「何試合か崩した試合はありましたけど、トータルで見たら試合が作れた試合が多かった。雨完投がありましたけど、あれも含めたら結構いい感じのQSの成功率だと思うので、なんとかやれることはやれたかなという感じはします」。
ロッテの西野勇士はプロ16年目の今季、20試合・122回1/3を投げて、シーズン自己最多タイの9勝、防御率3.24、QS(6回以上3自責点以内)は13試合だった。
◆ 今季に向けオフは投球フォームを見直し
今季に向けてオフは「パフォーマンスは出ていたんですけど、(昨シーズン中に)肩の調子が悪くなったので、そうなりにくいメカニックをしっかりもう1回作ろうという感じです。肩自体を良くするというよりは、フォーム的に肩の負担が少し軽くなるようなピッチングフォームを作ってきました」と投球フォームを見直した。
去年は春季キャンプからアピールする立場だったが、昨年8勝を挙げたことで、春季キャンプ序盤の2月3日の取材では「ペースは遅く作れるというのはあるんですけど、ライバルがたくさんいるので、ちょっと意識はしますが、しっかり作ろうという感じですね」と、自分のペースで取り組んだ。
2月27日の2024球春みやざきベースボールゲームズ・ソフトバンク戦で今季初実戦登板し、2回を1失点に抑えると、続く3月5日のDeNAとのオープン戦では3回1失点。同日のDeNA戦では150キロ近いストレートを投げ、0−1の1回一死二塁で牧秀悟に投じた初球のインコースシュートも148キロを計測した。右打者のインコースのシュートは威力が抜群だった。本人も「めちゃくちゃ良かったです。ホークス戦の時全然ストライクが入らなかったんですけど、それは修正できたのは良かった」と振り返った。
シーズンオフから肩の負担が少し軽くなるようなピッチングフォームを作ってきたが、実戦で投げてみて「やりたいことはやれている感じはありますけど、どうですかね、もう少しピッチングのフォームのところで、タイミングが合えばいいと思っていますけど、もうちょっと」と、3月10日時点で投球フォームの“タイミング”の部分を調整していく必要があると話していた。
“ピッチングのタイミング”についても、3月19日の巨人とのオープン戦、3月27日の西武との二軍戦を通して、「まあまあですね、自分の思っている球もありましたし、そうでない球もありましたけど、確率はだいぶ上がってきたのかなと思います」と、精度が上げ、開幕を迎えた。
◆ どの球種もしっかりと操る
今季初登板となった4月2日のソフトバンク戦、敗戦投手になったが6回2失点とゲームを作ると、続く4月9日の西武戦、7回無失点で今季初勝利。4月17日の西武戦では初回先頭の長谷川信哉を2ボール2ストライクから6球目のインコースシュートが抜けて死球、一死二塁で外崎修汰の初球インコースに投げようとしたシュートが真ん中に入り左安とインコースのシュートを思うようにコントロールできていないように見えたが、続くアギラーを1ストライクから2球目の外角のスライダーで三併で打ち取ったのはさすがだった。
西野本人は「何が良くて、何か悪いという時が絶対にあるんですけど、その場でできるだけ判断して使っていくのが大事なのかなと思います」と、常々話す、“何かがダメでもそれを補う球種がある”、“どの球種でも勝負球にできる”強みを活かした投球となった。
立ち上がり操れていなかったシュートも同日の西武戦では、4回以降に多投し凡打の山を築いた。投げながら調子を取り戻すことが可能なのだろうかーー。
「感覚的な部分なんですけど、投げていく中でうまく直していくのができないと能力というか、先発として必要な能力なので、投げている中でよくなることは多々あります。他の球種も含めて」。7回2/3を投げ無失点に抑え2勝目を挙げた。
4月25日のソフトバンク戦、5回5失点、5月3日の楽天戦では6回6失点とピリッとしない投球が続いた。5月14日のオリックス戦では、「取りたい狙った打球を打たせることができていたのかなと思います」と、4−1の3回に先頭の宗佑磨にセンター前に運ばれるも、一死一、二塁でセデーニョをカーブで遊併、続く4回も先頭の西川龍馬に安打も続く紅林弘太郎を1ボール1ストライクから142キロのシュートで遊併に打ち取るなど、走者を出しながらも粘りの投球で、5回、6安打、1失点に抑え、3勝目を手にした。
ストレート、フォーク、シュート、スライダー、カーブを持ち球にしているが、その中で今季特に良いと感じる球種はあるのだろうかーー。
「その時によるんですけど、那覇の時はシュートとスライダーが良かった。トータルで真っ直ぐが良い日が少ない。タイミングが合わないというか、そういう時が多い。そこが一番良くなったら、もうちょっとパフォーマンスが上がってくるのかなと思うんですけど」。
西野自身の中でストレートが良いと感じる登板は少なかった。「あんまり調子が良くないかもしれないですけど、真っ直ぐを見せていかないとその後にフォークが効いてこなくなる」と、武器であるフォークを活かすためにはストレートを序盤から積極的に投げていく必要があるとのことだった。
