点を取ってくれる。相手が対策してきて、自分も思うように動けないところもあるんですけど、その分、ほかの選手が仕事をしてくれて。それで勝てているのが、今シーズンのINACの強さだと思います。
――チームの成長の幅は"じゃあ、どうする?力"ですね。それはある意味、主導権、選択権は自分たちにある、ということですよね。
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守屋 それ、すごく思います。自分、結構性格が悪いんで(笑)、(対峙する相手に対して)「自分がこう走ったらどうする?」みたいな思考でプレーしているところがあります。「そうしたら、あなたは上がれないでしょ?」みたいな。そうしたら、自分は下がらなくていいし、自分が仕掛けなくても、(相手には)自分を蓋をすることに必死になってくれれば......といったことを楽しんでいる部分はあります。
――自分たちはもちろん、相手に対しても「じゃあ、どうする?」ですね。
守屋 そうそう! そもそも自分はドリブルタイプでもないし、パサーでもない。だからこそ、どちらにもなれると思っています。ドリブルで仕掛けてCKになれば、今年のINACはセットプレーも強いですから。そういう(状況に応じた)プレーの選択についても、自分の成長を感じます。(対峙するのが)この人だったら、ドリブルでこう抜いてみようかな、とか。毎試合、挑戦ですよ。
――パリ五輪前、「いいプレーをしても、それがゴールにつながっていないから......」といったことを守屋選手は言っていました。それは、ご自身がフィニッシャーとしての貢献にもこだわりを持ち始めた、ということでしょか。
守屋 そうです。自分が(点を)決めたい、というのは今シーズン思っていること。(自分は)そこの幅を広げないといけない。
昨シーズンは(逆サイドの北川)ひかるにクロスを上げることが多くて、そうなると、自分と相手が1対1のときが勝負だったんですね。相手がどう出てくるのかとか、そこでの駆け引きが。
でも今シーズンは、(フィニッシュまで視野に入れて)オフザボールのときに自分が中に入ったり、サイドに張ったり、相手にとっては嫌なのはどっちなのか、そういうところ(の選択)も試行錯誤しながらプレーしています。
――試行錯誤とおっしゃっていますが、スタッツによるとクロスはリーグ1位です。
守屋 そうなんですか!? 数字で出ているほど、実感はないですね。でも私、昨シーズンもクロスの数は1位だったんですが、アシストが伸びなくて......。得点ランキングで上位に入るのはさすがに無理だとしても、今シーズンはアシストでは上位に入りたいと思っているんです。
――今シーズンも前半戦が終了。自分のなかで何かしらの変化はありますか。
守屋 クロスのとき、ロタとのタイミングを探っていたんですけど、自分が合わせていくのは、高さ、位置、タイミング。でも、自分の得意な形に関しては、「ここに入って!」という気持ちでクロスを上げています。「そっちが合わせて、ここだよ!」ってクロスを。
――後半戦、タイトル奪取へ向けてポイントになる相手などはいますか。
守屋 なんかサンフレッチェ広島レジーナと戦うときは、あまりいい印象がなくて......。昨シーズンもアウェーの試合は負けていて、今シーズンもホームで引き分け。あまり得意ではない感じがあるんです。
自分的にはそこまでやりづらいわけではないんですけど、なぜか勝てない。それが、一番厄介なんですよね。フォーメーションなんかも、広島戦では迷走しているような感じがして......。このあとは、そういう戦い方だけは避けたいと思っています。
――対戦相手で気になっている選手などはいますか。
守屋 う〜ん......、あっ、ひとりいますね。マッチアップする選手とは、だいたい守備では負けないんですけど、マイナビ仙台レディース戦で菊地(花奈)さんに2回くらい抜かれて......。U−17の代表なんですよね? すごく速かった。
私は初速(での勝負)が苦手なんですけど、その間合いをつかめないまま(途中で彼女の)ポジションが変わって、その後に交代してしまったので、そのままになってしまっているんですよ。菊地さんはこれまで(対峙してきた選手たち)とタイプが違っていて、フレッシュというのもあると思うんですけど、グイグイくる。今度対戦したときにどう対応するか、自分でも楽しみです。
――残りのシーズンで今シーズン立てた目標はクリアできそうですか。
守屋 本当はアシスト数ふた桁が目標だったんですが......。
――まだ、過去形の話にするのは早いと思いますが。
守屋 そうですよね(苦笑)。クロス1位なのに、どこ上げてんだって話なんですけど......。ほんと、小さなズレなんですよ。もうちょっとゴール側に上げていれば、ゴールさせてあげられたのに、とか。そこの調整を細かくしていきたいです。なんとか(目標を)達成したいので、後半戦もクロスを上げまくります!
(おわり)守屋都弥(もりや・みやび)
1996年8月22日生まれ。奈良県出身。中学校入学時にJFAアカデミー福島に入校。高校を含めて6年間在籍し、卒業後にINAC神戸レオネッサ入り。2016年U−20女子W杯に出場。チームでも徐々に頭角を現わして2022年、ウイングバックに転向して一躍リーグを代表する選手へ。なでしこジャパンにも選出され、2023年女子W杯、2024年パリ五輪に出場した。