トレードや移籍など、ストーブリーグにおける津々浦々の人間模様は、この時期のプロ野球ファンにとって格好の話題の種である。
新天地での活躍が期待される選手もいれば、一方で惜しまれつつも現役にピリオドを打つ選手も数多い。2008年、ドラフト1位指名された大田泰示も今年限りでユニフォームを脱ぐ。残念ながら巨人では本領発揮とはいかなかったものの、移籍先の北海道日本ハムでは恵まれた身体能力が開花。主力として存在感を発揮する姿に胸が熱くなったファンは少なくないだろう。
さて、常勝を義務づけられた巨人に「ドラフト1位指名」される重圧は、想像を絶するもの。本記事では、大田と同じく“ドラ1”だったにもかかわらず、「継続して活躍できなかった選手」の軌跡を追いたい。
◆「即戦力」として期待されて鳴物入りで入団も…
まず思い浮かぶのが、2003〜2004年に社会人のシダックスで圧倒的なピッチングを見せていた野間口貴彦だ。創価大学中退後に所属したシダックス野球部で、名将・野村克也氏の薫陶を受け、順調に成長。2004年にドラフトで指名された金子千尋や能見篤史らと比較しても社会人野球でトップクラスの投手の評価だった。
ただ、プロ入り後は順風満帆とはいかなかった。ブルペンや格下相手には目を見張るピッチングを見せたが、プレッシャーに弱い気質もあってか、一軍の真剣勝負の場面では凄みは感じられなかった。変化球で空振りを取れないシーンも目立ち、本格派としては厳しい立場に。入団当初の期待に応えたとは言い難いキャリアになってしまった。
才能の片りんを見せたのが、2007年。7試合の登板ながらも、4勝を記録しており、すべて9月・10月の勝利だった。優勝争い真っ只中での活躍は、リーグ優勝に貢献した姿は巨人ファンにとって非常に印象深かったのではないだろうか。
◆甲子園で「1試合19奪三振」を記録するも…
2005年、甲子園の歴史に名を残す活躍を見せたのが辻内崇伸。二回戦の藤代戦で当時の大会タイ記録となる19奪三振をマーク。いつの時代も“超高校級”の左腕にはロマンがある。そのままプロでも通用するかと思いきや、そううまくはいかないもので……。入団当初から度重なる怪我に悩まされることになってしまうのだ。
高校時代の酷使がたたったという外野の意見に対して、本人は「高校時代とはトレーニングの仕方が変わり、うまくコンディションをつくれなかったことや、一軍に入るチャンスを前にすると、それを逃したくないので痛みを隠して投げ続けたからです」と否定している。
2009年には二軍でローテーションを守り、フレッシュオールスターに出場した。しかし、一軍の登板はないままシーズンが終了。2013年に引退するまで、結局一軍で公式戦に出場することはなかった。
◆1シーズン限りだが…投手陣の穴を埋める活躍を見せた桜井&鍬原
2019年の優勝に貢献したのが桜井俊貴だ。特に首位奪還を果たした交流戦では3試合で2勝0敗、防御率1.83を記録。さらに、夏場以降は疲れが見えていたものの、先発ローテーションの谷間としてシーズンを投げ切った。その後のシーズンで徐々にフェードアウトしていき、2022年に戦力外通告を受ける。2023年は巨人のスカウトとしてセカンドキャリアを歩み始めたかと思いきや、現役への未練があったのか、2024年からは社会人野球のミキハウスに“選手として”入社している。
入団当初は先発ローテーションの一角として期待されていたのが、鍬原拓也。脚光を浴びたのは、リリーフとして49登板を記録した2022年。しかし、防御率は5点台であり、大いに改善の余地が残されていた。鍬原もプロの世界に入ってすぐ怪我したことが痛かった。
学生時代に投げていた伸びのあるストレートを知っているだけに、高橋由伸が指揮を執っていた時代に先発と投げていたら……と思うと残念でならない。もっと早いうちにリリーフに転向していたら、中川浩太や田口麗斗のようになっていたかもしれない。
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いくらコンディションが良くても、主力が健在であれば出場機会に恵まれにくいのは自明の理。生き馬の目を抜くプロ野球の世界では、実力に加え強運も必要なわけだ。今回紹介した4人に関しても、どこかで歯車がかみ合っていれば、あるいは違った未来があったかもしれない。野暮な話であるが、ついそんな想像をしてしまう。
<TEXT/ゴジキ>
【ゴジキ】
野球評論家・著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)・『アンチデータベースボール』(カンゼン)・『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディアの取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。日刊SPA!にて寄稿に携わる。Twitter:@godziki_55