生成AIを活用したAIチャットボット型の検索エンジン「Perplexity」(パープレキシティー)。インターネット上からの情報源を用いて回答を生成し、回答文中に根拠となる情報源を引用する機能を持つ。その回答の早さと精度から、Googleに代わる検索エンジンとしても注目を集めている。ウォールストリートジャーナルが5月に発表した調査では、PerplexityがChatGPTやGeminiを抑える形で、AIチャットボット人気ランキング1位となった。
Perplexityは2022年8月に設立された。2015年12月設立のOpenAIや、2021年1月設立のAnthropic(アンソロピック)などの生成AIスタートアップと比べても後発にあたる。一方でPerplexityは、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏や、NVIDIAから出資を受けていて、新進気鋭の生成AI企業として期待が集まっている。国内では6月、ソフトバンクが提携した。
既にレッドオーシャンとなっている生成AI開発競争の中で、企業はどうすれば生き残れるのか。前編記事に引き続き、Perplexityのドミトリー・シェヴェレンコCBO(最高事業責任者)に聞いた。
●ジェフ・ベゾス氏の助言の真意は? 会社の健全性を測る指標
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――Perplexityのビジネスモデルは、有料版の提供によってマネタイズしていく形なのでしょうか。
その通りです。現在、Perplexityは主に3つのバージョンを提供しています。1つめは無償版。次にソフトバンクがユーザー向けに1年間無償で提供している「Perplexity Pro」。これはソフトバンクユーザー以外の人には、有償で提供しています。そして法人向けの「Perplextiy Enterprise Pro」があります。
そしてもう1つ、PerplexityのAPIを法人に提供することも、われわれのビジネスモデルにしています。このAPIのビジネスモデルも非常に伸びています。このPerplexity ProとPerplextiy Enterprise Pro、APIの3つで主にマネタイズしています。これらに加え、4本目の柱として、米国でいくつかのブランドとのパートナーシップを通じて、広告を展開しています。今後は広告も収入源になっていくと思います。
――今後はエンタープライズでの利用も伸びていくと思います。企業はPerplexityを使うと、どんなことができるようになるのでしょうか。
ナレッジワーカーが持っているリソースの中で、最も足りないのが時間です。そしてそのナレッジワーカーの上司というのは、常に「もっとこれをやってくれ」と言ってきます。こうした中でPerplexityを使うことによって、限られた時間の中で効率よく作業を進めることができます。そこの部分で手助けができると思います。
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――Perplexityには、Amazon創業者のジェフ・ベゾスさんも出資しています。シェヴェレンコCBOはジェフ・ベゾスさんにお会いすることはあるのですか。
お目にかかったことはあります。何時間も共に過ごしたわけではないのですが、限られた時間の中でいただいた助言は本当に有益でした。
――例えばどんな助言があったのですか。
マーケティングを考えるときには「とにかく独創的であれ」「クリエイティブであれ」と言われました。そして企業が成長を続けている時に、その会社の健全性を測れるのはリテンション率(顧客維持率)で、それがどれだけあるかが重要だということでした。一度われわれのユーザーになったからには、それらの人たちをずっと引き留める。それが企業の健全性を測れる指標であるから「そこに目を配れ」と言われています。
●競合になるサービスとは
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――iPhone16をはじめ、端末側にも生成AIが搭載される動きが出てきています。こうした動きを、どう捉えていますか。
多くのOEMが、デバイスにAIソフトウェアを組み込んでいます。それらのAIはインターネットで検索をかけるために使われるAIではありません。そのデバイスの設定の中で組み込まれているさまざまなローカルなデータを、AIが駆使する仕組みになっています。
そういった意味で、今後AIがデバイスに組み込まれるようになったとしても、われわれのような独立したサービスプロバイダーで、多様なプラットフォームから情報を得られる仕組みは、いつまでも支持されると思います。われわれのソフトに対してクエリ(命令文)をかける時は、さまざまなWebや外部情報からコンテンツを引っ張ってきますので、ローカルな個人データは不要といった違いがあります。
