61歳独身「働けるうちは働くしかない」
「私は短大卒業以来ずっと中堅企業に勤めていて、定年は65歳。30代で1度結婚したんですが、3年たっても子どもが産まれなかった。検査したら夫に原因がありました。私は子どもがいなくても2人で生活していこうと言ったんですが、夫は『不完全な自分に耐えられない』と。結婚している意味がないとまで言うので離婚しました」マホさん(61歳)は苦い思い出を振り返った。その後は結婚する気持ちをなくし、両親と暮らしていたが、50歳になるころ相次いで見送ったという。
「それからはずっと1人で生活しています。親戚付き合いもないし財産もない。会社を辞めたら人間関係すら失いそうで怖いですね。もちろん、収入もそんなにあるわけじゃないし年金も少ないので、とにかく働けるうちは働かないと生きていけないと覚悟しています」
女性に家事を期待する男性と出会っても……
一方で、多少は気が楽な面もあると彼女は言う。「友人の息子は、30歳を越えて今も実家にいる。働いていないのだそう。小遣いをあげているものの、時には息子が暴れたりもするんですって。それを聞くと、1人の方が気が楽だわと思います」
とはいえ、今は大きな持病はないが、この先は健康面が不安だとも感じている。自分の気持ちを優先させて生きることはできるが、それは誰からも心配されないということでもある。そう考えると、具合が悪いときに病院に連れていってくれる人がいるのは羨ましいとも思う。つまりは、いろいろと心揺れているのだ。
「50代後半のころ、そんな不安が積もり積もって、結婚パーティーによく顔を出しました。同世代の人と恋をして結婚できたらいいなと思って。でも結局は見つからなかった。収入自慢をした挙げ句、『女性はやっぱり料理がうまくないとね』なんていう男性と、晩年をともにしたくはないなと思いました」
この年齢の男性たちは、まだまだ従来の男女観を抱えている。社会で1人頑張ってきたマホさんとは価値観が合わない。
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64歳「1人で何が悪い」と開き直っているけれど
ずっと独身、夫なし子なし、親はいないし友だちだって多くはない。それの何がいけないのと半分開き直っているのは、ミナコさん(64歳)だ。「私、実は未婚のままシングルマザーになろうと思ったことがあるんです。大好きだった既婚の彼と付き合って妊娠したとき。20代後半でした。彼に黙って産むつもりだったんですが、結局は流産した。
彼は気付いていたはずなのに何も言わなかったから、私も何も言わずに別れました。後から手紙が来て謝られたけど、彼への未練はなかったですね」
それでも、あの時産めていたら子どもは30代半ばになるなと考えることもある。考えても仕方ないのだが、仕方ないから考えてしまうと彼女は言った。
「現実を見なければいけないなと思って、還暦を過ぎたころから、今しか見ないと決めました。今は60歳までいた職場で嘱託として働いていますが、給料は激減、仕事内容は変わらず忙しいので、なんだかバカバカしいなとは思っています。でも働ける場があるだけいいのかもしれない」
病気を克服、ただ「長生きしてどうする」とも
50代でがんを患ったが今はほぼ完治し、定期的に検査に通うだけで済んでいる。せっかく病を克服したのだから、長生きしてやると思っているが、たまに「長生きしてどうするんだろう」と思うこともあると苦笑した。「数は多くないけど、いい友だちはいます。でも彼女には家族がいるから、私のことで迷惑はかけられない。友だちなんだから甘えてよと言われても、なかなか人を頼ることはできません。やっぱり他人に頼られたら迷惑ですよ、きっと」
病気の時も1人で入院し、1人で退院したが、特に寂しくはなかった。むしろ、誰にも迷惑をかけなくてよかったと思った。その後は仕事で同僚に迷惑をかけたこともあるが、元気になってからはがむしゃらに働いた。そのため、チームリーダーとして嘱託ながら会社から慰留された。
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年をとれば心も体も衰えていく。それは受け入れるしかないが、「まだ覚悟はできていない」とミナコさんは言う。
「後期高齢者でも結構元気な人が多いですからね。80歳くらいにならないと、本当の“老い”には直面できないのかもしれない。それが果たして、私のような単身高齢者にとって幸せなことなのかどうか分かりませんが。生きているのか死んでいるのか分からないようなことになったらどうしようとそれが恐怖です」
死ねないけど、元気にも生きられない。そんな状態が怖いのは、誰も同じかもしれない。
<参考>
・国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)」(2024年推計)
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))