偉大な選手を父に持ち、同じ競技をプロレベルでプレーすることは、どのような思いなのか。
NBA史に偉大な功績を残してもなお、現役として活躍するレブロン・ジェームズの息子・ブロニーがレイカーズのツーウェイ契約選手としてプロ1年目のシーズンで奮闘している。
学生時代の実力からすれば、決してドラフトされるレベルでない、縁故でのプロ入りという見方をされるなか、その道を切り開けるのはブロニー自身。
河村勇輝が出場した12月のGリーグ・ウィンターショーケースで、ブロニーに今の胸中を聞いた。
【謙虚な姿勢と十分な伸びしろ】
一部で喧伝されているよりも、ずっといいプレーヤーではないかーー。
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ブロニー・ジェームズのプレーを初めてライブで見て、そんな感想を抱かされた。すでにNBAデビューした選手、しかもNBA史に名を残しながら、なおも現役で活躍しているレブロン・ジェームズの息子であれば、好選手なのは当然と思うかもしれないが、アメリカでのブロニーの評価はそれほど高いものではなかった。
今年は12月22日までフロリダ州オーランドにGリーグ全チームが集まり、NBAのスカウト、球団エグゼクティブの前でしのぎを削ったGリーグ・ウィンターショーケース。そのなかでも最大の注目株はレブロン・ジェームズの息子、ブロニーだった。所属するサウスウェスト・レイカーズ(ロサンゼルス・レイカーズの下部チーム)のゲームのたびに会場は、関係者で満員になった。
「どこのステージでもこれまでの約20年やってきたように、バスケットボールをプレーしていきたい。毎試合で学び、上達したい」
そんな謙虚な言葉を残したブロニーは、オーランドでの2試合では平均11.0得点、4.0リバウンド、6.0アシスト。主にポイントガード(PG)として起用され、19日のグリーンズボロ・スワーム戦では16得点、5アシスト、3スティールと目を引く数字を残した。
ブロニーの長所は身体能力を生かしたディフェンスとアンセルフィッシュ(利他的)な姿勢。派手なプレー、1対1での得点力を誇示したがる荒削りな選手が多いなかで、20歳にして"真面目"にプレーする若武者の姿には好感を抱かされた。
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「デボンテ・グラハムのような(29歳の)実績ある選手と一緒にプレーできるのは、貴重なことだ。彼が何をやり、何をやらないようにしているか、遠征中はどんな準備をしているのかとか、いろいろ目にできる。それは今の私にとっては大きいと思う」
父親譲りなのは少し格好つけたような喋り方だけではなく、ベテランにリスペクトを捧げる聡明さも同じだった。ウィンターショーケースでの2戦では合計12ターンオーバーとミスは多かったものの、まだ明らかに発展途上。伸びしろは十分に残っているように思えたのだった。
【偉大な父を持つ宿命と周囲の目】
近年、このブロニーほど大きな注目を集めたドラフト2巡指名選手はほかにいなかった。父親はプロ入り前から"選ばれし者(The Chosen One)"と呼称され、期待どおりにNBAファイナル制覇4度、シーズンMVP4度受賞したレジェンド。その息子という出自ゆえにブロニーの知名度も高く、USC(南カリフォルニア大)時代から一挙一動が注目され続けてきた。
「ラストネーム(苗字)がジェームズではなかったら、ブロニーはドラフト指名候補には入っていなかったはずだ」
6月に開催されたドラフトではそんなふうに酷評され、実際に2巡目全体55位で父が大黒柱として君臨するレイカーズから指名されても、祝福の声ばかりではなかった。
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USCでの2023-24シーズン、ブロニーは25試合で1試合平均19.3分をプレーし、4.8得点(FG成功率36.6%、3P26.7%)と苦戦。昨年7月の練習中に心停止という恐ろしいアクシデントで離脱するという不運もあった。いずれNBAを目指すとしても、カレッジを1年プレーしたのみでのプロ入りは時期尚早すぎると見られていた。
