第3回(全3回):渡辺康幸が占う第101回箱根駅伝
2025年1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝がいよいよ迫ってきた。
優勝候補は國學院大、青山学院大、駒澤大が筆頭候補に挙がってくるが、「3強」を追うチームはどこになるのか? シード権争い、また予選会組の戦いぶりは?
学生駅伝のテレビ中継、また箱根駅伝では第一中継車の解説でおなじみの渡辺康幸氏(住友電工陸上競技部監督)に、個人的な注目点も含めて語ってもらった。
【創価大を筆頭にシード校の情勢は?】
――3強に続くチームについてお聞きします。まずは今季、出雲駅伝、全日本大学駅伝で4位と、安定した力をつけている創価大の名前が挙がってきます。
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渡辺 創価大に加えて早稲田大、前回3位の城西大です。
創価大は2区にスティーブン・ムチーニ選手(2年)が入り、5区は吉田響選手(4年)でほぼ間違いないないと思います。ほかにも主将の吉田凌選手(4年)、石丸惇那選手(3年)や小暮栄輝選手(4年)など往路を走れる力のある選手がいるので、往路3位以内の候補といえます。吉田響選手の爆発力次第で順位が変わってくると思います。
――創価大の榎木和貴監督は、指揮官就任からしばらくの間は日本人エースを1区に持ってきていましたが、年々スカウトの循環なども含めてチーム力が上がってきたので、いろんな区間配置が可能な印象です。
渡辺 そうですね。非常に安定していますし、優勝を争える力は十分に備えていると思います。
――渡辺さんの母校であり、監督も務めた早大はいかがですか。
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渡辺 前回、5区で「山の名探偵」と命名される走りを見せた(区間6位)工藤慎作選手(2年)が好調とのことなので、2区候補のエース山口智規選手(3年)が実力どおりの走りができれば、往路の3番以内、悪くても往路5位以内には入る戦力を持っています。
やっぱり2区と5区に置ける選手がいるのといないのでは、全然違います。
――その点、城西大も同じです。
渡辺 前回5区区間賞の山本唯翔選手(現SUBARU)は卒業しましたが、前回2区を走った斎藤将也選手(3年)が山を上り、絶好調のヴィクター・キムタイ(3年)が2区ではないでしょうか。特に斎藤選手は、もともと山本選手よりも1分近く速く上れるという話も聞いています。5区候補ではほかに平林樹選手(4年)もいるので、櫛部静二監督は、かなり自信を持っている様子でした。
――城西大は、他校に比べてはあまり注目を集めていないようにも見えますが、戦力は揃っています。
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渡辺 大きな見方をすれば、駒大に近いチーム力と言えます。城西大は前回3位のチームですし、昨季の強い下級生が今季も残っているわけですから、3位以内に入ってもおかしくはないと思っています。
――前回4位、現在出場校で最長の19年連続シード権獲得中の東洋大はいかがですか。昨季も出雲、全日本が振るわずに箱根で巻き返しましたが、今季もふたつの駅伝では思うような結果にはなりませんでした。
渡辺 梅崎蓮選手、石田洸介選手(ともに4年)ら主力の出来次第となるチームです。現状、山などのスペシャリストがいないなかで、優勝争いとなると少し厳しいかもしれません。とはいえ、酒井俊幸監督は、箱根にはきちんと合わせてきて、いつも上位に絡んできますからね。
あと、今年は迎暖人選手、松井海斗選手ら1年生にいい選手がいますので、伸びしろはあると思います。
――3年連続シード権獲得中の法政大も3年連続6区で好走を見せている武田和馬選手(4年)を中心に戦力が揃っています。
渡辺 山がいますし、ここ数年の戦いぶりもシード争いという観点では安定しています。小泉樹選手(4年)も調子がいいようですし、5000m、10000mで法大記録を出した大島史也選手(3年)も勢いがありますので、しっかり上位を視野に入れた位置の駅伝を展開するのではないでしょうか。
――シード権争いについては、ベテランの中野孝行監督が率いて育成に定評のある帝京大、前回、真名子圭監督が就任2年目でシード権を奪取した大東文化大が挙がってきます。
渡辺 帝京大と大東文化大は、しぶとく、似ているタイプのチームでシード権争いでは上位にくると思います。「中野マジック」にはもう何が起きても驚きませんし、大東大も日本人選手が全学年にいいバランスでいると思いますので、あと一歩踏み出せれば、もうワンランク上に行く可能性を秘めています。
