スペインのパブロ・ベルヘル監督によるアニメーション映画『ロボット・ドリームズ』が静かなブームとなっています。少ない館数で公開が始まったにもかかわらず、徐々に口コミで評判を伸ばしていき、上映規模が拡大、興行収入1億円を突破するヒットとなっています。
インデペンデントの海外アニメーション映画がヒットするのは珍しく、しかも、本作はセリフがない作品です。一体何がそんなに人々の心を捉えているのでしょうか?
◆友情のあたたかさと切なさをポップに描く
『ロボット・ドリームズ』は、1980年代のニューヨークを舞台に、孤独な犬「ドッグ」と、彼が購入し友情を育む「ロボット」の物語です。アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートを果たすなど、各国の映画賞などで高く評価されています。パブロ・ベルヘル監督は、元々実写映画の監督で、アニメーションに挑戦したのはこれが初めて。しかし、アニメーションならではの自由な創造性を発揮し、多幸感溢れる映像を作り上げています。
大都会のニューヨークで1人暮らしのドッグは、寂しくなって、ある日テレビのCMで目にした「友達ロボット」を購入することにします。ちょっとレトロな雰囲気で、歩行もできる自立型のロボットで、ドッグは彼とニューヨークのあちこちに出かけて行って思い出作りをするようになります。
ロボットがやってきて以来、ドッグの人生は明るく輝いたものになっていきました。ある日、2人は夏のビーチに海水浴に出かけます。しかし、水に浸かったせいでロボットは錆びて動けなくなってしまいます。重すぎて持ち帰れないので、その日ドッグは仕方なく1人で帰宅して、翌日回収しようと再びビーチに向かうと、そこは海開きが終了して閉鎖されていたのです。
誰もいない砂浜で孤独に暮らすことになるロボットと、来年の再会を心待ちにするドッグ。別々に過ごす1年で、ドッグもロボットも新しい出会いに恵まれていきます。そして、再び夏が巡ってきてビーチが開放されるのですが……といった内容です。
キャラクターデザインはとてもシンプルでかわいらしく、ポップな色彩感覚も心地よい、そして何より、友情の温かさと切なさが詰まった物語に、多くの観客が涙しています。見ていて、なんだか他人事とは思えないという感覚にさせられるのです。
人生は出会いと別れの連続です。「あのときの友達は今、どうしているだろう」と振り返ることは誰にでもあると思います。鑑賞中、そういうときの気分を思い起こさせてくれるのです。不意の別れで悲しみにくれるドッグも新しい出会いに恵まれたり、置き去りになってしまったロボットも数奇な運命で命を永らえさせることになるのですが、そういう展開が人生の不思議さみたいなものを、しみじみ感じさせてくれるのです。
こうした切なさも充分に描きながら、本作は明るい気持ちにさせてくれます。基本的には、ポップな描写が多く、テーマ曲となっているアース・ウインド&ファイアーの「セプテンバー」のさわやかな曲調もあって、楽しい気分で鑑賞できる作品です。
◆ロボット×友情という、日本人に馴染み深い題材
本作は犬とロボットの友情を描く作品です。登場人物は擬人化されており、動物キャラクターは皆、人間の代わりですから、実質、人間とロボットの友情の物語と見ることができます。日本でヒットしているのも、この題材に馴染みが深いからということもあるでしょう。
国民的な人気アニメ『ドラえもん』を筆頭に、日本のマンガやアニメは数多く、非生物であるロボットとの友情や絆を描いてきました。国産テレビアニメ第一号の『鉄腕アトム』にもそうした要素がありますし、最近では友情だけではなく愛を描くような『僕の妻は感情がない』といった作品もあります。
モノにも魂が宿るという感覚は、日本人にとって馴染みやすいもので、本作はそんな感覚を当たり前のものとして描いている点も共感を呼んでいるのでしょう。
これからの時代、ロボット技術やAI技術はますます発展していき、我々の生活にロボットは欠かせないものになっていくでしょう。「友達ロボット」のようなものも現実になるかもしれません。
そういう視点で本作を見ると、とても現代的なテーマの作品と言えますし、日本人の心の琴線に触れる要素が多々ある内容です。寒い年末年始に心を温めるのに最適な一本としてオススメできる作品です。
『ロボット・ドリームズ』
11月8日(金) 新宿武蔵野館ほか 全国ロードショー
監督・脚本:パブロ・ベルヘル 原作:サラ・バロン アニメーション監督:ブノワ・フルーモン
編集:フェルナンド・フランコ アートディレクター:ホセ・ルイス・アグレダ
キャラクターデザイン:ダニエル・フェルナンデス 音楽:アルフォンソ・デ・ヴィラロンガ
2023年|スペイン・フランス|102 分|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch|原題:ROBOT DREAMS
字幕翻訳:長岡理世|配給:クロックワークス
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