スマホ料金は「ポイ活」と「中容量強化」が進み、通信品質の重要性も増す――2024年のモバイル業界を振り返る

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2024年12月28日 10:21  ITmedia Mobile

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ドコモは、4月にahamoポイ活を開始した。現在は、d払いだけでなく、dカードの決済にもポイントが還元される

 2024年も残すところあとわずか。今年は、官製値下げの影響も一段落し、各キャリアともメインブランドでは金融・決済連携が進んだ1年だった。キャリアによっては、サブブランドやオンライン専用ブランドで獲得したユーザーがメインブランドへ上昇する動きも顕在化し始めている。こうした料金プランはデータ容量が無制限に設定されていることもあり、通信品質が以前にも増して注目される1年になった。


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 一方で、中容量プランの料金では実質値下げの競争が激化している。ユーザーのデータ利用量が伸び続けていることを受け、ドコモがahamoのデータ容量を30GBに改定。KDDIやソフトバンクも追随を余儀なくされた。また、ワンプランを貫いていた楽天モバイルも、家族や若年層に向けた割引やポイント還元施策を導入している。今回は年末の振り返りとして、前編ではキャリア各社の1年の動きをまとめていく。


●より接近した通信と決済、ポイ活プランで3社が激突


 ソフトバンクが2023年10月に導入した「ペイトク」に対抗し、各社が経済圏とより密接に結びついた料金プランを導入したのは、2024年の大きなトピックだった。ドコモは4月にahamo大盛りとd払いのポイント還元をひも付けた「ahamoポイ活」をスタート。8月には、データ容量無制限のeximoとdカードの決済を連動させた「eximoポイ活」を開始した。いずれも通常の料金プランと比べると料金は高いものの、決済を使うことで実質料金を抑えられるのが特徴だ。


 ペイトクやahamoポイ活、eximoポイ活が決済連動だったのに対し、KDDIの「auマネ活プラン」はどちらかといえばauじぶん銀行やauカブコム証券といった金融事業とのシナジーを売りにしたが、同社もこれを12月にリニューアル。「auマネ活プラン+」として、au PAYゴールドカードやau PAYの決済に対してのポイント還元を充実させた。auマネ活プラン+の登場で、大手キャリア3社の“ポイ活プラン”が出そろった形になる。


 キャリア各社が経済圏、特に決済サービスとの連携を重視する理由は主に2つある。1つが、通信への好影響だ。いわゆるポイ活プランは、通常の料金プランと比べて料金が高い。還元のためのコストはかかってしまうものの、ARPU(1ユーザーあたりの平均収入)の底上げにはつながる。また、キャリア各社の複数サービスを使うと、解約率が下がるデータもある。


 一方の決済サービス側にも利用促進を見込める効果がある。料金の元を取っておトクさを感じるには、コード決済やクレジットカードで数万円から十数万円は使わなければならない。携帯電話代を支払うために作り、そのままになっていたクレジットカードや、キャンペーンの時以外は放置されていたコード決済を使わせる動機付けになるというわけだ。auポイ活プラン+のように、ゴールドカードの優遇が強ければ、クレジットカードの契約獲得やアップグレードにもつなげやすい。


 実際、KDDIはauマネ活プランを開始して以降、au PAYカードの契約数やauじぶん銀行の口座開設数が大きく伸びており、その効果の大きさは証明済みだ。また、決済サービスと連携したお得感はユーザー獲得にもつながる。ソフトバンクは、2024年度上期に初めてY!mobileからソフトバンクに移行するユーザーが、その逆を上回った。アップグレードするユーザーが増えているということだ。その理由を、同社の代表取締役社長執行役員兼CEO、宮川潤一氏は「昨年度(2023年度)ペイトクを出したが、その評価も高まってきたので徐々にソフトバンクへの移行が増えてきた」と語っている。


 メインブランドの料金プランが好評なことは、各社の収益にも直結する。ペイトクが好調なソフトバンクは、2023年度下期で反転したモバイル売上高が2024年度上期で拡大。KDDIもUQ mobileからauへの移行数が2倍に増え、通信ARPUの拡大幅が大きくなった。irumoの影響が大きいドコモを除き、料金値下げの影響を脱することができたとみていいだろう。その意味で、2024年はキャリア各社にとって明るい1年だったと振り返ることができる。


●激化する中容量帯の価格競争 ahamoの30GB化で奇襲をかけたドコモ


 値下げが一服した携帯電話料金だが、中容量プランはその限りではない。料金据え置きのままデータ容量を増量させることで、実質的な値下げを行う動きが相次いだのも2024年の特徴だ。この中容量プランでの実質値下げを仕掛けたのは、ドコモだ。同社はサービス開始以来、20GBだったahamoのデータ容量を10月に30GBに変更。10GBもの増量にもかかわらず、料金は2970円のまま据え置きにした。


 この動きにすかさず対抗したのは、ahamo対抗として20GBと10分間の音声通話定額をセットにした「コミコミプラン」を展開していたUQ mobileだ。同社は、11月に新料金プランの「コミコミプラン+」を開始。ahamoとは異なり、既存ユーザーのプラン変更は必要になるが、こちらも料金を3278円のまま、データ容量を30GBに増量した。さらに、終了期間未定のキャンペーンとして、10%増量特典を用意し、合計データ容量を33GBにすることでahamoに対抗している。