【ふたりの東大生ランナーにも注目】
――予選会突破組の印象はいかがでしょうか。
渡辺 トップ通過の立教大は、今後への展望も含めて魅力があるチームです。就任1年目の高林祐介監督の指導が見事で、来季以降にも光が見えるチームです。全日本大学駅伝でもシード権を獲得しましたし、自分で考えられる選手が多く、そうした選手たちとの信頼関係を築いている。
高林監督が駒大やトヨタ自動車で培ってきたものを浸透させ、課題でもあった長い距離で戦うために足りない要素、「速さだけじゃなく強さも必要だよ」ということを教え込んだ結果だと思います。
――トップ通過は、選手たちの自信にはなります。
渡辺 一方で油断になることもあるので、その点は気をつけなければなりません。私自身も早大の監督時代に予選会をトップ通過してシードを落としたこともあります。
予選会の結果と本戦の結果はリンクしないものなので、その点は2位通過の専修大にも共通している部分です。
ただ、今回の全体的な情勢を見ると、予選会組がシード権を獲得することは、かなりハイレベルな挑戦になるように見えます。
――予選会組でシード権争いの観点で面白そうなチームは、ありますか。
渡辺 日本体育大は、善戦する雰囲気を感じさせます。全日本でも見せ場を作りましたし、12月の日体大競技会でも結構みんな走れていました。玉城良二監督が徹底してチームを作ってきているので、総合力の点で見ると期待感はあります。課題を挙げれば単独走になったときにしっかり力を出しきれるかどうか。
――ここ数年、高いチーム力を誇っている中央大は今季、トラックはすばらしい成績を残していますが、駅伝についてはあまり元気がありません。
渡辺 トラックの10000m上位10人のランキングでは出場校中トップです。はっきりとは言えない部分もありますが、スパイクを使ったトラックでの強化に注力している印象もあり、ここまでのふたつの駅伝では思ったような結果が出ていないので、強化のなかでロードとのバランスがうまく取れていないのかもしれません。
好ランナーが揃っていることは間違いないですが、距離が伸びる箱根でどのような結果になるのかは見えづらいです。
――ほかのチームについてはいかがですか?
吉田礼志選手(4年)という学生界を代表するランナーのいる中央学院大も、近年はなかなか上位に絡んできません。帝京大のようになれる潜在能力はありますが、何かきっかけが欲しいところです。
東京国際大はリチャード・エティーリ(2年)、佐藤榛紀(4年)の両選手を中心に往路10位以内の候補と挙げられると思いますが、10区間全体で見ると、少し選手層が薄い印象です。
下級生中心(エントリーメンバー16人中10人が2年生以下)の順天堂大、ともに新指揮官の下で迎える山梨学院大と神奈川大、前回は往路で見せ場をつくった日本大はシード権争いに絡むにはハイレベルな挑戦ですが、自分たちの力をしっかり出しきることでどんな結果になるのかというスタンスで臨む形になると思います。
――お聞きしていると、勢力図の大きな変化は起こりにくそうですね。
渡辺 優勝候補の3強にそれを追うグループ、シード争いの上位校が安定した戦力を持っていますからね。
――ほかに渡辺さんが個人的に注目しているポイント、選手がいればお願いします。
渡辺 関東学連連合チームの古川大晃(博4年)、秋吉拓真(3年)という、ふたりの東大生ランナーはすごく注目しています。古川選手は現在29歳で初めてつかんだ箱根のエントリー枠というバックグラウンドも含めて、秋吉選手は5000m13分台、10000m28分台の走力が魅力です。ほかにも2区候補の片川祐大選手(亜細亜大4年)、栗原舜選手(明治学院大4年)も秋吉選手同様に走力を誇っているので、オープン参加とはいえ、10位前後くらいでつなぐ可能性も秘めています。
⚫︎プロフィール
渡辺康幸(わたなべ・やすゆき)/1973年6月8日生まれ、千葉県出身。市立船橋高−早稲田大−エスビー食品。大学時代は箱根駅伝をはじめ学生三大駅伝、トラックのトップレベルのランナーとして活躍。大学4年時の1995年イェーテボリ世界選手権1万m出場、福岡ユニバーシアードでは10000mで優勝を果たし、実業団1年目の96年にはアトランタ五輪10000m代表に選ばれた。現役引退後、2004年に早大駅伝監督に就任すると、大迫傑が入学した10年度には史上3校目となる大学駅伝三冠を達成。15年4月からは住友電工陸上競技部監督を務める。学生駅伝のテレビ解説、箱根駅伝の中継車解説でもおなじみで、幅広い人脈を生かした情報力、わかりやすく的確な表現力に定評がある。