5月21日の西武戦で6回を2失点にまとめ4勝目を挙げ、交流戦に突入。交流戦は3試合・17イニングを投げ、0勝2敗、防御率4.76だった。6月6日の巨人戦は4回・66球を投げ4失点、5回に打席が回ってきたところで代打が送られ交代となったが、5月30日のヤクルト戦は6回・3失点、6月13日のDeNA戦も7回・3失点と、クオリティスタート(6回以上3自責点以内)はクリアし、先発としての最低限の役割を果たした。
ただ、交流戦での投球に西野本人は「う〜ん、なんかうまくはいかなかったかなと思います。とりあえず」と納得いかず。3試合中2試合でQSを達成しゲームメイクしているが、「もうちょっと展開というか、結果的には数字を見たらゲームを作っていますけど、展開で見たらあんまり作れていないのかなという感じがします」と厳しかった。
さらに西野は「仕事できたと言っていいかわからないですけど、数字で見たらそうかもしれないけど、僕の中では全然できていない。もっとちゃんと自分のパフォーマンスを上げて、少しでも調子を上げて投げていかないといけないかなと思います」と反省の言葉が続いた。
◆ 交流戦明けからオールスター前までの投球
リーグ戦再開後最初の登板となった6月25日の楽天戦では、5回2/3・100球を投げ、4被安打、1奪三振、2与四死球、2失点で5勝目を手にした。同日の楽天戦は4被安打中2被安打が内野安打と、ほとんど捉えられた当たりがなかった。
本人は「入りは良かったかなと思います」としながらも、「全体的な評価としてはあんまり僕の中ではよくなかった。スライダーが良かったというのもあって、それでなんとかなったのかなと思います」と自己分析した。
2回以降、スライダー、カーブが多かったのはスライダーが良かったことも関係していたのだろうかーー。
「そうですね、個人的にはかわしたピッチングというか、自分の理想とするピッチングではない。なんとかそれで作れたかなという感じですね」。
納得のいくピッチングではないながらも、試合を作りチームを勝利に導いたのはさすがだ。
「ゲーム作りはなんとかやっている感じ。今のパフォーマンスでなんとかできているなという感じで、ゲームを作るというよりは自分が投げたい球が、基本真っ直ぐ中心にあんまり投げられていない。安定感はないかなという感じがしています」。
6月25日の楽天戦では納得のいくストレートが投げられなかったが、7月4日の日本ハム戦では「全体的には良かったです」、7回・84球を投げ、1失点で6勝目を挙げ、ストレートも「めちゃくちゃいいかと言われたらアレですけど、感覚は良かったです」と一定の手応えを得た。
特にフォークが良く、0−1の4回一死一塁で上川畑大悟を1ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた141キロフォークは素晴らしかった。「フォークはあの試合、全体的に良かったと思います」と振り返った。
7回を投げ84球の省エネ投球で、3回(9球)と最後のイニングとなった7回(5球)は10球以内に打ち取った。ストライク先行できた要因に西野は「フォークが良かったというのが第一。空振りも取れたし、そこがまず1個目ですかね。スライダーも真っ直ぐもコントロールできていたし、全体的には良かったというのと…。やっぱりフォークが良かったからかなという気がしますね」と説明。
日本ハム戦はスライダー、シュート、カーブ、フォークを満遍なく投げて、的を絞らせなかった。その理由について訊くと、「理由はないですね」とのことだったが、「フォークが良かったし、他の球もある程度コントロールできていた。いろんな球を軸で配球できたんじゃないかなと思います」と自己分析。
7月15日の首位・ソフトバンク戦では、7回・93球、5被安打、5奪三振、3与四死球、3失点で今季7勝目。“ゲームを作る”を常日頃から口にする西野らしい投球だった。初回先頭の周東佑京に四球を与えたが、続く今宮健太に1ボール1ストライクから3球目のインコースシュートでファウルさせ、インコースを意識させた中で、1ボール2ストライクから5球目の外角のスライダーで三併と持ち味を発揮。
0−0の3回に今宮に先制の適時打、4回に柳町達に適時打を浴び2点を失ったが、ここで大きく崩れないのが西野の真骨頂だ。続く5回は牧原大成を一ゴロ、周東佑京を見逃し三振、今宮を空振り三振と、下位から上位に繋がっていく打順を10球で片付けると、直後の6回表に石川慎吾が適時二塁打を放ち1点を返す。
1−2となった6回裏、西野は3番・栗原陵矢から始まる打順も栗原を1球で一ゴロ、4番・山川穂高も1ボールからの2球目のスライダーで三ゴロ、5番・近藤健介を2ボール2ストライクから5球目のフォークで二塁ゴロ。ソフトバンクのクリーンナップをわずか8球で打ち取り、攻撃にリズムを作った。
そして7回表のロッテの攻撃、ソトの3ランなどで一挙7点を奪い逆転に成功。西野は8−2の7回裏に1点を失ったが、7回3失点とゲームを作った。振り返れば7月9日の取材で、西野に次回登板でどういう投球を見せたいか訊くと、「勝っていても負けていても、しっかり勝ちにつながるゲームを作っていくところが目標。それをしっかりできるようにしたい」と話していた中で有言実行のピッチングだった。