――最近ではGoogle検索でも生成AIの回答が上位に表示されるようになってきています。このサービスは競合になるのでしょうか。
米国で、Googleが検索結果の上位に生成AIの回答が出てくるサービスをローンチした際、実はPerplexityのユーザーが伸びたのです。同種のサービスで、ユーザーはGoogleよりPerplexityを選んだ結果となります。Googleはとても難しい立場にいると思います。彼らは広告収入の部分を死守しなくてはなりません。しかし広告収入中心のビジネスモデルでは、なかなか最良の回答エンジンが作り込めないと思います。
ユーザーは検索結果のリンクが欲しいときにはGoogleで検索する。そうではない、生成AIによる上質な回答が欲しい場合には、当社のものを使うというすみ分けが今後、広がってくると思います。ユーザーのニーズが変わってきているこの時代、Googleは既存の収入源を維持しつつ、さらに新しいところにもきちんとサービスを提供していかなくてはいけない立場にいます。私は、Googleが次なる世界に移行するのは難しいのではないかと思います。
――ウォールストリートジャーナルの調査で、PerplexityがChatGPTやGeminiを抑える形で、AIチャットボット人気ランキングの1位になりました。競合するLLMについてどのように見ていますか。
競合がいるからこそ、われわれも「自社のプロダクトをより良いものにしよう」と思って日々作業を進めています。当社はLLMの研究開発というより、アプリケーション、プロダクト開発に集中しています。これが例えばOpenAIの場合ですと、主にはLLMの研究開発会社になります。
われわれは、どのようにしたら彼らのモデル、特にファンデーションモデル(基盤モデル)をより強化できるかを考えています。
一方でわれわれは、プロダクトに特化した会社です。例えばPerplexity Proの利用者は、回答結果をGPT-4o、Claude 3.5 Sonnet、Claude 3.5 Haiku、Grok 2、そしてPerplexiy独自のSonar Huge、LargeなどのAIモデルに、ユーザー自身が切り替えることが可能になっています。
●スタートアップ経営者に必要な資質
――シェヴェレンコCBOは、MetaやLinkedIn、Uberなどいろいろなテクノロジーカンパニーにビジネスの立場でキャリアを築いてきましたが、現在の生成AIの動きをどう見ていますか。
最終的にこの生成AIなどの技術は、人の力を増強するために使われるものだと思います。将来的にはAIが自律的に、いろいろなことをやるというより、人間をスーパーパワー化させるものだと考えています。例えば生産性にしても、クリエイティビティにしても、今までの10倍、50倍、100倍の力が発揮できるように生成AIは手助けしてくれるでしょう。
ただ、生成AIへの最初の質問、すなわちプロンプトは人間が考えるものです。例えば先ほどの例では、ジャーナリストだったら、Perplexityにこういうふうに質問をすれば、回答結果がリストアップされることを見せました(前編記事を参照)。しかし、AIに対しどういった角度から質問をするかを決めるのはユーザー各自です。最初の質問はユーザーが決めて、その後に追加で20個ぐらい「こんな質問もありますよ」と手助けをするのが、われわれの技術だと考えています。
――シェヴェレンコCBOは、Tortoise(トートイズ)というスタートアップの創業者でもあります。起業家に必要な資質は何だと思いますか。
資質は3つ挙げられます。最初に絶えず努力し続ける諦めない気持ち。2つ目は「自分が目指すものは何だろうか」ということを明確に理解する。そして3つ目が、自分が持っている唯一の武器はとにかく早く動くこと、早くその目的に向かって進むことだと考えることです。
――これまで諦めそうになった時、何が支えになりましたか。
われわれは今Perplexityを運営しているわけですが、ご存じのように、競合他社は、何兆ドル規模の会社です。Google、Microsoft、Open AI、Amazon、Anthropicといった巨人達と戦うのは大変です。その中で何に勇気付けられるかというと、ユーザーからの「サービスが素晴らしいよね」という声です。
ユーザーからは、Perplexityを使うことでスマホやコンピュータの使い方が変わって、人生が変わったとコメントをいただきます。このようなファンの声がとても大事なのです。われわれとしては、特にこうしたロイヤルユーザーに対し、もっといいものを提供したいと考えていますし、勇気付けられています。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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