ガールズケイリンの人気筆頭格として、1つの時代を牽引してきた高木真備さんに、競輪にまつわる話を語ってもらう連載企画。高木さんは2021年の「ガールズケイリングランプリ」で見事に優勝。年間賞金女王の称号を獲得し、「やり切った!」という気持ちで選手を引退。現在は保護犬・保護猫活動、および競輪番組での解説者などの活動を行っている。
◆今年のガールズグランプリは一強?
12月29日(日)、「ガールズグランプリ2024」が開催される。今年の注目選手は、誰もが口をそろえるように佐藤水菜選手。ナショナルチームとしてパリオリンピックに出場した彼女の実力は、一線を画すレベルと言っても過言ではない。
圧倒的一強とも言える今年のガールズグランプリにおいて、他の選手はどのような走りをみせるのだろうか。高木さんも「佐藤選手が強いというのは、どこのメディアでも言われていますよね(笑)。私も本命は佐藤選手です」と話す。
「でも、私の競輪の好きなところは、たとえタイムトライアルで勝てない選手であっても、技術と展開次第では強い選手に勝てることがあるところです。もちろん実力的には佐藤選手が強いですが、常識を破るような動きをする選手がいると、展開的にわからなくなってくると思います」
ただ、その年の集大成であるグランプリで“常識を破るような動き”をすることは難しい。ガールズグランプリに5回も出場している高木さんだからこそ、その難しさが痛いほどわかるようだ。
「男子のようにラインがあれば強い選手に対抗できる可能性は十分ありますが、ガールズはラインがないので、大胆な動きをすることは難しいと思います。しかもグランプリは全員が『優勝したい』と思っているレース。もし番狂せを狙うような動きをしたら自分の着を下げてしまう可能性も高まります。大舞台の一発勝負の難しさをわかっているので簡単には言えないのですが……。ただ、競輪祭の決勝にヒントがあったかなと思います」
◆競輪祭決勝の久米詩選手の動きがヒントに
今年の11月21日に行われた競輪祭の決勝。ここでも佐藤選手が一番人気だったが、高木さんは「このレースにおける久米詩選手の動きに注目してほしい」という。
「映像を振り返ってみてほしいのですが、打鐘あたりで久米詩選手がフタをするように佐藤選手と並走しました。その瞬間、佐藤選手は引くかどうか、少し迷ったんじゃないかなと思います。その間に先頭グループと車間が空き、佐藤選手の動きがわずかに遅れるという場面が生まれました。結果的には、さすがの実力で佐藤選手が優勝しましたが、大差での勝利ではなかったです。久米選手があのタイミングをもう少しズラしていたら、佐藤選手の優勝はなかったかもしれません」
もちろん、佐藤選手以外の誰かに勝ってほしいわけではなく、自分が優勝したいのがグランプリ。久米選手のような動きが“グランプリでできるか”はわからないが、高木さんは「私がまだ現役だったら、こういう動きをしたいなと思いました」と話した。
「私は世界の自転車競技に参加したことがないですが、世界の自転車競技と日本のガールズケイリンは同じようで少し違うのではないかなと、見ていて感じました。だからこそ、一年間通してガールズケイリン選手一本で走っている選手が有利になることもあると思います。そういう利点を活かして戦えるかどうかも見どころの一つです」
◆佐藤選手が負けるとすれば…
高木さんの話から改めてわかるように、今年のガールズグランプリは佐藤選手がかなり有力視されている。そんななかで、佐藤選手以外の気になる選手を聞いてみた。
「対抗となる選手も一概に誰とは言えないのですが、佐藤選手が負けるパターンの展開があるとするなら、先行選手がカギになるかなと。今回は尾方選手が先行すると予想しています。もし思い切った先行ができた場合、後ろでもつれる展開になれば面白くなりますね」
この“強い選手が負けるパターン”は、2022年のガールズグランプリの展開に近いかもしれない。「佐藤VS児玉」とも言われていたこの年のグランプリは、お互いに意識しあっていたのもあってか、後方でもつれて2選手ともに落車。競輪ファンとして落車は見たくないが、本命選手が後方でもつれる展開となれば、思い切った先行ができる選手が着内に残る可能性が高まるだろう。
◆元女王が語る「ガールズケイリンの魅力」
そして最後に高木さんは、ガールズケイリンの魅力が語ってくれた。
「もちろんスピードは武器になりますが、ガールズケイリンは小柄な選手やトップスピードがない選手でも技術の差でカバーして勝てることがあります。その面白さをファンの皆さんに知ってほしいです。今回のグランプリで、スピードに対抗した技術で勝負する戦い方をする選手がいるかはわかりませんが『スピードVS技術』みたいなレースになったら面白いと思うので、選手一人一人の技術面に注目してもらえたら面白いと思います」
高木さんが話すように、技術を駆使してスピードに挑む選手たちの戦いは、競輪ならではの魅力を存分に感じさせてくれるだろう。各選手が持つ技術や戦略に目を向ければ、レースの楽しみ方も広がるはず。果たして今年のグランプリは、どのような結末を迎えるのだろうか。
取材・文/セールス森田
―[高木真備のガールズケイリントーク]―
【セールス森田】
Web編集者兼ライター。フリーライター・動画編集者を経て、現在は日刊SPA!編集・インタビュー記事の執筆を中心に活動中。全国各地の取材に出向くフットワークの軽さがセールスポイント