第103回全国高校サッカー選手権大会展望 後編
第103回全国高校サッカー選手権大会の各校の特長を、ユースサッカーを取材するふたりのライターに聞く後編。トーナメントの右側半分の注目校を紹介する。"東の横綱"と目される流通経済大柏や、先日のプレミアリーグファイナルを制した大津など、見逃せないチームばかりだ。
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【東の横綱・流通経済大柏とプレミア王者の大津】
――流通経済大柏(千葉県)の入ったブロックはいかがでしょうか?
土屋 上位候補のひとつが、流通経済大柏。相当う面白いタレントが揃っていて、11月末に見たプレミアリーグEASTの昌平(埼玉県)戦はとてもいい試合をしていました。どのポジションにもいい選手がいて、湘南ベルマーレ内定のDF松本果成(3年)はポテンシャル抜群で、元日本代表の酒井宏樹(現・オークランドFC)を彷彿とさせる右サイドバックですが、現在は能力を生かすためにFWでプレーしています。
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中盤にもMF柚木創(3年)やMF亀田歩夢(3年)と高い技術を誇る選手や、 MF稲田斗毅(3年)やMF飯浜空風(3年)というかなり効いている選手がいて、やっているサッカーの志向の高さと選手のタレント力の高さを考えると、東の横綱クラスと言っていいチームではないでしょうか。あと、FW安藤晃希(2年)という秘密兵器にはぜひ注目してみてください。
森田 榎本雅大監督はチームに手応えを感じながら、インターハイ予選の決勝で敗れるなど一発勝負での弱さを課題として挙げていて、夏休みはあえてトーナメント形式のフェスティバルに参加し、勝ち癖を身につけてきました。今回、選手権予選を制して選手に自信がついたような気がします。
ただ、初戦で対戦する佐賀東(佐賀県)はかなりの難敵。主将のDF田中佑磨(3年)、MF甲斐巧海(3年)を筆頭に昨年のベスト8を経験している選手が多く、各ポジションに穴がない。あとは点が取れるかどうかですが、夏以降はFW石川僚祐(2年)が得点感覚をつかみはじめていて、ラストピースとして期待しています。
土屋 今大会やっぱり外せないのは大津(熊本県)で、山城朋大監督が「これだけ選手が揃う年は、なかなかない」と口にするほど穴がない。交代で出てきた選手もみんな効果的に仕事ができるので、本当に強いです。なかでも注目してほしいのは平岡和徳テクニカルアドバイザーが「大津っぽくない」と評するMF畑拓海(3年)。いわゆるプレーメーカーで、ボールを散らしながらうまくチームのバランスを取っています。
森田 経験値の多さも強みです。選手に話を聞いても昨年からプレミアリーグWESTに出ていた選手が多いので、どんな試合展開になっても「こういう試合を経験してきたよね」とうまく対応できる。苦しい展開になっても"今は我慢すべき"と思えるのは大きいです。
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それにインターハイの初戦で阪南大高(大阪府)に敗れた経験もチームの成長につなげていて、キーマンのMF嶋本悠大(3年)とMF舛井悠悟(3年)を封じられた時の策を準備してきました。加えて、選手自身が個人で打開できるように成長してきたので、強いチームがさらに強くなった気がします。
【岡山学芸館vs矢板中央の注目カード】
――となりの山にも注目校が揃っています
森田 一昨年の王者、岡山学芸館(岡山県)は上位に入るだけの力を持っています。今年はプリンスリーグ中国で開幕からずっと勝っていたのですが、選手が「過信していた。先ばかり見ていた」と話す通り、インターハイは予選決勝で作陽学園に敗退。夏休みのフェスティバルでも全く勝てなかったのですが、秋以降は3年生がチームのために頑張れるようになって戦えるチームになりました。