それでも結局はレイカーズから指名され、開幕戦で父との同時出場を果たすに至った背景は理解できる。NBAはビジネスであり、NBA史上初の親子同時出場は大きなハイライトになる。もうすぐ40歳になるレブロンがこの瞬間を熱望したのは当然であり、歴史的なシーンだったことを否定するファンはほとんどいないはずだ。
しかし、この流れを知って、"縁故採用"と陰口を叩くファン、関係者はもちろん少なくない。プロである以上、話題性、コネクションは大事だが、同時に正当な努力を積んでいる選手のスポットを奪うことにもなる。だとすれば、風当たりが強くなるのは仕方ない。ブロニーの立ち位置を幸運と感じるのか、その逆と捉えるかは意見が分かれるところだが、"ジェームズ"の看板を背負って同じプロスポーツをプレーする息子には、周囲の厳しい声にも負けない精神的な強さが要求されるのは、事実に違いない。
「ブロニーの最初の試合でちょっとしたセレモニー(=親子同時出場)をするのは、すばらしいことだと思った。しかし、彼はまだNBAでプレーする準備はできていない。バスケットボールをプレーするためには、Gリーグに所属するべきだ。NBAでベンチに座っていてもよくなることはないだろう」
NBAのご意見番、チャールズ・バークリーが11月下旬、"The Better Angle"というポッドキャストで述べていた言葉は、あまりにも正しい。
【2世選手の重圧とメリット】
今のブロニーには圧倒的に経験が不足しており、いわゆるアスリート系の選手としてはエナジーレベルが高くないのも気になるところ。NBAでは合計7戦に出場したが、目立った成績を残せておらず、まずはGリーグでまとまったプレータイムを得るのが、歩むべきベストな道のりだろう。ここで前向きに捉えられるのは、父親同様の成熟した姿勢を持っているブロニーは、自分の立ち位置をしっかりと認識しているように思えることだ。ウィンターショーケースの最中にも、自身の言葉でそう明言していた。
「まずはこのGリーグで経験を積みたい。現状では(NBAでは)多くのプレー機会を得られないのはわかっている。だからここで向上することが大事なんだ」
近年のNBAでは著名選手を父に持つ2世プレーヤーが数多く、そのなかに含まれるのはステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)、ドマンタス・サボニス(サクラメント・キングス)のようなスーパースターの息子ばかりではない。ティム・ハーダウェイJr.(2013年ドラフト1巡目全体24位指名)、ゲイリー・ペイトン3世(2016年ドラフト外入団)、スコッティ・ピッペンJr(2022年ドラフト外入団)などは、かつてのスター選手を父に持ちながら、NBA入り当初の評価は必ずしも高くなかった。それでも彼らがNBAで生き残り、このリーグに定着できた理由は縁故主義(Nepotism)の恩恵だけではなかったはずだ。
「2世選手たちは必然的にNBAのライフスタイルを知り尽くしており、おかげで道を外れることは少ない。環境面の迅速な適応が望める」。そういった関係者の証言どおり、若くして突然大金を手にすることへの慣れなどが必要ない2世選手たちは、"Safe Pick(安全な選択肢)"の面があるのかもしれない。
もちろんまだまだ課題は多いが、前述のとおり、ブロニーがNBAでサバイバルを続けても、特に驚かない。サイズ不足ゆえ(188cm)にPGとして起用されることが濃厚で、より高いレベルのボールハンドリングを身につけるのには数シーズンを要するかもしれない。それでもレイカーズ傘下にいる限りは優先的にプレー機会を得るはずで、徐々にエナジーを発揮できるようになるだろう。スターの器ではなくても、正しいプレーの方法を知った献身的なディフェンダー&コンボガードとして、数年後にはNBAへの定着も可能ではないか。
現時点でのドラフト指名と親子出場の"セレモニー"は、縁故採用の側面が強かったとように見える。ただ、ここから先は自身のための戦いになる。常に大きな注目を浴びてのプレーは容易ではないが、そんな重圧のなかでもGリーグから這い上がることができれば、ブロニーは周囲からあらためてリスペクトを勝ち得ることもできるはずである。
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