西野はオールスター前、13試合・79回1/3を投げ、チームトップタイの7勝(5敗)、防御率3.40。13登板中8試合でクオリティスタート(6回以上3自責点以内)を達成した。
◆ 8月以降ストレートに手応え
オールスター明け最初のゲームとなった7月26日楽天戦の先発を任された。「もちろんそこを任せられるということに自分も意気に感じて投げようと思っていましたし、初戦は大事だと思うので、落としたくないという気持ちでいましたね」と、チームにとってオールスター明け初戦のマウンドを託され、5回4安打1失点に抑えて8勝目を手にした。自身の投球については「全体的にまとまっていたし、試合を作れていたのでよかったのかなと思います」と振り返った。
この白星を最後にしばらく勝ち星が遠ざかる。8月3日のオリックス戦、8月12日のオリックス戦と連続で敗戦投手となった。ただ、8月24日のオリックス戦は、勝ち負けはつかなかったが、6回・100球、3安打、4奪三振、無失点の好投。
交流戦前の取材から何度もストレートを課題にしていると話していたが、「ちょっと良くなってきましたね。前回は結構いいのかなと思いましたね」と好感触。
ストレートが良くなってきた理由について「真っ直ぐでバッターが刺さっているというところですかね。とにかくバッターの対応、反応を見て良くなってきているのかなと。自分の投げている感覚もいいですけど、それよりも相手があることなのでバッターの反応が良くなってきている。真っ直ぐが良くなってきているのかなと思います」と明かした。
8月は3試合ともオリックス戦での登板だったが、1試合目より2試合目、2試合目より3試合目と対戦を重ねる中でストレートが差し込めていると感じたのだろうかーー。
「そうですね、その間にたまたま良くなっただけかもしれないですけど、3試合目は真っ直ぐが良かったのかなと思います」。
9月6日の楽天戦では7回2失点で8敗目を喫したが、ストレートがかなり強く、0−0の2回先頭の鈴木大地を1ボール2ストライクから空振り三振に仕留めたインコース148キロストレート、0−2の7回二死一、二塁で小深田大翔を2ボール2ストライクから空振り三振に斬って取った147キロのストレートは素晴らしかった。
西野本人も「良かったです。前回のオリックス戦から良かったのをちゃんとそのまま楽天戦で出せたなと思います」と振り返る。ストレートが良い形になってきたが、「遅いですけど、今が今年いい状態かなと思います」と手応え十分だ。
ストレート、フォーク、シュート、スライダー、カーブと持っている球種を満遍なく使い、西野の真骨頂が発揮された。
「そうですね、とにかく真っ直ぐが良かったので、そのおかげで全体的にバランスの取れた配球をしても、扱えていたというところもあるとは思うんですけど、真っ直ぐのおかげで他の変化球が効いている感じですね」。
9月17日の楽天戦は「いや〜(少し考えた後)個人的には酷かったなと思います。いろんなフラストレーションが溜まっていて、嫌な流れで回ってきたその回に点を取られたというのが自分の中ですごくイライラしました。そこを抑えていかないといけないので、そこをどんだけ粘れるかが大事。そこで点を取られたのは自分の中ではすごい良くなかったと思います」と3回に3点を失ったが、6回を投げ3失点と試合を作った。
今季最後の登板となった9月28日の西武戦では、7回・94球を投げ5安打1失点でシーズン自己最多タイの9勝目。
◆ ストレートに課題の時期が長かったが自己最多タイの9勝
今季はストレートに課題にしている時期がありながらも、終わってみれば昨季を上回る9勝を挙げた。
「後半ストレートが良くなって、その中でゲームの作り方、試合の運び方が良かった。真っ直ぐが良くないとダメだなと思ったし、本当は開幕から仕上げていかないといけないところだったんですけど、うまく調整できなかったが、ストレートは大事だなとめちゃめちゃ思いました」。
1年間先発で投げ抜いたことに関しては「う〜ん、間隔が空くところもあったので、個人的にはそこはあんまり嬉しくないところかなと思います」と反省。
もう少しイニングを投げられた、もう少し勝てたと言うのがあったのだろうかーー。
「もっとしっかり短いスパンでもパフォーマンスを出していけるぞというところをちゃんと見せられたら良かったなと思います」。
ただ、他の先発投手は月によっては崩れる月がある中、西野は月別で大きく崩れた月がなく、シーズン通して比較的安定していた。
「大崩れは確かになかったです。とにかくゲームを作ることに関しては自分のセールスポイントみたいなところはあるので、そういう部分は良かったのかなと思います」。
シーズン終了後には国内FA権を行使せず残留。来年から3年間マリーンズのユニホームを着てプレーする。「個人的な目標は2桁は絶対に勝ちたいと思いますし、イニングをもっともっと投げていけたらいいなと思います」。ベテランと呼ばれる年齢になったが、進化を続ける33歳。昨季から8勝、9勝と1勝ずつ勝ち星を増やしてきており、来季は自身初となる二桁勝利達成に期待したい。
取材・文=岩下雄太