FW太田修次郎(3年)、FW香西健心(3年)の破壊力は大会でも屈指。MF岡野錠司(3年)という、うまさと献身性を備えたボランチもいい。「1年生の時、先輩にいい景色を見させてもらったので、今度は俺が後輩たちに見させたい」と太田が意気込むように、日本一へのモチベーションも高い。
土屋 ただ、初戦で対戦するのは矢板中央(栃木県)。ソリッドさで言えば日本一ではないでしょうか。今年は何より、キャプテンのDF佐藤快風(3年)が持つ、人としてのパワーがいい。東京の中体連出身で、入学時の一番下のカテゴリーから上がってきた選手で試合中は誰よりも声が出せる。彼みたいな選手がキャプテンになって、チームを引っ張っているところに、矢板中央らしさを感じます。
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森田 僕も佐藤を推したいですね。中学までは柔道をかけもちしていて、都大会ベスト4も経験。高校も柔道で誘いが来ていたみたいです。「自分より身体の大きい選手に挑んできた経験がサッカーに生きている」と話していましたが、どんな相手にも臆せず戦いにいけるセンターバックです。
土屋 日章学園(宮崎県)もサウサンプトン内定のFW高岡伶颯(3年)とベガルタ仙台内定のMF南創太(3年)がいて、要注目のチーム。
森田 今年のチームはバランスがいい。プロに行くふたりが注目されますが、高岡と2トップを組むFW水田祥太朗(3年)もターゲット役として能力が高いし、センターバックのDF吉川昂我(3年)も最後のところで頑張れる。
今大会推したいのはボランチのMF小峠魅藍(3年)でセカンドボールが拾えて、奪ってからの展開力も魅力で、ロングスローを投げることもできる。高岡が「この1年、周りとの呼吸を合わせてきた」と話していましたが、小峠が入れたDF裏へのボールから高岡が抜け出す形は得点の匂いが漂っています。
【どこが抜けてくるかわからないブロック】
――最後のブロックに行きましょう。ここは昨年のインターハイ王者、明秀日立(茨城県)がいます。
土屋 明秀日立はインターハイで連覇がかかりながら、予選決勝で鹿島学園に負けて、あらためて自分たちの立ち位置を見直したのが大きかったです。それにこのチームは萬場努監督と伊藤真輝コーチのリレーションシップを含めスタッフの力があって、選手たちの心に刺さる言葉選びがうまい。
GK重松陽(3年)、MF柴田健成(3年)、FW竹花龍生(3年)、FW保科愛斗(3年)とインターハイ優勝を経験した選手が軸として残っていて、今年1年、自覚を持ってやってきた感じがしました。県予選は無失点でしたし、決勝は仕事をしなければいけない選手が点を取って活躍したので、上位進出がある気がします。
森田 初戦で対戦する近大和歌山(和歌山県)は強豪との対戦で、藪真啓監督は「まったく期待されていないと感じる」と苦笑いしつつ、「臆することなくチャレンジャー精神で挑んでいって、一発かますだけ」と意気込んでいたので期待したいです。
MF松林優(3年)、FW小嶺李王(3年)など今年はドリブルで前に運べる選手が揃っているので、近大和歌山らしく粘り強く守りながらも、一発を狙える気がします。
今年は開幕戦も豪華ですよね。
土屋 帝京(東京都B)はかなり強いと思います。頂点を狙えるだけの力があるんじゃないでしょうか。FC今治の横山夢樹、梅木怜がいた去年もいいチームでしたが、今年は全体のバランスがすごくいい上に、U−18日本代表のDF田所莉旺(3年)や点が取れるFW森田晃(3年)といったタレントもいます。
プリンスリーグ関東1部ではなかなか勝ち点が取れなかったのですが、僕が見た浦和レッズユースとの試合ではボールを8割ぐらい持っていてうまかった。それに、田所が繰り出す精度の高いフィードに反応できるアタッカーもいますし、2列目はゲームによって顔ぶれがまったく違うぐらい選手層も厚い。控えに回った選手もジョーカー役として機能できるのが今年の強みです。