 ソフトバンクのLINEMOは、ahamoやUQ mobileのデータ容量増量のあおりを受けてしまった格好になる。LINEMOは、7月に新料金プランの「LINEMOベストプラン」「LINEMOベストプランV」を開始。後者のLINEMOベストプランVは、20GBを超えると30GBまで料金が上がる段階制を採用していた。ユーザーのデータ使用量拡大に合わせ、20GBを超えた際に料金が上がることでARPUを増やしていく狙いがあったとみていいだろう。


 ところが、ahamoやUQ mobileが相次いで料金の据え置きのまま30GB化したことで、LINEMOベストプランVは他社との比較で割高になってしまった。これを受け、ソフトバンクは6カ月間限定だった20GBを超えた際に料金が変動しないキャンペーンを永続化。LINEMOベストプランVを事実上の30GBプランに変更した。現状では20GBを超えたときの料金である3960円から990円を割り引く形だが、同社は今後、料金プランそのものを改定することも示唆している。


 ドコモがいち早くデータ容量改定に踏み切ったのは、ahamoの解約率が他の料金プランと比べ、高止まりしていたからだという。6月に同社の代表取締役社長に就任した前田義晃氏は、「ahamoユーザーの声を調査したところ、経年的な利用量の増加に対してデータ容量が不足していた」と語る。容量を超えて通信速度が低下し、不満がたまったことでahamoからの解約につながっていたというわけだ。データ容量増量の結果、解約は「止まっているが、ポートイン(獲得)にもだいぶ効果が出てきている」(同)という。


 こうした実質値下げの背景には、楽天モバイルが契約数を順調に伸ばしていることもある。同社の契約者数はMVNOやMVNEまで含めて11月に812万まで増加。法人契約が伸びている他、特定の層を狙ったポイント還元施策の「『最強こどもプログラム』や『最強青春プログラム』で若い方のシェアが拡大している」(楽天モバイル代表取締役共同CEO 鈴木和洋氏)影響も大きい。9月には、「デモグラフィック(人口属性)的に高齢者層が弱かった」(楽天グループ 代表取締役会長兼社長最高執行役員 三木谷浩史氏)課題を克服するため、「最強シニアプログラム」を導入し、同社の勢いは増している。


●増え続けるトラフィックを支える5G、ネットワーク品質の重要性はさらに高まる


 一方で、楽天モバイルが伸びた前提には、エリア拡大が進んだ上に「通信品質が相当改善して、ご満足いただけるところまできている」(同)ことも大きい。無制限のデータ容量を快適に使えることもあり、同社にはヘビーユーザーが集まる傾向がある。11月に開催された決算説明会では、平均データ使用量が30GBにまで拡大していることが明かされた。こうしたトラフィックを支えるため、同社は5Gのエリアを拡大。衛星の地上局との干渉条件緩和を受け、関東の5Gエリアは11月時点で1月の2.1倍まで広がった。


 もっとも、データ使用量が伸びているのは楽天モバイルだけではなく、4キャリアの共通項。先に挙げたahamoのデータ容量拡大も、背景にはトラフィックの増加があった。また、各社の決済連動料金プランは、ahamoポイ活を除くといずれもデータ容量は無制限のため、ユーザーのデータ量が増加しやすい。2024年は、その競争が過熱した1年でもあった。


 中でもネットワーク品質の強化に前のめりだったのが、KDDIだ。同社も、衛星通信事業者との干渉条件が緩和されたことで、5GのSub6の出力を増加。より遠くまで電波が飛ぶよう、アンテナの角度を浅くしたことも相まって、関東でのエリアは2.8倍にまで拡大した。KDDIは、5Gに割り当てられたSub6の周波数帯が合計200MHz幅と多く、その帯域幅はドコモと並ぶ。干渉条件緩和を見越して3万8000以上の基地局を建てた結果、スループットが大きく拡大した。この改善を受け、同社はOpensignalの「一貫した品質」部門で10月に1位を獲得している。


 この「一貫した品質」に強かったのは、比較的エリアの広い700MHz帯や1.7GHz帯の転用と、帯域幅の広い3.4GHz帯を組み合わせて使っていたソフトバンクだ。宮川氏は能登半島地震による3G停波の延期でネットワーク構成の変更に遅れが出ており、それがOpensignalの調査結果に波及したと語っている。一方でソフトバンクに5G用として割り当てられたSub6は、3.7GHz帯の100MHz幅のみ。12月に4.9GHz帯も追加されたものの、その基地局数はKDDIに及んでいない。12月末までのチューニングでどこまで巻き返せるかは、2025年に持ち越された課題といえそうだ。


 2社とも4Gからの周波数転用でエリアを作った後、3.4GHz帯の転用やSub6でキャパシティーを稼いだことが功を奏し、高いネットワーク品質を実現できたが、逆の方針を取っていたドコモはその改善に苦戦している。前田氏が社長に就任した記者会見でも、取り組むべきテーマとしてネットワーク品質の向上を真っ先に挙げていたほどだ。


 一方でドコモも「品質対策に設備投資や通常のコストもだいぶ振り向けている」(前田氏)としており、4Gからの転用とSub6の拡大を同時に進めていく。また、ネットワーク改善に必要なアプリからのデータ取得や、決済サービスを担当する部門との連携も強化しているという。ユーザーのデータ使用量が増加し、5G SAの本格展開も控える中、ネットワーク品質の重要性は以前にも増して高まっている。キャリア選びの指標にもなりうるため、2025年以降も各社のつばぜり合いは続いていきそうだ。



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