戒厳令騒動で韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は現在、職務停止中!? そして、失職となれば大統領選に突入する!その次期大統領の最有力候補が最大野党の代表、超反日政治家の李在明(イ・ジェミョン)氏だ。彼はどんな人物なのか? 大統領になると日本はどうなるのか?
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■人権派弁護士から疑惑の多い政治家に!
韓国の国会で、尹錫悦大統領を罷免させるための弾劾訴追案が、12月14日に可決された。
そのため尹大統領は現在、職務停止中で、大統領職は韓悳洙(ハン・ドクス)首相が代行している。
今後は憲法裁判所が180日以内に尹大統領の罷免が妥当かどうかを判断し、妥当となった場合は60日以内に大統領選挙が行なわれる。
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ちなみに2004年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の弾劾訴追案は可決から約2ヵ月後に、また16年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領のときは約3ヵ月後に判断が下された。そのため、早ければ25年3月に次期大統領選挙が行なわれてもおかしくない。
この次期大統領の最有力候補が"超反日政治家""韓国のトランプ"といわれている最大野党「共に民主党」の李在明代表だ。
では、李代表とはどんな人物なのか? もし韓国大統領になったら日本との関係はどうなるのか? ジャーナリストで『コリア・レポート』編集長の辺真一(ピョン・ジンイル)氏に聞いた。
「李代表は前回22年の大統領選挙で、尹大統領に得票率わずか0.73%の差で敗れたんです。ですから、どちらが大統領になってもおかしくない状況でした。
李代表は1964年生まれの60歳です。保守地盤の強い慶尚北道(キョンサンブクト)出身で、家が貧しく、小学校卒業後は少年工として働いていました。そのときに機械に腕を挟まれてケガをし、今でも腕が曲がったままだといわれています。
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働きながら独学で勉強をし、中学・高校の卒業資格を取って大学に進学。25歳のときに司法試験に合格して、人権派弁護士として活動していました。
2010年に城南(ソンナム)市の市長選に出馬して当選。財政破綻寸前の市の財政を立て直し高く評価されました。また若者に年間5万円の商品券を配ったり、中学生に無償で制服を提供したりと、教育や福祉などにも力を入れて人気を博していました。
18年にはソウル特別市よりも人口が多い京畿道(キョンギト)知事に立候補して当選。そして、22年に大統領選挙に出馬という経緯があります」
李代表は小さい頃から苦労しているためか弱者に優しい政治家に見える。しかし、一方で不正疑惑も多い。
「李代表は現在、複数の罪で起訴されています。そのひとつが公職選挙法違反です。
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前回の大統領選挙で虚偽の発言をしたとして、ソウル中央地裁は懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を言い渡しています。
ほかにも不動産開発に絡む汚職疑惑や北朝鮮への不正送金疑惑などもあり、もしそのうちのひとつでも最高裁で有罪が確定すれば、国会議員の職を失い10年間は被選挙権が認められません。判決の時期によっては、次期大統領選の出馬もできなくなります」
大統領の最有力候補とみられている李代表も、かなり苦しい立場に立たされているようだ。
韓国政治に詳しい神戸大学大学院の木村幹(きむら・かん)教授も大統領選出馬を疑問視する。
「李代表は現在、さまざまな容疑で裁判にかけられています。もし、有罪判決が大統領選挙中に出れば、即逮捕されてしまいます。すると候補者がいなくなってしまう。そのリスクを取ってまで、野党は李代表を候補者として選ぶのかという疑問が残ります」
■戦後最悪の日韓関係に逆戻りする可能性が!