15年ぶりの出場なので、帝京を見に来る人も多く、スタンドの後押しもアドバンテージになる気がします。
森田 帝京と当たる京都橘(京都府)は新人戦、インターハイで府内のタイトルが取れず、プリンスリーグ関西でも勝てない時期が続きましたが、夏以降はチームを安定させるため、アタッカーだったDF宮地陸翔(3年)をセンターバックに、DF増井那月(3年)を右サイドバックにコンバートしたことがハマって、チームが浮上してきました。
もともと苦しい年だと予想されていましたが、最終的にはいいチームになりました。軸となるふたりがポジションを下げた代わりに、攻撃は2年生の台頭が著しく、FW伊藤湊太(2年)は183cmの高身長と身体能力を備えたストライカー、左のMF河村頼輝(2年)もキレのある突破が魅力で、今大会を機にブレークする予感が漂っています。
このブロックは鹿児島城西(鹿児島県)も楽しみですね。
【関西勢が5チーム集まる】
土屋 めちゃくちゃ頑張ってほしいですね。新田祐輔監督は今年出会った指導者のなかで一番かっこいい人だと思います。あれだけ真っすぐに飾らず、サッカーに全力を注ぎこんでいる人はなかなかいません。
9月にプレミアリーグWESTのホームゲームに行って、メンバー外の選手がサッカースクールを開いている姿や、ハーフタイムに踊るダンス部の生徒が準備している姿などチーム運営の様子を見させてもらったのですが、学校内や地域から愛されているのがよくわかりました。プレミアリーグWESTではなかなか勝てず、難しい1年になりましたが、そうした頑張りが選手権出場につながった気がします。
森田 神村学園という最強のライバルがいるため、なかなか全国大会との縁がなかったのですが、これまでも全国大会に出れば上位に行けるだけの力を持ったチームでした。今年は"大迫二世"との呼び声も多いFW大石脩斗(2年)、U−16日本代表候補のMF野村颯馬(2年)などアタッカーにタレントが揃っていますし、気の利いた守備ができるDF常眞亜斗(2年)もいい。
土屋 僕の推しはMF柳真生(3年)でロングスローが投げられるし、セットプレーも蹴れる。右サイドバックのDF福留大和(3年)もスプリントができて、正確なクロスを上げることもできる。一芸を持った選手が揃っているのが、このチームの武器です。
森田 鹿児島城西が初戦で対戦する金沢学院大附(石川県)も初出場とは思えない好チームです。ザスパ草津でプレーした北一真監督の就任とともに強化が始まったチームで、初めて予選決勝まで進んだ2018年は星稜に0−4で大敗したのですが、そこからは守備を頑張るだけでなく、しっかりパスをつないで攻撃できるチームを作らなければいけないとチーム作りを進めてきました。
今年も予選準決勝を見たのですが、どれだけ相手が前からプレスをかけてきてもロングボールで逃げずに、MF今鷹陸(3年)を中心としたビルドアップで自陣からつないでいく姿が印象的でした。全国大会でやってきたサッカーがどれだけ通用するか、楽しみです。
――このブロックは関西勢が5チームも揃っています。
森田 関西に住んでいるので、どこが国立まで行ってくれるのかは期待しています。面白そうなのは草津東(滋賀県)で、今年はMF上原周(3年)やMF寺川剛正(3年)など中盤にいい選手が揃っています。
それに昨年、予選決勝で延長戦の末敗れた近江が準優勝したことが、選手の刺激にもなっています。選手権終わりに上原が「これほどお餅が美味しくない年はなかった」と冗談交じりに話していましたが、"今年は俺たちの番だ"と意気込んでいます。
土屋 山梨学院(山梨県)もDF鈴木琉斗(3年)やMF根岸真(3年)など各ポジションに実力のある選手が揃っていて、大会を勝ち上がるだけの力を持っています。どこが抜けてくるかわからないブロックですね。