それでも、尹大統領が失職した場合、前回の大統領選で僅差に迫った李代表は、現段階では最有力候補といえる。では、もし李代表が韓国の大統領になったら、日本との関係はどうなるのか。木村氏が続ける。
「李代表はポピュリスト(大衆迎合主義者)です。得意としているのは"バラマキ"で、低所得者への補償などで支持を得てきました。ですから、政策は国内重視です。
韓国は『日本の植民地支配が悪の根源だ』ということが大前提になっている社会ですから、その方向で行動します。そのため、日韓関係は悪化するでしょう。
例えば、元懲用工問題は、韓国の最高裁が日本企業に賠償を命じた判決を出していますが、尹大統領は韓国の財団が賠償金を肩代わりする措置を取りました。しかし、この措置は韓国内では圧倒的に人気がないので、李代表が大統領になったら、この措置を見直す可能性が高いでしょう。
また、安全保障も尹大統領が中国や北朝鮮と距離を置いていることへのアンチテーゼとして接近することが考えられます」
そうなると「戦後最悪の日韓関係」といわれた文在寅(ムン・ジェイン)大統領時代に逆戻りしてしまう可能性が高い。
「そして李代表は、こうした言動時の言葉遣いが過激なために"反日政治家"や"韓国のトランプ"などと呼ばれているのです」
実際、李代表は23年の福島第一原発処理水の海洋放出を「これは第二の太平洋戦争として記録される」などと批判し、反日デモを行なっている。
前出の辺氏も李代表が大統領になると日韓関係はかなり悪化するという。
「基本的にどの国の首脳も隣国との関係を悪くしたいと思っていないでしょう。ですから、現在の尹大統領のように日本ベッタリで、北朝鮮を突き放すような外交政策は取れません。
わかりやすく言うと『北朝鮮との関係を改善し、日本の言いなりにはならない。韓国の考えを押し通す』ということです。
特に安全保障についていえば、今、日本と握手している手を離して、北朝鮮と握ろうとしているわけですから、日韓関係は大きく損なわれます。
ただ、握手をする相手の北朝鮮は、23年の12月に韓国に対する政策を転換しました。『誰が大統領になっても対話も統一もしない』と韓国との断絶宣言をしています。
それが『北朝鮮とつながりの深い李代表になったから、また昔のように付き合おう』となるかはわかりません。ですから、逆に言えば李代表の腕の見せどころでもあるわけです」
李代表が大統領になると、友好関係が日本から北朝鮮や中国にシフトされるようだが、話はそう簡単でもないらしい。辺氏が続ける。
「25年1月にアメリカはトランプ政権になります。現在、トランプ氏は北朝鮮と首脳会談を検討していて18年の会談のときの教訓から『今度はうまくやる』と言っていますから、米朝関係は好転すると思われます。ひょっとすると平壌(ピョンヤン)とワシントンD.C.にそれぞれ連絡事務所が設置されるかもしれません。
そして、韓国の李代表も北朝鮮となんとか仲良くやろうということで南北関係が良くなると、いつまでも『日米韓で連携する』などと言っていられなくなります。トランプ政権、李政権になると日本だけが取り残される恐れがあるんです」
アメリカや韓国の政権交代によって、日本の安全保障は大きな影響を受ける可能性があるのだ。では、日本はどう対応するのがいいのか。
「実は石破茂首相の慰安婦や元徴用工などに対する歴史認識は、過去に『日本は敗戦後、戦争責任問題と正面から向き合ってこなかった』などと言ったことや靖国神社に参拝していないことから、韓国は好意的に見ています。
ですから、李代表が大統領になったとしても、石破首相ならうまくやっていける可能性があります。一方でタカ派の人が首相になったら、日韓関係はさらに悪化することになるでしょう」
25年1月にアメリカでトランプ大統領が誕生し、その後、韓国で大統領選が行なわれて李代表が当選し、日本で石破首相が退陣すると、日本は東アジアで窮地に立たされる可能性もある。
尹大統領が「国政がマヒ状態にある」として発令した戒厳令に端を発した今回の騒動は「日本じゃないから」と安心している場合ではないのだ。
最後に木村氏が語る。
「韓国の現在の状況が長引くと、当然、韓国の株や通貨のウォンが下落して、東南アジアの経済が悪化します。日本の株価も落ちる。"韓国発の金融危機"も心配したほうがいいでしょう。
韓国は世界13位のGDP(国内総生産、22年)を持つ経済大国です。日本にとっても韓国は世界3位の輸出先で、世界7位の輸入先です。
1997年のタイのバーツ暴落をきっかけにしたアジア通貨危機とは比べものにならないくらい韓国はアジアで重要な国になっています。われわれ日本人の生活にも大きな影響があるのです」
隣国・韓国の戒厳令騒動は、いつ収まるのか。そして、誰が大統領になるのか。今後の動きを注意深く見ておく必要があるようだ。
取材・文/村上隆保 写真/時事通信社